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第2話 美醜逆転世界
しおりを挟む魔王を倒した勇者をその世界の人間はどう思うだろうか?
下手をすると王族以上の権限を持ちかねない。
だからこそ勇者が何かをする前に。成した直後に。
雑すぎる術式で他の世界へと飛ばしたのだった。
それを理解するのにそう時間はかからなかった。
すぐに帰さないと自分が駄々を捏ねて帰還を渋るとでも思ったのだろうか。
いや、何もない次元の狭間に飛ぶ可能性もあったことを考えたらまだ運はいい。
前向きに考えよう。
「くそっ……絶対許さん。今度会った時は一発ぶん殴ろう。それとオナニーとセックスの時に必ずお母さんの顔が浮かぶ呪いを……」
浄化の魔法で全身にこびり付いた青黒い血液を消し去った。
「にしてもここどこだろう? 次元軸が同じならスキルも使えるとは思うけど――は?」
神話の女神様みたいな人がそこにいた。
目を見開く。
何この子超可愛い……僕の怒りが一瞬で霧散した。
今思えば怪しいことだらけだったとか、仲間をついてこさせなかったこととか。
色々考えてゴチャゴチャしていた頭が一瞬で静まり返る。
周囲の景色も白へ変わり、そこだけが別空間のような存在感。
圧倒的な美貌。思考も視界もその少女一色に染まった。
お互い何も言わずに沈黙する。
そりゃそうだ。僕からしたらエルフなんて目じゃないくらいの美少女がいたんだから。
彼女からすれば独り事を言う怪しい男がいきなり現れたって感じなのかな。
うん、そりゃ警戒もするよね。
「…………」
いや、というより唖然としてるな。
何が起こったのかまるで理解できていない。
警戒、じゃなくて驚いてるのか?
それにしてもここはどうするべきだろう。
何も知らない世界でどういう立場かも分からない人に話しかけるべきだろうか?
まず落ち着くべきだ。
自分がどういう状況にあるか分からない以上考え無しの行動は避けるべきだろう。
まず目の前の女の子から視線を外した。
そのまま能力を使用する。
<空間鑑定>
その空間の特殊効果、罠の有無に、立体的な構造の把握などができるスキルだ。
その効果を極限まで限定して拡大する。
世界を鑑定した。
―――
ディーネ。
女の美醜が逆転した世界。
短い手足、シミのある肌、弛んだ腹部、薄い臀部に胸部などが美しいとされている。
太った体は富と力強さの象徴。
中でも黒髪は美しいとされていて、神の使いとして崇められている。
その逆に白に近い髪の色は不吉の象徴とされている。
―――
「美醜逆転世界……ってやつかな」
実際に来るのは初めてだけど転移自体は2度目なのでそこまで困惑はない。
ラノベなんかでもこういう世界のことは読んだことがある。
異世界転移がある以上こういう世界があることに驚きはなかった。
ただ気になることがある。
女の美醜とだけ書いてある。
この手の世界は全部ひっくるめてだと思ってたけど、なんで『女の人』だけなんだろう?
この人もこの世界では不細工なのだろうか?
今更スキルを疑いはしないがそれでも来たばかりの世界だ。
検証は必要になるだろう。ただスキルが使える時点で世界的な軸は共通なのかもしれない。
ならおそらく帰還は可能だ。
「えーと、道に迷ってしまったんですけど――」
僕はひとまず目の前で固まってる美少女に声をかけた。
「えっ!? わ、わたっ、私ですか!?」
彼女は慌てて傍に落ちていた仮面を拾い着けた。
白い金属の仮面は目のところにだけ穴が開いている。
なんらかのマジックアイテムなのか留め具の類はついていないのに顔に張り付いたまま外れない。
彼女の顔を見れなくなったのを内心残念に思いながら名乗る。
「はい。あ、僕の名前はユウトって言います」
彼女が息を飲む。
何か信じられないものを見たかのように固まる。
「に、ニーナと、いいます……」
これが出会いで始まり。
僕と彼女の物語はここから回り始めた。
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