30 / 40
After12 たぶん勇者より勇気出した
しおりを挟む黒崎加恋視点
木枠の窓から夕焼けが差し込んできた。
陽の光が喫茶店内を照らしている。
こういう時は、もう一度深呼吸だ。
ついでに手のひらをにぎにぎする。
「あれ? 何かカナデこっちに来たよ?」
そう言われて振り返ると、確かにカナデさんがスマホ片手にこちらに近付いてきた。
ほんとだ。聞かれてないよね……?
咄嗟に声を抑えた。
「どうした?」
晶が声をかける。
オフ会も終わりが近づいてきた頃。カナデさんが不意に言ってきた。
「クロロンさん。少しだけ付き合ってもらえませんか?」
「なっ、え――ハッ!? ちょ、よ、ふぁ!?」
「落ち着けって……どっかついて来てほしいところがあるってことだろ?」
呆れたような晶の言葉。ああ、そういうことかと私も落ち着きを取り戻した。
「はい、そうですけど……どうかしました?」
「あーごめんね? ちょっと今クロロンはね……過敏になってるんだよね」
優良の説明に、過敏? と首を傾げるカナデさん。
確かに今のは過剰反応だったかも。
不審がられない内に、カナデさんを見て続きを促す。
「どこに行くんですか?」
私の問いかけにカナデさんは外を見る。
行きたいところでもあるのかな?
でも、カナデさんはこの近辺に住んでいるわけではないので、詳しくはないはずだし……
「お店の前で大丈夫ですよ。ちょっとだけ話したくて」
「なるほど、分かりました。先に行っててもらってもいいですか? 私もすぐに行きますので」
◇
「カナデさんも私のことが好きだったのかな?」
3人から一斉に「狂ったのか?」みたいな目を向けられる。
失礼な。
友人たちの視線に胸を張って答えた。
「いや、根拠がないわけじゃないよ? 今更改まって言うことって告白以外にありえなくない?」
完璧な理論な気がする。
私だけを呼んだというのはそういうことなのだろう……たぶん。
「加恋にとってはそうだろうけど、もっとあると思うよ?」
「だいぶ視野狭まってるな」
「これだから恋愛脳は」
一斉に否定される。でも、実際問題告白の可能性がないわけじゃない気がする。
そもそも二人きりで話したいなら真面目なことだと思うし。
……さすがに都合よく考えすぎだろうか?
「なんにせよせっかく向こうから二人になりたいって言ってくれてるならチャンスだと思う。伝えるならここだよね」
優良の言う通りだ。
勇気を出すなら今しかない。
私はカナデさんの待っている喫茶店の外に向かうため友人たちに背を向ける。
いよいよ告白。時間的にも最後のチャンスだ。
最後に後ろの皆にちょっとした頼み事をする。
「みんな、ちょっと気合い入れてもらっていい?」
「いいの?」
「うん、本気でおねが――『ズトッ!!』
…………
……………………
………………………………
扉を開けると、オレンジ色の光が視界に広がった。
喫茶店の前の通りでは同じような飲食店や色んなお店が立ち並んでいる。
いつもは人通りの多い夕方の時間。だけど今は偶然なのか人は少ない。
物寂しい夕日に照らされながら、傍にあるベンチに座ったカナデさんを見る。
近くの自販機で買ったのか飲みかけのジュース缶を片手に持っていた。
「ぅ、お……お待たせしました」
「……背中どうかしました?」
ヨロヨロと背中を抑える私を見て心配してくれた。
ダメージが大き過ぎてしばらく動けなかったんだけど……こういうのはムードが大事なので言わなくてもいいことだろう。
というか晶の一撃は本気で死ぬかと思った。
川の畔が見えた気がしたよ。
カナデさんの隣に少しだけスペースを空けて座った。
なんか距離が近すぎてソワソワする。
チラチラ隣を見ていると、カナデさんが何かに気付いたように言ってくる。
「クロロンさんも飲みます?」
「えっ……の、飲みますっ!」
食い気味に答えていた。
カナデさんのガードが緩いことは今までで散々理解してきたけど、まさか間接キスを許してくれる男性がいたとは。
内心の驚きを隠しながら努めて冷静な振りをして答える。
カナデさんは、どうぞと言って缶ジュースを渡してきた――未開封の物を。
