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勇者召喚
第22話 魔王
しおりを挟む僕のラノベ好きは父の影響だった。
息子にも二次元の女の子を見せて感想を求めてくるような人。
異世界転移したい! が口癖だった。
今思いだしても馬鹿らしい……だけど、そんな父が大好きだった。
授業参観で見に来られるのが恥ずかしかった。
一緒にいるところを見られるのが嫌だった。
だけど……男手一つで僕を育ててくれた恩人。
ある日、僕は父と喧嘩をしてしまった。
理由は……思い出せない。
本当に些細なことだった気がする。
そのくらい昔のことだ。
だけど、その時僕は言ってしまったんだ。
『ウザいんだよ! 異世界にでも行って死んでこい!』
反抗期だったからなのか、そんな言葉を口にしてしまった。
なんであんなにイラついていたのか。
どうしてそんなことを言ってしまったのか。
今となっては不思議でしょうがない。
だけど、その日を境に父が蒸発したのは……きっとそんな僕を嫌いになったんだと思っていた。
僕はそのことを忘れた日はない。
父の……あの悲しそうな目が忘れられなかったんだ。
「どうした?」
「……なんでもないです」
同姓同名の可能性だってあった。
だけど、心のどこかで納得している自分もいた。
セラさんは僕の変化を気にした様子もなく、森へ入るように促す。
「長話が過ぎたな、とにかく魔物1000匹、盗賊団の壊滅。これを果たすまで戻ってくるなよ」
「………」
「おい、聞いているのか?」
「……行ってきます」
そこからのことはよく覚えていない。
セラさんに言われた通りに森を進んで行った。
しばらくして大きな岩があったので、そこに腰かける。
魔物がいたら危ないな……だけど、今は動きたくなかった。
しばらく落ち込んで……また立ち上がって……また座り込む。
何度か繰り返すうちに少しずつ落ち着いてくる。
「ハァ……僕らしくないな」
そうだよ。逆に考えればいいじゃないか。
父さんは異世界に行けたんだ。
ずっと「異世界に行きたい!」と子供のように目をキラキラさせてそんな馬鹿みたいなことを言っていた父さんはその願いを叶えることが出来たんだ。
そりゃまあ結果こそ不本意だったかもしれないけど、それでもそのことに関してだけは本望だったんだろう。
「って、早いところ魔物倒さないとな」
セラさんのことだから倒せなかったら普通に野宿をさせる……というのは考えすぎだろうか。
いや、考えすぎじゃないな。あの人は絶対する。
それなら急がなくてはならない。
まだ昼時だけど1000なんて馬鹿げた数をどうにかしないといけないのだから。
しかもこの森にいるらしい盗賊団も何とかしろと。
「にしても魔物出てこないな」
魔物の巣窟とか言ってたけど……僕が想像してるよりは数が少ないとか?
あるいはどこかに密集してるとか。
案外群れになってたりするのかもしれない。
それなら考え無しに突っ込んでいけば多勢に無勢。
僕は父さんと同じような結末を迎えるんだろう。
神殺しで少しでもレベルを上げてから探すべきかな?
「―――ッ!」
しかし、その時気配を感じた。
最初はなんとなくというほかないだろう。
だけど、そちらに意識を向けて数秒。
その予感は確信に変わる。
「何か、来る……?」
僕は構えた。
そして気付く。
今更ながらに……どうしようもないことを。
(武器忘れてたああああああああ!!)
馬鹿か僕は!?
そういえば何も考えずに森の中に入ってきたけど、言われてみれば持ってなかった。
いや、だって仕方なくない?
どこに行くのかも伝えられずに気付けば森に来てたんだ。
知ってたら持ってきてた。
なんかすごい伝説の勇者の剣みたいなのを。
まあ、そんなの持ってないんだけどさ。
セラさんは気付いてなかったのだろうか?
……気付いてたんだろうなあ……その上でどうでもいいと思っていたのかもしれない。
「仕方ない……」
僕は強化スキルで全身を強化する。
これでも一応戦えるだろう。
あとは強いモンスターでも出てこないといいんだけど……出来ればスライムとか。
最悪どれだけ強くてもゴブリンとか……あ、武器持ってない奴ね。
でも、ゴブリンが武器持ってないイメージってあんまりないよね。
それにこの近付いてくる音を聞く限りでは……
「なんだこの音?」
足音……ではないな。
何かが擦れたりぶつかる音みたいな……
音は次第に大きくなっていく。
僕は警戒心を高め意識をそちらに集中させた。
弱い魔物がいい……弱い魔物弱い魔物……授業で絵を見せてもらったオークなんて出てきたら叫ぶ自信がある。
もしそれ以上だったら叫ぼう。
助けを呼ぼう。
誰かが助けてくれるかもしれない。
強い魔物じゃありませんように……僕は祈った。
だけど何だろう? この音を聞いたことがある気がする。
なのに思い出せない……体が震えている。
まるで思い出すことを拒絶しているかのように……なんだ? 何が来るんだ?
そして、出てきたのは―――
「ここにいたか」
セラさんだった。
「キャアアアアアアアァァァァーーーーーッ!!!!!」
ある意味魔王だった。
僕は叫んだ。
大絶叫だった。
着替えを覗かれた女子ばりに甲高い声で叫んだ。
「落ち着け。私だ、セラだ」
「分かってますよ! だから叫んだんですよ!」
「おい、どういう意味だ殺すぞ?」
ひぃっ、荒ぶってらっしゃる。
だけど、そんなパニックになった僕にセラさんが告げる。
「まずいことになった。すぐに戻るぞ」
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