25 / 43
勇者召喚
第25話 魔槍
しおりを挟む数多くの魔物をセラさんが切り倒しながら進んで行く。
僕も倒してレベル上げたかったけど自重した。
今は少しでも急ぐべきだ。
セラさんと僕とリリアは最短ルートで城内を駆ける。
玉座の間の扉をセラさんが勢いよく開くと、そこに広がっていたのは、無数のゴブリン、オーク、狼のような魔物たちの死体。
これだけでこの場所で起こった戦闘の激しさが分かる。
血で染め上げられ、荘厳さを失った玉座の間にいるのは僕たちを除いて5人。
「これはこれは……あなたは確か……セラ・グリフィス騎士団長ですね? それに最後の勇者の佐山悠斗さん」
玉座の間にいたのは意識のない王様。
そして、皆を庇う様に前に出ている姫木さん……その後ろには傷だらけで倒れている秋山さんと栗田さんが。
全員の視線がこちらへ向けられる。
仲間の視線、それに見たことのない男のねっとりした目。
「佐山さん……」
僕の名前を呼ぶと同時に姫木さんが意識を失う。
緊張の糸が切れたんだろう。
だけど、呼吸に合わせて肩が動いてるからまだ生きてる。
そのことに僕は安堵した。
僕たちが入ってくると魔族の男が礼儀正しく一礼をした。
「私の名前はカルラ。魔王軍の幹部候補です」
スーツによく似た服装をしている。
この世界の文明基準を考えたら相当いい生地なんだと思う。
背中に背負った巨大な槍がそのスーツには不釣り合いな威圧感を与えてきていた。
一見すると人間に見える。
だけど耳が人ではありえないほど尖っている。
そして、何よりも……その醜悪な笑みが本能的嫌悪を呼び起こす。
肩の上にはなぜか西洋人形がケタケタと笑みを浮かべていた。
何あの人形……怖くない?
僕は油断なくカルラと名乗った男を神眼で鑑定した。
――――――――
カルラ(魔人族)
215歳。
Lv36
生――0
へhrrへえyq
―御―fgeあ
geargaer
hahdhhetjrqa
ggr――
スキル 伝心hrj――hs操―geare射――――
――――――――
なんだ? なんで文字化けしてるんだ?
こんなこと初めてだ。
「鑑定スキルですか」
突如投げかけられた言葉。
咄嗟に動揺を隠すので精いっぱいだった。
なんで、という僕の疑問の感情を読み取った魔族がまたも笑みを浮かべる。
「スキルを感知する力を持っております、それとスキルを反射する力もね……しかし、感知は成功しましたが、ここまでのレベル差で反射が失敗するとは……上位の鑑定スキルですかね?」
「答える必要あります?」
「おやおや、手厳し―――ッ!?」
一瞬でセラさんがカルラに肉薄していた。
間に合わないタイミングに思える。
だけど、魔族の周りで耳障りな金属音と共に火花が散った。
(……あれを防いだのか)
見えなかったわけじゃない。
だけどたぶん僕だったら間に合わなかった。
つまり、この男は僕より格上ということだ。
「悪鬼の守護神……セラ・グリフィス。レベルは56、スキルは調理、予言、剣姫、速力、復讐者、ですよね?」
「………」
ブラフだった……って、わけじゃないんだろう。
無数のスキルの中から偶然当てれるわけがない。
「べらべら喋るやつだな」
「ああ、失敬しました、お喋り好きなのでね、私の言葉で絶望する人間が大好きなんですよ」
「なら、そのついでに教えてもらおうか……なぜ知っている?」
魔族の男はにたりと笑う。
しかし、何も言わない。
焦れた様にセラさんが再び魔族へと攻撃を加えるがまた防がれてしまう。
短剣が……浮いてる?
サイコキネシスのような力を持っているんだろう。
魔族の男の周囲に短剣が重力を無視する動きを見せながら浮かんでいた。
「この槍に貫かれて頂けるならお答えしますが?」
「………グングニルか」
「その通り、一つの命につき日に一度……生命を削ることを代償とするスキルを有した意思を持つ魔槍です。ああ、奪ってもあなた達には使えないので悪しからず」
グングニル……神話に出てくる狙ったものを必ず貫くと言われているあれか。
名前からしてロクでもない能力なんだろう。
というか武器がスキルを持ってるって……ありなのか。
「いくら悪鬼の守護神といえども防げません。放てば百発百中。狙ったものを必ず貫く必殺の槍です」
それは……ちょっと反則なんじゃないの?