「ですよねー……」
「もしかしてリンゴジュース苦手でした?」
「いえ……まあ、いえ……ありがとうございます……」
まさか飲みかけを期待していたとは口が裂けても言えず、私はカナデさんからジュースを受け取った。
プルタブを開けてちびちびと中身に口をつけた。
冷たくて美味しかった。喉が潤ったところでさっそく本題に入る。
「そ、それで、話というのは……」
上擦った声で、期待半分に聞いてみる。
本当に告白だったら嬉しいけど――
「改まって言うのもなんか気恥ずかしいんですけどね、ずっと言いたかったんです」
「ほ、ほぅ?」
「あのゲームで初めて出来たフレンドがクロロンさんなんですよ」
「……そうなんですか?」
思っていた話とは違ったけど、意外な事実に一瞬呆気にとられる。
カナデさんならもっと沢山フレンドがいると思ってたのに。
でも嬉しくないわけがなかった。
この人の初めてが自分というのは、それがどんなことであってもなんだかニヤニヤさせられる。
「お礼を言いたくてですね。ありがとうございます。嬉しかったです……本当に」
想像通りではなかったけど、カナデさんの嬉しそうな表情を見ていると、不思議と水を差す気にはなれなかった。
「いえ、そんな……私の方こそあの時は嬉しかったですっ!」
お礼を受け取るとカナデさんは「それとですね――」と、続けた。
「真面目な相談があるって言ってましたよね? もし他の皆に聞かれたくないことならって思ったんですけど」
……どうやら気を遣われてしまったらしい。
相変わらず優しい人だなと思った。
「……もう少しだけ話しませんか?」
「いいですけど、何をですか?」
「ほら、ビギナーの頃に色々手伝ってもらったじゃないですか」
カナデさんが懐古するように表情筋に嬉しそうな笑みを浮かべた。
それを見て色々な光景が脳裏に浮かんだ。
「あの頃はずっと一緒に遊んでましたよね」
「そうですね。お互いフレンドも少なかったでしょうし」
「ギルドに誘ってからは二人だけで組むことは減りましたね」
「ですね~」
友達のギルドに入ってからメンバーも増えた頃を思い出す。
教室の隅にいた晶や薫を誘ったりして……そのギルドにカナデさんも誘って……懐かしいなぁ。
「あの頃はボスが怖かったです」
「そうなんですか?」
「はい、でもカナデさんはボスに行きたがらない私とも毎日遊んでくれましたよね」
他にも色々遊びはあるって言ってくれて……それがきっかけでいつかはこの人と行ってみたいって思うようになったんだ。
「深緑の聖剣を作るときに場所間違えてたこと覚えてます?」
「あーありましたね。結構探したのに出なくておかしいなーってなってましたよね」
「ですね。ネットで調べたら隣のエリアだったとか」
「ははっ、あれは面白かったですね。笑っちゃいましたよ」
本当はあの時怒られるんじゃないかって怖かった。
アイテムの出現場所を調べたのは私だったし。
だけど、カナデさんは怒らなかった。草を生やして笑ってくれた。それが何だか嬉しくて私も一緒に笑ったんだっけ。
「最近だと炎帝装備も作りましたよね」
「ああ、炎の魔龍ですか。ずっと通いましたね」
「いつも周回に付き合ってくれましたよね」
「こう考えるといっぱい遊びましたねー」
「……私はまだ遊び足りませんよ?」
「お、今日の夜もやります? なんでも誘ってくださいよ」
男の人だって分かってからも色々あった。失礼なこともしちゃったけど、この人はそれも許してくれたんだ。
貴方にはまだいっぱい話したいことがあるんです。
色んなことを伝えたい。沢山の話題が浮かんでくる。
ずっとずっと一緒にいたい。ゲームでも、リアルでも。
グッと高鳴る鼓動を抑え込む。
「カナデさん。それなら――」
名前を呼んで立ち上がる。
空き缶がカランと音を立てて転がった。
カナデさんが身を屈める。その缶に向けて伸ばされた手の先を私の両手が握り締めた。
「クロロンさん……?」
感情をのせた言葉。それを、一息に伝えた。
「わ、私と付き合ってもらえませんか?」
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる