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After4 イメージアップ
しおりを挟む黒崎加恋視点
「一肌?」
「なにするの~?」
すると百合はスマホを取り出し何かを操作する。
画面を見せてきた。
「なにこれ? DM画面?」
【DOF】というゲームは相手へとスマホやパソコンを介してログアウト時の相手にも直接メールのようなものを送ることができる機能があった。
いわば【DM(ダイレクトメッセージ)】というものだ。
これはスマホだろうと【DOF】のアプリ版をダウンロードしてる人なら誰でも利用できる機能だ。
私は緊急の用件や、ちょっとした約束事をログアウトしている相手に伝える際に使用していた。
簡単にまとめると【DOF】ユーザー専用のメールみたいな感じ。
「これで私たちのイメージアップをするんだよ」
「ん……? ごめんちょっとよく分からないかも。どういうこと?」
優良も小首を傾げている。
「例えばね、これで私が加恋のことを凄い美少女で優しいとか学校でモテモテだとか言ったとして、それをカナデさんが聞いたらどうなると思う?」
それなら私のイメージを上げることも可能ってこと……だよね。
まあ多少の懸念はあるけど百合の言う通り私が動くよりは評価が上がりやすいと思う。
第三者からの他者に渡る情報は信用しやすいってどこかで聞いたし。
「どう? やる価値あると思わない?」
「……百合がやるの?」
私が恐る恐る問うと、百合は「私が不安なら別に優良でもいいけど?」と、そちらを見る。
優良の真っ直ぐ見つめてくる瞳が薄暗い穴を覗いてる気分になった。
いやいや……こっちは駄目だ。優良は天然行動が怖いし、不安要素が多すぎる。
ここは自分の直感を信じよう。
私は再び百合に目線を移す。
「私だってやるときはやるよ~?」
何のアピールなのか力こぶをつくってきた。
知ってる。やるの意味は違うけど。
「うん……まあ、うん」
私の素っ気ない態度に心なしか優良がダメージを受けたような顔をした気がしたが気のせいだろう。
「じゃあ私がやってみるよ?」
「百合はまあ……ちょっとアドリブ下手なところない?」
以前のチャットHでのやり取りは恐怖すら覚えた。
他の誰に頼もうとも、この二人だけには不安が残る。
するとさも心外だと言わんばかりに不満そうな声が聞こえてきた。
「ちょっとは信じてよ。大丈夫。絶対成功させるから、ね?」
「勿論信用はしてるよ? あ、それなら私が送信内容を文章にして、それを百合がメッセージでそのまま送信するっていうのはどうかな?」
「信用とは」
まあこれはさすがに手間が掛かるしやり辛いけどさ。
さらに不満そうにする百合。ごめん……でもやっぱり百合に任せるのは……
友達を信じたいと思う良心、自分のためにもやめておけと叫ぶ本能的な危機意識がせめぎ合ってる。
「なーんか釈然としないけど……LEINで聞いてみる?」
百合がスマホを操作するとポップな通知音が私のスマホから鳴り響いた。
さっそくLEINで意見を聞くらしい。私もそちらに目を通す。
『加恋のイメージアップしたいんだけど、協力してくれない?』
ぴろりん!
『なにが? 何かやるの?』
『DMでのやり取りでさりげなく加恋を褒めればカナデさんからの印象良くなるんじゃ? って思ったんだよね』
『fm、単純だけどありだと思うよ。加恋はなんて?』
『私と優良が送信するのは怖いから他の人に頼みたいって』
『英断だね』
『ナイス緊急回避w』
買い物中だからもしかしたら既読付かないかもと思ってたけど杞憂だった。
LEINによるとやっぱり皆も同意見。
私も友達は信じたいけど適材適所って言葉もあるわけで……
だけどさすがに悪い気がしてきたので私もフォローに入った。
『ごめんって、だけど苦手分野は仕方ないよ』
『うーん、それなら誰が送信するの?』
『加恋が直接やる形じゃ駄目なのか?』
それまで見守っていた晶がLEINの会話に加わる。
『百合のスマホ借りて送信したら間違えようもないだろ』
続く晶の言葉を何度も脳内で反芻した。
確かに私が直接やった方が確実と言えば確実だ。
でも、自分で自分を褒めるのは……んーどうなんだろう。
「ん、やってみる?」
現実の方でスマホを差し出される。
『あとで結果教えてね!』
『ワクワク♪_( _・∀・)_』
自分で自分を褒めるというのはちょっと抵抗があったりする。
恥ずかしいというのもそうだし、何より嘘をついてるみたいで気が引けたり。
後者の理由に関しては今更感はあるんだけどさ。
だけどそうして逡巡してる間に百合が私の肩を叩いてくると、そのまま快活に笑ってきた。
「大丈夫だよ。何かあってもなんとかなるって」
気楽にいこうと笑う百合に元気を貰えた気がした。