チート武器だよもうそれ。
だけど、セラさんは気負った様子もなくいつものようにそこに佇んでいた。
鎧で顔は見えないけど……その姿はあの男の言う様に守護神の名に恥じない姿だった。
しかし―――
「佐山悠斗」
そこで突然名前を呼ばれる。
いきなりだったのでびっくりした。
僕がセラさんを見ると彼女が言ってくる。
「あれは私には防げない」
「え゛!?」
体が強張る。
え、無理なの?
「お前に予言した死の未来……確定ではないと言ったがそれでも外れたことは少ない、よほどありえない行動をとらない限り8割方は当たる」
「いや、分かりました! 分かりましたから前! 前見て下さい!」
こんな時に何の話をしてるんだ。
それともこれはどうしようもない事態だって暗に言っているのだろうか。
魔族カルラは笑みを深めた。
文字通り悪魔のようなその表情。
「さて、あなたとのお喋りはここまでにしておきましょう……メインディッシュも残っていますからね」
その言葉の意味に疑問を感じる間もなくカルラはグングニルを構えた。
え、というか、え!?
どうするのこれ!?
「いきますよ」
まるで僕の恐怖心を味わうかのようにゆっくりと、緩慢な動きで槍を持つ腕を振り上げた。
ッッッ!!!!!!!!!!
暗闇で蝋燭を灯したような、そんな一瞬の淡い光が視界に広がった。
すると気付けばセラさんがその場から消えていた。
いや―――
「セラさんッ!!」
彼女は部屋の隅まで吹き飛ばされていた。
槍がからん……っ、と音を立てて転がる。
「なるほど、さすが守護神……といったところですかね」
セラさんの鎧は大きく欠損していた。
「確かに、百発百中なのは間違いありません、だからあなたは―――当たってから軌道を変えたんですね」
僕はセラさんが生きている安堵よりも身の危険を感じていた。
本能的な危機を察知するアラームが体内でけたたましく鳴り響いている。
「くくく、そんなことができるのはあなたくらいのものでしょう……しかし、無傷では済まなかったようですね」
さぁて、と男がこちらを見る。
僕はリリアを庇う様に背に隠す。
それを見て悪魔が僕に微笑みを浮かべた。
「さてさて、あなたはどんな表情を見せてくれるのでしょうか? 楽しみですよ」
「………」
「悠斗様……」
リリアが不安そうに僕を呼ぶ。
僕は精一杯の虚勢と共に笑いかけた。
「大丈夫だよ」
だけど、どうすればいいかは分からない。
正直リリアの時以上にピンチだと思う。
それを見てカルラの笑みがさらに深くなる。
口元が裂けるのではないかと思うほど皺が集まり本当に悪魔のような顔になっていた。
「その淫魔……随分あなたに懐いているようですね」
「……そうですね。それが?」
「いくつか質問宜しいでしょうか?」
僕はその言葉の意味が分からなかった。
だけど、少しでも時間稼ぎになるならと頷く。
手がなくても時間の経過はこちらに有利に働くはずだから。
「まずは……佐山悠斗さん、淫魔が人族に恋をするなんておぞましいと思いませんか?」
「……思いませんよ。リリアのことを知った風に言わないでほしいんですけど?」
ふむふむ……と、深く頷く。
「軽い女ですね」
リリアが後ろで動揺した気配が伝わってくる。
僕はついカッとなって声を荒げた。
「あなたにリリアの何が分かるんですか?」
「分かりますよ」
「?」
その問いの答え。
魔族の男の続く言葉は僕の理解を完全に超えたものだった。
「だって、その女の感情は私が操ったものなんですからね」
「……………は?」
1
お気に入りに追加
3,820
あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

冒険者をやめて田舎で隠居します
チャチャ
ファンタジー
世界には4つの大陸に国がある。
東の大陸に魔神族、西の大陸に人族、北の大陸に獣人族やドワーフ、南の大陸にエルフ、妖精族が住んでいる。
唯一のSSランクで英雄と言われているジークは、ある日を境に冒険者を引退して田舎で隠居するといい姿を消した。
ジークは、田舎でのんびりするはずが、知らず知らずに最強の村が出来上がっていた。
えっ?この街は何なんだ?
ドラゴン、リザードマン、フェンリル、魔神族、エルフ、獣人族、ドワーフ、妖精?
ただの村ですよ?
ジークの周りには、たくさんの種族が集まり最強の村?へとなっていく。

異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる