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勇者召喚

第27話 死の未来

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「はははっ、これは傑作だ。まさか? まさかまさかまさか? 私をぶっ飛ばすと? そう言ったのですか?」

 僕はその声に答えることなくセラさんの剣を拾い上げた。
 あれだけの衝撃でも刃こぼれをすることのなかった剣。
 
「それで? どうしますか? 強欲でスキルでも奪いますか?」

 強欲のことまで知ってる……つまり、それは本当にリリアを操っていたということ。
 彼女の心を操って、僕の情報を引き出したんだろう。
 剣を握りしめる。
 血が滲んできた……痛みもある。
 だけど、不思議と気にならなかった。
 落ち着け……頭は冷静に……無策で勝てる相手でもない。
 まず挑発通り強欲で奪うことは可能だろうか?
  無理だろう。相手はスキルを反射したスキルを持っている。
 それに色々考えてはみたけど、強欲は無理だ。
 今は使えない―――ある理由で。


 ――――――


 佐山悠斗(人族)

 17歳

 Lv6

 生命 510
 
 攻撃 120

 防御 130

 魔力 190

 俊敏 110

 幸運 235

 スキル 神殺し、神眼、偽装、強化、治癒、成長、隷属、強欲、魅了

 加護 アルマの加護


―――――――


 今更ではあるけどレベルをもっと上げておくべきだった……本当に今更だな。
 僕はスキルを使えない。
 なぜなら反射する力がどの程度の効力を持つか分からないから。 
 いや、違う……冷静になれ。
 今僕は相手の手のひらで踊らされてる。
 なぜあの魔族はわざわざ反射を伝えてきた? 本当にノーリスクでスキルを反射できるなら、黙っていればいい。
 そうすれば勝手に相手は自滅する。
 喋ったのは明確な利が存在するから。
 つまり、あの魔族は僕にスキルを使われると困るんだ。
 だからこそあれほどベラベラとスキルのことを口にした。

「反射だっけ?」

「はい?」

「スキルを反射するのってさ、もしかして時間置かないと無理だったり? あるいは自分にしか使えないとか」

「くくく、いいことを教えてあげます。反射にそのような条件はありません。再使用時間もなし、誰に対してでも使えます」

 ……よし。
 半々くらいの確率だったけど、最初の賭けには勝った。
 あの魔族を神眼で鑑定したときに言っていた言葉。
 神眼については反射が失敗したと言っている。
 僕はリリアには神眼について教えていない。
 なら僕が言葉の嘘を見抜けるとは知らないはずだ。
 そして、失敗したという言葉から神眼が成功する確率は高かった。
 言葉の嘘を見抜いたことで僕はひとまず安堵する。
 反射スキルに再使用時間はある。誰にでもは使えない。
 
「………チッ」

 初めて笑みを消したカルラ。
 だけど―――

「ハァ……やめましたよ。小賢しい貴方は普通に殺します」

 短剣がふわりと音もたてずにくるくると回り始めた。
 
「セラ・グリフィスの剣戟すらも防ぐ速度で動き回る短剣です。低レベルの勇者には防げないでしょう」

 短剣が超速で飛んでくる。
 反射が今回効力を発揮することはないだろう。
 憂いがなくなったところで、遠慮なくスキルで全身を強化、治癒スキルを全力で使用する。

「魅了」

 全力全開の魅了スキル。
 カルラと目を合わせて短剣で僕を狙うことをやめさせる。
 だが……

「く、ははははは! 無駄ですよ!」
 
 一瞬だけフラついたものの失敗した。
 リリアは言っていた。
 レベル差などで影響を受けると。
 確かにこれだけのレベル差があるのなら成功率は高くなかったんだろう。
 魅了で操れば勝てるという賭けに関しては僕の負けだった。
 短剣は目前。
 僕はそれを―――
 
「悠斗様ッ!?」

 リリアの驚愕したような声が聞こえてきた。
 魔族の男も何が起こったのか理解できてない。
 簡単だ。
 僕は避けなかったんだ。
 心臓の前面を剣で隠す。
 心臓部分を剣でガードした。
 ほかの短剣は僕の肩、腹、太もも、足に突き刺さった。

「ッ……魅了!」
 
 僕は再び魅了を発動した。
 魔族の男へ―――ではない。
 剣に映った自分の目を見る。
 そして、自分の深層心理へ命令を出した。

 ―――あらゆる痛み感じるな、と。 

 だから僕は止まらない。
 治癒スキルを全開にしたまま魔族へと向かっていった。
 
「な―――ッ!?」

 さすがに怯みすらしないのは予想外だったんだろう。
 カルラが目を見開いた。
 セラさんは言っていた。
 僕は心臓を貫かれて死ぬらしい。
 

 ―――なら、心臓以外への攻撃で僕が死なないのは十分ありえるのではないだろうか。


 その瞬間が来たなら心臓だけをガードすればいい。
 スキルの予言……セラさんは最後に言っていた。
 8割当たると。
 心臓で8割死ぬなら、ほかの場所で死ぬ確率は2割以下しかない。
 
