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七大罪
第34話 ニム
しおりを挟む少し離れたところで果実水を飲む。
さっぱりしていて美味しい。
一息ついてるとそんな僕に姫木さんが聞いてくる。
「なんて言ったんですか?」
「なにが?」
姫木さんの質問に僕はそんな言葉を返す。
「とぼけないで下さい、どうせまた妙なことでも考えてるんでしょう?」
妙なこととは酷いなぁ。
僕は苦笑を浮かべる。
「私はてっきり佐山先輩のことだからイカサマでも使って勝ちに行くんだと思ってました」
「わ、私も……」
栗田さんと秋山さんもそんなことを言ってくる。
味方がいないのだろうかここには。
というかみんなの中で僕はどういう人間なんだろう?
「イカサマ……って、言っていいのかは微妙だけどズルしてたのは向こうだね」
え? と、みんなが困惑するような声を出した。
「あの、よく分からないのですが……どういうことです?」
んー……と、頭を捻って整理する。
特にもったいぶるようなことでもないので簡単に説明した。
「僕はあの人に『4、25、酒場で待ってます』って言ったんだ」
「?」
頭に疑問符を浮かべる皆。
うん、今のはさすがに言葉が足りなかった。
「25って言ったのは落ちてた石の数なんだ。酒場でって言ったのはバラされたくなかったら来てほしいって意味だね」
「あのー……つまり?」
秋山さんがおずおずと手を上げる。
可愛らしく首を傾げる秋山さんに分かりやすいように伝える。
「1~3を交互に取っていくゲーム。落ちてる石の数が25なら後手が必ず勝てるんだ」
「すいません、もうちょっと詳しく……」
む、ここまで言って分からないということはゲーム自体を知らないんだろう。
秋山さんと栗田さんがそのゲームを知らないのもちょっと意外だし、優等生の姫木さんが思いつかないのも意外だった。
「僕たちのいた世界ではニムって呼ばれてるゲームだね。例えば1~3を先手の人が取るとして、後手の人は4を必ず取れるでしょ?」
「ですね。そこは分かりますが……」
「4を取れるなら次の後手で8が取れるっていうのは分かる?」
「……ですね」
うん、ここまで分かればもう分かるだろう。
それなら―――と、続ける。
「次もその次も必ず後手が4の倍数を取れるようになってるんだ」
あ―――と、3人が同時に声を出した。
気付いたようだ。
「24は4の倍数。だから後手が24を取った時点で先手の人は25を取るしかなくなるってわけ」
「あー……言われてみれば」
気付いたら結構単純だよね。
知っていれば小学生だろうと負けようのないゲームだ。
知らなかったら意外と気付かないゲームでもあるんだけどね。
子供の頃はこれでよく遊んだ。
「あれ? でもあの人たち先手後手は挑む方が決めてたみたいなこと言ってましたけど?」
「必勝法を知らなかったら後手だろうと負けることはあるからね」
ちなみにこのゲームを2、3回見た人が気付く可能性は低いと思った。
この世界で数学の知識を持ってる人は少ない。
王城で色々教えてもらう内に知ったんだけど、この世界は僕たちの世界ほど教育機関が普及していないんだ。
そのためこの世界の人たちはそういう計算に弱いんだろう。
それは僕よりあの賭博師の男の人の方が良く理解しているはず。
人を集めてあんな風に勝負したってことは自信があったってことなんだと思う。
「つまり……相手が外した時点でその人は4の倍数を取っていくという」
うん、と僕は肯定の意味を込めて頷く。
「一人一回まで、観戦するのは2戦までってルールがあったのはさすがに何回も同じ手を使えば分かる人が出てくるんじゃないかってことだね」
先手後手を挑む側に選ばせていたのは一見して公平なゲームに見せるためだろう。
さすがに毎回後手だけを選んで勝負していたらどこかでバレていたと思う。
先手か後手かを選ばせてもらえたことでパッと見は妥協してるように見えるってわけだ。
仮にバレたとしても失うのは1回分の賭け金だけっていう考えもあったんだろう。
勝てた人がいたのも偶然じゃない。
あの人はわざと負けたんだ。
これに関しては確証はない。
もしかしたら本当に挑んだ人の中で全部理解したうえで勝った人もいたのかもしれない。
それは否定できないけど僕はそれは挑む側にとって必敗じゃないことを印象付けるための行動だったんだと思っている。
さすがに一人も勝てないなんてことになったら挑む人自体いなくなっちゃうからね。
「でもそれってバレた時のリスクが高すぎませんか? あんなに大きな金額が動くゲームなら負けた人たちがそれを知った時に何か言ってくるんじゃ?」
「ないことはないけどその可能性も低かったと思うよ? そのために賭け金をあれだけ高い金額に設定してたんだと思う」
あの人にとって気付かれることはそこまで問題じゃない。
気付いた人がどうするかが問題なんだ。
「んん? な、なんかまた分からなくなってきました……どういうことです?」
負けた人は確かに負けた時点でもう勝負は出来ない。
だけどもしまだ勝負する権利が残ってる人がそれに気付いたらどうするか?
