神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸

文字の大きさ
上 下
32 / 43
七大罪

第32話 遠視

しおりを挟む





「無理……もう無理です……とりあえず無理です……」

 秋山さんがいつだかの僕みたいなことを言っていた。
 僕たちが今いるのは馬車の中。
 僕、姫木さん、栗田さん、そして、絶賛馬車酔い中の秋山さん。
 
「秋山さん大丈夫? 少し止めてもらおうか?」

 秋山さんの背中を撫で擦りながら声をかける。
 大丈夫……じゃないような大丈夫なような……あ、やっぱり無理……と、葛藤してる言葉が返ってくるんだけど秋山さん明らかに無理してるよね……ていうか無理って言ってるし。
 キラキラしたものが出そうになっている。
 僕としては出した方がすっきりすると思うんだけど、女の子には意地があるんです……とか言っていた。
 確かに女の子がキラキラするのは抵抗があるんだろう。
 男にもあるけど女の子の方があると思う。
 だからなのか秋山さんは必死に耐えていた。

「治癒スキルは?」

「さっきからやってるんだけど効果薄いみたい」

 王城を出発してからもう4日。
 秋山さんは今だに馬車に慣れていない。
 1日目あたりはファンタジーっぽい! とか言ってそれなりに元気だったんだけどね。
 
「それにしても仲間……見つかるでしょうか?」

 栗田さんの言葉に「んー」と、返事とも言えないような言葉を返す。
 僕たちがなぜ王城を出たか。
 それは、魔王を倒すため。
 そのための強い仲間を探すため。
 そして、父の手記に書かれていた―――死者の蘇生。
 セラさんが禁書庫から持ってきてくれたそれに書かれていた禁忌のスキル。
 もしも……それが本当に叶うのなら、僕はもう一度リリアに会いたい。
 会って話したい。
 リリアに、あの言葉に対して自分の気持ちを伝えたい。
 だけど、正直どうすればいいのか……手がかりすらないのが現状だ。
 魔王を倒す旅……そして、その死者の蘇生ができるスキルについて調べる。
 それがこの旅の目的だ。
 色々装備やら食料やらお金に衣類なんかの餞別は貰っている。
 だけど無限にあるというわけでもないのでどこかで稼がないといけないときは来るだろう。
 不安はある。
 授業である程度の常識は習ってはいるけど果たして僕たちだけでやっていけるだろうかと。
 皆がいるから心強いことは心強いけど。
 そして、この旅だが……勿論なんのアテもないわけではない。
 この世界にも冒険者という存在がいるらしく、その冒険者組合の本拠地……ようするにギルドだね。
 世界最大規模の冒険者ギルドがある冒険者の街グラントニオへ向かっていた。

「うぅ……まだですか?」

「まだ半分も来てないよ」

 それと無断で禁書庫を開けたセラさんだけど……逃亡中だ。
 あの人ほんとに半端ない。
 自由すぎる。
 いや、今僕結構サラッと言ったけど普通にあり得ないことだと思う。
 個人が文字通り国レベルの権力から逃げるって……だけど、セラさんだから何とかなりそう……と思うのはやっぱりあの人がセラさんだからなんだろう。
 ただ……セラさんが僕に伝えた予言。
 それが一番気がかりなところだ。
 僕は世界と少女を天秤にかけて少女の方を選ぶと……僕が破滅を選ぶと言っていた。
 果たしてそこまでするだろうか。
 セラさんはまず間違いなく的中すると言ってたけど……今は何とも言えない。
 あのセラさんが根拠のないことを言うとは思えない。
 だけどああは言ったものの的中するか分からないのが予言というスキルのはずだ。
 未来が絶対当てれたら苦労しない。
 だから、僕はその予言に関しては未だに行動を起こすことが出来ていない。
 しかし、なんにせよ情報は必要だった。

「あの、ほんとに休んだ方がいいのでは?」

「うぅ……でも……」

 リリアの死は僕たちに少なくない衝撃を与えていた。
 僕は勿論のこと秋山さんの中でも何かしら思うところがあったようで……まあ、それはそれとしてさすがに無理は良くない。
 休めるときに休まないと駄目だと思う。

「すいません、この近くに休めるような場所はありませんか?」

 御者の人に聞いてみる。
 するとタイミングよく村があったらしい。
 そこに止めてもらった。

 そうして小さな村に馬車を止める。
 西部劇場みたいな感じの村。
 だけど人は結構多かった。
 グラントニオに行く人が多いのか皆冒険者みたいな装備をしている。
 御者の人は馬を休ませて馬車を簡単に点検していく。
 僕たちも秋山さんを休ませる。

「うぅ……」

「どこかから水でも貰ってきます」

「飲み水なら残ってるでしょ?」

「いえ、どうせなら冷たいものがいいかなと思ったので」

 なるほど、確かに酔ってるときに生温い水というのも可哀想だ。
 姫木さんと栗田さんはそのまま酒場の方へと向かっていく。
 僕は秋山さんを一人にはしておけなかったのでこの場で待機だ。

「ぅう……すみません、佐山さん……」

「気にしなくていいよ。今はゆっくり休んでて」

 そうしてしばらく秋山さんの隣でボーっとする。
 人は疎らだけどいないわけじゃないらしい。
 と、ふいに気になった。
 とある大きな一軒家の前に小さな人だかりができてる。
 いや、違うな……あそこは、酒場かな?
 なんだろう?

「秋山さん、ちょっと頼んでもいい?」

「な、なんですか?」

「あそこ見てほしいんだけど」

 見てほしいというのは秋山さんの習得した新しい力のことだ。
 
 ―――『遠視』。

 僕が言うことでもないけど物凄く強い力ってわけじゃない。
 スキルではなく魔法なのだそうだ。
 目が良くなる力。
 うん、まあ地味だよね。
 だけど秋山さんは初めて魔法を覚えることが出来たと喜んでいたので水を差す必要もないだろうと思っている。
 実際こうして役立つ場面もあるんだしね。

「……なにか、やってますね」

「なにかって?」

「地面に落ちてる……石ですかね? それを拾い合ってます」

「石?」

 何それどういう状況?
 気になったけど秋山さんを置いていくわけにもいかない。
 ううむ、歯がゆい。
 と、その時丁度姫木さんと栗田さんが戻ってきた。

「果実水を貰ってきました。飲めますか?」

「あ、ありがとうございます……」

 栗田さんから受け取り喉を鳴らして飲んでいく。
 だいぶ楽になったようだ。
 顔色も良くなっている。

「あの……あっち行ってみませんか?」

「え? もういいの?」

「だ、大丈夫です……だいぶ良くなったので」

 それに……と、秋山さんが言う。

「私も気になりますし」

 ふむ……本人がそう言うなら大丈夫なんだろうか?
 それに僕も気になるし……
 そんなわけで僕たち4人はその人集りの方へと行ってみた。



しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~

細波
ファンタジー
(3月27日変更) 仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる… と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ! 「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」 周りの人も神も黒い! 「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」 そんな元オッサンは今日も行く!

処理中です...