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第5話 意外と狭い世界
しおりを挟む黒崎加恋視点
『こんばんは、加恋さん。勉強は順調ですか?|・ω・。)チラッ』
あ、カナデさんだ。LEINからやってきた可愛らしい顔文字にちょっとほっこり。
そろそろ勉強のし過ぎで疲れてきてたんだけど、これでまたしばらく戦えるだろう。
順調だと伝えると、ちょっとお話しませんか。ってことで今の皆が何をしているのかって話題になった。
『最近はレンさんとブログ書くか、ラブさんと遊ぶことが多いですね。実はフレンドさんも一人増えたんですよ』
『おお、いいじゃないですか。優しくしてあげてくださいね』
新しいフレンドさんか。
楽しそうな奏さんの文面から読み取るに、良い人そうではあるけど……
『あの、お節介かもしれませんが、奏さんが男だってあまり周りに言わない方がいいと思います』
『あー』
奏さんって危機意識が薄いというか、男の人なのにガード緩いところあるし。
【グリードメイデン】のメンバー以外にバレたらちょっと大変なんじゃないかな? ってさ。
言っちゃえば奏さんが心配なのだ。だから気を付けてほしい。
『あ、そういえばランキングちょっと下がってたんですよ。最下位でした。悔しい(´ω`)』
ランキングというと闘技場かな?
最下位とは言っても上位300人の中でという話なので十分に凄い。
それでもやっぱり凄いですよ――と、私は言う。
『まあちょっとばかりズルですけどね』
『ズルというと?』
その言葉にほんの一瞬だけチートなんて言葉も浮かんだけどそれもすぐのこと。
奏さんがそんなことするはずないだろう。
続く言葉を待った。
『他のランカーの人達と比べて僕ってかなりプレイ時間少ない方なんですよ』
『fm?』
『こんなに要領よくていいのかなって』
『www』
普段謙虚な奏さんからやってくる思わぬ言葉だった。
ちょっと面白かった。それにあの告白をしてから警戒されてたんじゃ? なんて心配もあったけど、ようやく心を開いてくれたような気がして嬉しかった。
『私はPVPはちょっと苦手なんですよね』
『そうなんですか?』
私も何度かやったことはあるものの訳も分からない内にやられてしまった記憶がある。
いずれは、とは思っててもPVPへの苦手意識があるのも事実だった。
他プレイヤー達の勝負の観戦とかは結構好きだけどさ。
『でもオフ会の時に勝負したがってるとかなんとか言ってませんでしたっけ』
『そうでした。勝負したがってました』
そ、そうだった。勝負下着の件の時にそんなことを言って誤魔化したんだった。
今更嘘でした、なんて言うわけにもいかないので慌てて肯定する。
『前一緒に見た時に双剣使う人がいましたよね。なんかやたらとダメージ与えてましたけど』
『ああ、【クレア】って人ですね。今上位20人に入ってて凄い有名な人ですよ』
『上手い人は羨ましいです。双剣ってなんか動作が早すぎて分かり難いんですよね』
『ダメージ効率は最高ですよ双剣は。その分扱い辛さはありますけど……』
そうこうして盛り上がっていると、妹の声が聞こえてきた。
もうこんな時間か……奏さんと話していると本当に時間なんてあっという間だ。
LEINを終わらせてから、部屋を出た。
◇
夕飯時。妹の黒崎美咲がお箸の先に天ぷらをぶら下げながら発言した。
ところでさ――と。
「チャットが打ち辛いんだよね」
はむっ、と天ぷらを咥えて、私を見てくる。
もしかしなくても、これは私にアドバイスを求めてきているのだろうか。
「打ち辛いと言われても……」
「コツみたいなのってないの? お姉ちゃんだってタイピングが遅い時期くらいあったでしょ?」
そんなこと言われても……というかチャットの早い遅いなんて、慣れれば上手くなるよ。くらいしか言えない。
「序盤の所でクエストでもやってたら? 花屋に【シュシュ】ってNPCいない? あのクエストならマップの入口だけでお金稼ぎできるけど」
あのゲームの良い所は、順序さえ守れば無理に他のプレイヤーと関わらずにソロプレイでのんびりとゲームが楽しめる点だ。
長年親しまれているだけあって、始めたばかりの人にも比較的易しい難易度になっている。
初のネトゲで舞い上がって他のプレイヤーとの交流に目が行くのも分からないでもないけどね。
「ああ、違うの違うの。フレンドさんが凄いいい人達でね。せっかくならもっとスムーズに意思疎通したいなって」
「……え、フレンドできたの?」
「? うん」
早くない……? 私も初めてのフレンドが出来たのが、あれこれ悩んで引退を考えるくらい追い込まれてからだったというのに。
咲が始めたのって1週間も経ってないよね? いや、運が良かったらこのくらいなんだろうか? それとも私が遅過ぎただけ?