なんだかんだで応援してくれてるんだよね。
しっかりと頷き返す。スマホを握る手にも力が入った。
「そうだね。うん、やってみるよ」
気負うことなく勢いに任せてDM画面を開いた。
他の人のスマホって何か変な感じする。タッチする位置が微妙に違う気がして何となく違和感。
ちょっと遅れながらだけど拙い動きでなんとか文章を打ち込み送信する。
『こんにちは~』
『お、りんりんさん、こんにちは。どうしました?』
数分ほどで返事がやってきた。
カナデさんはこういう返事も小まめにしてくれるから安心できるんだよね。
話してて楽しいし……最近私の中でカナデさんが何をしても好感度上がってる気がする。
「……カナデさんと話すのそんな嬉しいの?」
「ん?」
「顔だよ顔。すごいニヤけてるよ」
む……意識してなかった。言われてみれば表情筋が緩んでる。
だけどそれは仕方ない。好きな男の人と話してなんとも思わない女なんているわけないんだし。
『クロロンのことなんですけどね』
緊張気味に自分のキャラ名を口にする。
今の状況は百合(りんりん)のスマホでクロロンの話題を口にする私という構図か。
ややこしいかも。間違えないように注意しないと。
『クロロンさんのこと? 何かあったんですか?』
『いえ、クロロンは元気でやってますよ。ただちょっとクロロンについて話したいな~と』
百合が隣で「私の方が上手いと思うけどな~」なんて思っていそうな顔をして腕を組んでいる。
私もぎこちなくはあるけど、百合よりはまともだと思う。そこは自信を持って言える。
けど自分で自分のことを話すことがこんなに違和感だとは思わなかった。
若干の戸惑いを覚えつつ、早速好印象を与えるための話題を考えていると、カナデさんが続けてくる。
『ずっとクロロンさんのこと心配してましたもんね』
『そうでしたっけ?』
『珍しくって言ったらあれですけど、かなり真面目だったじゃないですか(。-∀-。)』
『そうですか……』
『ふむ?』
あ、不味い。
咄嗟に相槌を打つ。
『いえ、そうでしたね。クロロンのことは大丈夫そうですよ。色々ありがとうございます』
危ない危ない。そういえば今朝に私のことを心配してたみたいに言ってた。
あの時は冗談みたいに言ってきたから意識してなかったけど……思えば二人きりになるようにしてくれたのも百合だったっけ。
百合を見ると、どことなく居心地が悪そうにしている。
「か、加恋、そんなことよりイメージアップだよ」
照れ臭いことを誤魔化すように、慌てて促してきた。
ワタワタと落ち着きなくジェスチャーを送ってくる様子が可笑しくてちょっと笑ってしまった。
『カナデさん』
『ん?』
『んーと……』
色々考えて言い淀んでしまう。
両隣では心配そうにこちらを見つめてくる友達の姿がある。
正直失敗がチラついた今はオフ会が怖い。
たぶん私は嫌な未来から逃げてるだけなんだろう。
未来がどう分岐するかなんて分かりっこないし、もしかしたらどう足掻いても結果は変わらないのかもしれない。
きっとそれが怖かったんだ。
だけど、確かなことだってある。
息を大きく吐くと、話題を変えた。
『オフ会楽しみですね』
『ですね~』
そのメッセージを確認するとスマホを百合へと返した。
百合の手で咄嗟にそれが受け取られる。
「色々ありがと」
「ん? あれ、もういいの?」
「うん……ほら、前のチャットミスのこともあるしさ、やっぱり顔見えないからって好き放題するのは良くないかなって」
それにこのままウジウジしてるのも皆に悪い。
俯いてた顔を上げて立ち上がると、心なしか広くなった視界で二人が私を見上げるようにしていた。
「……何か吹っ切れた?」
「お陰様でね」
今度は自分のスマホでLEINを開いてメッセージを確認する。
未読メッセージから既読メッセージまで今日の分に目を通す。
『加恋上手くいくといいね』
『とりあえず失敗した時の二番手決めとこうか』
『縁起悪いw』
いつものLEINグループのメンバーたち。
少し前までは気付かなかったけど、私を気遣ってくれるLEINメッセージもいくつか確認できた。
皆だってカナデさんが大好きな癖に応援してくれてる。
お人好しな友達ばっかりだった。
そうだよね……後悔なんてしたくない。
ここで下を向いて落ち込んでるくらいなら前を見よう。
私にはカナデさんだけじゃない……頼もしい友達だって沢山いるんだから。
『皆! 私頑張るよ!』
『お? 何かやる気に?』
『イメージアップ作戦上手くいったの?』
『それは上手くいってないけどもう大丈夫。何かいける気がする』
『お、おう?』
『よく分かんないけど元気出たみたいで良かったよ』
『うん(´∀`)b』
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