 勿論穴はある。
 セラさんも言っていた通り確定ではない。
 心臓への攻撃を防いだとして、ほかの急所への攻撃が僕を死に至らしめる可能性もある。

 カルラは僕を完全に格下としてみていた。
 だから短剣を全て攻撃に回した。
 そして、それは致命的な油断でもあった。

「く―――ッ! 操」

 相手が何かしようとしたのを再度の魅了でやめさせる。
 おそらく心でも操ろうとしたんだろう。
 だけど、僅かに僕の方が早かった。
 短剣で殺せると思っていたからこその遅れ。
 一瞬……だけど僅かでも効果があるなら隙が生まれる。
 カルラが刹那意識を飛ばした……が、文字通り次の瞬間には元通りになっていた。
 だけど、強化した僕の脚力はその一瞬でカルラの懐へと入り込む。

「ッ!」

 僕の振り下ろした剣はカルラの体へと入っていく。
 強化スキルで上昇した筋力が肉を斬り骨を砕く。
 僕は誰かを斬るのはこれが初めてだ。
 セラさんが言っていた言葉を思い出す。
 戦闘において一人目を斬ったことがあるかないかの差が絶対的な優劣を決すると。
 だからそんな精神的な苦痛に対して予め対処できた。
 覚悟……ではない。
 そんな根性論、精神論的なものじゃなく確かな確信。

 ―――今の僕は゛あらゆる゛痛みを感じない。 

 カルラの表情が大きく歪む。
 何が起こったのか理解できなかったのだろう。

「ぐ、ま、待ちなさ」

 待つわけないだろ。
 僕は最初の一撃で完全に体勢を崩したカルラへと剣を振りかざした。 
 カルラは必死に僕に何か言おうとしている。
 その顔に笑みはなくただ死への恐怖だけが浮かんでいた。

「ひっ―――!?」
 
 そして、僕の剣はカルラの脳天を貫いた。












 魔族の死体に背を向ける。
 疲れた……

「…………」

 目の周りを腫らしたリリアに笑いかける。
 激痛が走った。
 全身に刺さった短剣……致命傷ではないけど、このままでは出血多量で死ぬんじゃないかってくらいの血が流れる。
 だけど、僕はいつものようにへらへらと笑った。
 僕は大丈夫だぞ、って。

「悠斗様……」

「ぶっ飛ばしてきた」

 ぶっ飛ばしたというにはちょっと過激な感じだけど。
 それでも約束を守れたことに安堵する。
 僕がリリアに言葉をかけようとする。
 いつもみたいに気楽に……傷付いているだろう女の子がこれ以上傷付かないように。
 と、そこでセラさんが呻いた。
 どうやら意識が戻ったらしい。
 セラさんが無事だったことを今は素直に喜ぶ。
 いつもは厳しい人だけどさ……死なれたら寝覚めが悪いからね。
 だけど、セラさんはバッ! と飛び起きる。
 何かに気付いたようにこちらを視界に映して大きく目を見開く。

「セラさん! 倒しましたよー!」

 セラさんの言葉は無事を喜ぶものでも、僕の有様を心配するものでもなかった。

「逃げろ!!」
 
「え?」

 カチャリ―――と。
 先ほど倒したはずの魔族の方から音が聞こえた。
 振り返る。
 男の肩に乗っていた西洋人形だった。
 咄嗟に神眼を使用した。

 
――――――――


 カムチャ(人形族)

 96歳

 Lv11

 生命 10
 
 攻撃 0

 防御 30

 魔力 400

 俊敏 0

 幸運 0

 スキル 念動

 加護 なし


―――――――



 短剣を操っていたのはあの魔族じゃなかった。
 その事実を理解した瞬間―――主を失ったはずのグングニルがゆっくりと浮遊した。

「――――ッ!」

 魔槍が浮遊した瞬間、集中力が極限まで研ぎ澄まされる。
 世界がスローになると同時に、思考が今までにない速度で回転する。
 避けきれないと判断した僕は人形に魅了を使用した。
 深層心理をコントロールするスキル。
 僕を狙うことをやめさせる。
 
 だけど―――失敗した。

 あの人形……もしかして深層心理がないのか!?
 もしくは人形だから視力がないとか。
 ならセラさんの攻撃に関しては……例えば音に反応するとかか?
 セラさんの攻撃を防いだのは鎧の音に反応したという可能性も……
 いや、今更考察しても意味はない。 
 何を考えたところで、遅い……遅すぎる。

 グングニルがこちらを向いたと同時にセラさんが駆けだしていた。
 無理だ……いつものセラさんなら間に合うだろう。
 だけど今はダメージを負っている。
 それに、間に合ったところでこの音速のような魔槍をどう防ぐ?
 セラさんの剣は今僕が持っている。
 無理だ、絶対に不可能だ。
 
 僕は理解した。
 心臓への攻撃を防いだことで死の未来は回避できたと思っていた。
 だけど、違ったんだ。
 回避することも含めて僕は死ぬことが決まっていたんだ。
 僕はセラさんの言っていた8割の未来がやってきたことを悟った。
 残りの2割―――無理だ。
 ここまで状況が揃ってしまえば、もう……

 魔槍グングニルは僕へと狙いを定め――――その瞬間、僕は自分の死を覚悟した。




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