自分のネットコミュ力に疑問を感じていると「それでさ」と、咲が言ってくる。
「ないかな。こう、魔法みたいなやり方」
いやいや、そんな都合の良い方法があるなら、既に自分で実践をしてるよ。
だけど、そこまで考えたところで――あ、と思い出した。
「ボイスチャットは?」
「ボイスチャット?」
咲がオウム返しに聞いてくる。普段アナログ派の咲は知らなかったらしい。
なんか初心者の人に、始まりの街でアドバイス求められてる気がして悪くない。
私は鼻高々にスケイプについて教えてあげた。
「いいじゃん! なんでそれ皆やらないの?」
苦手な人とか抵抗のある人だっているんだよ。
通話をする人だって一定数いるけど、その逆も然りだ。ネットには現実と同じで色んな人がいる。
自身の声をコンプレックスだと言っていた一人の友達を思い出した。
「ふーん? でも便利そうだね。早速誘ってみる!」
「楽しそうだね」
「楽しいよ~、正直ネトゲなんてって馬鹿にしてたところあったけどさ、これは認識を改めないとだね。うんうん、世論に踊らされたら駄目だってことだね」
最近は廃プレイヤーとか引き籠ったニートの問題とか深刻だからね。
現実の男性に相手にされることなく、現実に絶望して二次元に逃げる女性たち。
丁度テレビではそんな感じのニュースをやっていた。
引き籠ったネトゲ廃人がどういう生活を送っているのかが液晶の画面に映っていた。
ゴミだらけの暗い室内で光るディスプレイをテレビの映像が淡々と流している。
すると、それまで成り行きを見守っていたお母さんが「それって本当に安全なの?」と、心配した様子で私たちを見た。
「やるなってわけじゃないけど、あんまり熱中し過ぎないでよ? 親としては心配なのよね」
「分かってるって。節度を持って、だよね」
お母さんの助言にも「だいじょーぶ」と、軽く答える咲。
立ち上がると、咲が流しに食べ終わった食器を持って行く。
能天気な背中姿を見て一抹の不安を感じてしまうのだった。
「ハァ、婿をもらえとまでは言わないけど、せめて健康的に過ごしてほしいのよ」
おっと、お母さん。その心配は完全に杞憂ってものだよ?
何故なら私の将来のお婿さんは既に居るんだからね。告白も済ませたし関係も順調に進んでる。
何の心配もいらない。奏さんを紹介してお母さんが驚嘆する日が楽しみだよ。
フフッ、と余裕の笑みを返したら、何故か不気味がられた。
解せない。
「ネットには変な人も多いから気を付けてよ? 詐欺とかもあるんだよ?」
「なぁに? そんなに危ないところなの?」
「あ、勿論ゲーム内での話だよ。アイテム取引でのマナー違反は多いからね」
お豆腐の味噌汁を啜りながら、心配だな~と、妹を見た。
咲も女なので大丈夫だとは思うけど、何かの事件がないとも限らない。
「人を見る目はあるから大丈夫だよ」
「自分なら騙されないって思ってる年寄りみたいなこと言うね……」
咲は心外だと、頬を膨らませた。
それは女がやっても可愛くない仕草だよ。
味噌汁にもう一度口を付けると、咲が言う。
「カナデさんもラブさんも本当に良い人だから大丈夫だって」
「ぶほっ!?!?」
自室へと戻っていく妹の背中。引き留めようとするけど、気管に入った味噌汁で咽返って上手く言葉が出てこない。
というか、え、待って待って。えっ、ま――――は!?
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