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勇者召喚
第14話 強欲
しおりを挟む時は少し遡る。
リリアが魔族だと分かる数時間前。
召喚された勇者の少女たちと自己紹介をするよりも前。
僕が石を砕いてレベルを上げた直後のことだ。
一つだけ願いを叶えてくれる人がいるとする。
その人にその一つの願いで願い事ができる数を増やしてくれと頼んだとしよう。
果たしてその人は願い事の数を増やすことを許容してくれるだろうか?
おそらくしない。
それどころか怒りを買うこともあるかもしれない。
???になっていた神様の善意。
なんでも好きなスキルを創り出す力を僕は最初に考えた。
だけど―――
あの楽しいことが大好きな神様が果たしてそんな最高につまらないことを許すだろうか?
だけど確かめないことには分からない。
しかし、最悪確かめた瞬間にその権利が消滅する可能性を僕は考えた。
というかあの神様ならそのくらいはしそうな気がする。
だからこれは賭けの続きみたいなものだ。
さあ、お前ならどうする? と。
そして、僕の予感は正しかった。
???の設定を念じた瞬間神様からのメッセージが現れた。
『さぁて、ゲームの続きだ。また面白い結果を見せてくれることを願ってるぜ?』
『お前はおそらくこう考えるだろう、スキルを好きなだけ創り出せるスキルを設定することは出来ないか? とな』
『その考えは正しい、というよりそれに思い至らなかった場合はこのメッセージは聞くことは出来ない。これを聞いてるってことはつまりそういうことなんだろう』
なるほど、と思いながらも僕は苦笑いをした。
もしこれピンチの時とかに設定しようとしたらどうなったんだろう。
わざわざ切羽詰まってるときにこんな長いメッセージを聞かせるつもりだったのか?
『とかお前は考えてそうだな。それに関してはお前がそこまで馬鹿じゃないと思ったからだ。まあある意味信用したってことだな』
……確かに好きに設定できる力をわざわざピンチまで残しておくメリットは薄い。
例えばRPGゲームで好きな力を設定できるとしよう。
それをラスボス戦まで残しておくのは果たして賢いか? 否だ。
わざわざそんな局所的な場面で使うくらいなら初めから自分の経験値を増やせる力を選ぶ。
そのほうが道中の戦闘は楽になるし、ラスボス戦でも高いレベルで挑むことができる。
ゲームならそうなんだろう。
だけどこの世界は現実だ。
しかし―――ファンタジーの世界でもある。
それならその理屈も通用するだろう。
『さて、ここで3択だ。スキルを増やすことのできるスキルを3つ表示する。その中には存在しないスキルが入ってる』
なるほど、その中から選べってことか。
『この勝負、受けるか? ああ、受けなかった場合にもこの権利の消滅はしない。だがスキルを増やせるスキルは選べなくなるがな。ちなみに外した場合は権利消滅だ』
少しだけ考え込む。
この権利……別に受けなくても問題ないんだよな。
それにスキルを増やせなくてもこの設定できる力は強力だし……
『ああ、でも負けるのが怖いなら弱い力を選んで悦に浸ってればいいと思うぜ?』
いつか僕が賭けの時に言った言葉だった。
神様らしいな。
そんな挑発に乗るとでも?
「乗っちゃうんだなこれが」
受けることを選ぶと再びメッセージが流れる。
『くはははっ、そうこなくっちゃな! じゃあいくぜ? 3択だ! 好きな力を選べ!』
そして、表示されたのはこの3つだった。
1、『技能創造』
スキルを好きなだけ創り出せる力。上限は存在しない。
2、『全能者』
どんなスキルでも後天的に取得できるようになる。取得の際の条件も緩和される。
3、『改変』
スキルを改変することができる。
「ふむ……」
僕は考える。
これってどれを選ぶかの根拠ないよね?
ヒントがない。
何かしらのメッセージが聞こえてくるかとも思ったが、そんな様子もない。
頭の中に出てくるこの3択だけが浮かんでいる状態。
さすがにノーヒントは無理がある。
そして、理屈以上にあの娯楽好きな神様がそんな運だけのゲームを選ぶとも思えない。
「すいません、もう一度ルール説明してくれません?」
それは大丈夫だったらしい。
もう一度神様の声が聞こえてくる。
『なんだあ? 忘れちまったのか? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』
「もう一度お願いします」
『ああ? こんな簡単なことも覚えられないのか? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』
「もう一度」
『おいおい、大丈夫か? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』
「……もう一度」
『はあ……ほんとに大丈夫か? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』
なるほどなるほど……
僕は何度も聞くうちに確信に至る。
「………性格悪っ!」
僕は神様のあまりの性悪っぷりに戦慄した。
このメッセージはおそらく録音だ。
今までのやり取りからもそれは分かる。
僕の考えに答えるでもなく、神様は予め設定しておいた言葉を聞かせている。
だけど……
僕のもう一度ルールを確認させてくれという言葉への返事には違和感があった。
『なんだあ? 忘れちまったのか? よ~く聞けよ?』
『ああ? こんな簡単なことも覚えられないのか? よ~く聞けよ?』
『おいおい、大丈夫か? よ~く聞けよ?』
『はあ……ほんとに大丈夫か? よ~く聞けよ?』
前半部分は全て違う言葉だ。
しかし、『よ~く聞けよ?』から続く言葉は全て同じ。
前半の言葉は全部違う。
にもかかわらず後半は一言一句同じだ。
それはつまりこの3択に関してのルールの中でもその言葉だけは変えちゃいけないから。
『この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』
何度も聞けばこの台詞にはいくつか気になる個所が出てくる。
まずこの3択の中には存在しないスキルが入ってる。
なのに存在しないスキルと存在するスキルの数を明確にしていない。
そして、好きなスキルを選べと言う言葉。
神様は一度も『この3択の中から』とは言っていない。
存在するスキルだったらならそのスキルを与えるという言葉も3択には一切触れていない。
つまり―――
「この3択の中に存在するスキルはない……ですよね?」
聞くだけはタダだ。
リスクはない。
これが間違いだったとしても選び直せばいいだけ。
だけど、僕の予感は当たっていたらしい。
再びメッセ―ジが聞こえてきた。
『うはははは! やっぱ面白い奴だな佐山悠斗! その通りだ! 大正解!』
「いやいや、選んだらその時点で負けって性格悪すぎでしょ……」
『ああ、悪い悪い。俺も負けっぱなしは癪だったからな。ちょっと意地悪してやりたくなったのさ』
また負けちまったけどな! と言ってまた愉快そうに神様が笑った。
「ん? これ録音ですよね?」
『いや? お前が回答した後に関しては違うぜ? 生音声だ。ともかく正解おめでとう、と言わせてもらおうか』
「あれ? もうゲームはいいんですか?」
『さすがに難しいと思ってたからな、これに辿り着けたら無条件で俺が選んだスキルを与えると決めてたんだ』
ああ、そうなの?
確かにここからもう一度選べと言われても疑心暗鬼で選べないと思うけどさ。
『俺が与えるスキルは、これだ。欲張りなお前にはぴったりのスキルだぜ?』
これが僕が強欲を取得した経緯であり、その理由でもある。
神様ほんとに性格悪すぎますって……
僕の呆れたような苦笑いにも神様は機嫌良さそうに笑っていた。
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