仮に僕がその立場なら誰にもそのことを言わずにその必勝法で勝ちに行く。
まだ勝負をしてないならバラしたところで自分は損も得もしない。
それなら黙ったまま無知を装って賭けに勝つ。
それが大金であればあるほど余計にそう思うはずだ。
相手に必勝の後手を決める権利を譲っていたのはそういう狙いもあったんだろう。
気付いた人がそれを言い触らすよりも得をする状況、必ず勝てる状況を作った。
「ふむふむ……」
賭けに勝った人が勝負をした後で言い触らす可能性……これも少ないだろう。
なぜならその人は賭けに勝ってるから。
場が混乱することで利益が有耶無耶になるのはその人にとっても本意ではないはずだ。
その方法に気付けるような人がこれに思い至らない可能性も低い。
勝った後で欲をかいてもう一度、なんて言われないためにも一人一戦のルールは必要だったんだ。
「………」
ほかにも怖いのは負けた人がそれに気付くパターン。
だからこそ勝負した場合はすぐに離れてくれなんてことを言ったんだ。
落ちてる石の数を明言していなかったのもその場にいる人が必勝法に気付く可能性を少なくするため。
そして、それ以上に負けた人が離れた後でそのことに気付く可能性を潰したかったから。
「はい!」
「ん? なに?」
「分かりません!」
「力強いね……」
栗田さんはどうやら脱落らしい。
秋山さんと姫木さんがなんとかついてこれてるけど大丈夫だろうか?
と、そこで秋山さんが聞いてくる。
「た……確かにそうかもしれません……でも、それは分かったんですけど……なんで酒場で会う約束を?」
「ああ、あの人結構高齢なエルフだったからさ。スキルや強い人の情報知らないかなーと思って」
え!? と、3人が一斉に驚いた。
神眼で鑑定したから分かったことだ。
そのことを説明すると皆は……特に秋山さんはエルフという種族に対してテンションを上げていた。
「向こうも商売だろうからね。他にもネタは色々知ってるだろうけど僕が言い触らした時点で損にはなる」
「……あの、それならその場で勝負すればよかったのでは? 挑む方が順番を選べるゲームで勝ち方が分かってるなら佐山さんが勝つのでは?」
「いやいや、そんなことしたら一回分のお金しかもらえないじゃない。それに勝って情報聞けても大したこと聞けないよ? その場限りじゃない行動はあの人が一番嫌がるパターンだし」
「……ん?」
「んんん?」
と、栗田さんだけでなく秋山さんもよく分かっていないような顔をする。
だけど唯一姫木さんだけは気付いたようだ。
「まさか……」
「勿論良い情報を貰えなかったら黙秘することと引き換えにたんまりもらうよ? 少なくとも5戦分くらいはほしいよね」
あの人が最も嫌がる状況。
それはまだ権利を残した人が気付く場合でも、まして賭けに負けることでもない。
悪意のある人間がそれに気付くパターンだ。
バラされたくなかったら利益を寄越せってね。
あれだけ稼いだ後でなら嫌とは言えないだろう。
全額は渡さないと思うけどそれでも半分近くは貰えると思っている。
あの人もそのくらいのリスクは承知の上だったはずだ。
ゲームで勝ったのは良かったんだろうけどあの人は勝ちすぎた。
この世界にもクレーマーくらいはいる。
想定外だったのはその最悪の状況が本当に起きてしまったということだろう。
ちなみにあの人がこの状況を全て投げ出して逃げるという可能性。
それを潰すために僕は酒場という場所を指定したんだ。
あの人がゲームをしていたのは酒場の前。
逃げるような気配を感じたら僕は即座に言い触らすぞ、ってことを暗に伝えた。
あの人が逃げ切れる可能性……なくはないけど、その可能性も低い。
僕は強化スキルで脚力を強化できるし、神眼スキルであの人が逃げれるようなスキルを持っていないのは確認済みだからだ。
「……佐山さん、意外とえげつないですね」
という秋山さんの呟きに同意するように二人が頷いた。
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◇
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