神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸

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プロローグ

第2話 賭け

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「いいぜ、やろうか」

 即答された。
 神様は待ってましたとばかりに笑みを浮かべた。

「やけに早いですね」

「同じ提案をする奴は過去にもいたんだよ、お前みたいに欲をかくやつがな。と言っても最近では久々だけどな」

 ただし―――と、神様が付け加えた。

「やることは決まってる」

 そこで手を差し出してきた。
 僕が疑問符を浮かべていると突然フッとサイコロが現れた。

「サイコロゲームをしよう」

「内容は?」

「簡単だ、10分以内にサイコロを振って出た目の合計によって異世界へ送るときのスキルの数を決める」

 そして、説明を聞く限りではこんな感じだった。

 1、2でスキル無し。
 
 3、4で元の予定通りスキル1つ。

 5、6でスキル3つ。

 それ以上でさらに特典がつく。

 ただし、スキルが何個になろうとも自分で選べるのは1個だけらしい。

「結構地味ですね」

「基本的に俺が絡むと俺が勝つからな、神様だし。そっちにも可能性があるとなると限られてくるんだよ」

 ふむ、それは分かったけど……僕は引っ掛かった。
 それ以上って言うのはなんだろう?
 サイコロは見たところ6面のものが1個だけだけみたいだし。
 それにさっき神様は出た目の合計とも言っていた。
 サイコロが1つならそんな言い方はしないと思うのだが……
 僕の疑問を読み取ったのか神様が答える。

「サイコロを振る前にスキルを一つ選んでもらう」

「あっちに持って行けるスキルですか?」

「そうだ、選んだ時点で使えるようにしてやる」

「……それを利用しろってことですか?」

 神様が頷いてさらに続ける。

「ただし条件がある。過去の勇者が選んだ能力は選べない。選んだ時点で出目は0。能力にマイナス補正をかけて向こうに行ってもらう」

「なるほど……」

「やるやらないは自由だ。今ならやめれるがどうする?」

「やります」

 ニヤリと笑う神様。
 そうこなくっちゃなと、楽しそうな表情をする。

「いいぜ、さあ、何の能力を望む? ああ、一応最初の勇者が選んだ能力だけは教えてやるよ。
 最初の勇者が選んだ力は創造だ。何でも好きなものを作れる能力を選んだ。
 それで出目が7しかないサイコロを創って向こうに行ったんだ」

「そのサイコロじゃなくてもいいんですね」

「ああ、だけどその手はもう使えない。お前も自前のサイコロがあるならそれを使ってもいいぞ?」

 分かってて言ってるだろ……サイコロなんてそんな都合よく持ってない。
 制限時間もあるから持ち物を使ってサイコロを作るのも難しいだろう。
 サイコロの複製、目の書き換え、サイコロの破壊。
 色々浮かぶけどどれも選ばれてそうだな。
 あ、そうだ。それなら……

「ああ、そうだそうだ、言い忘れてた。ペンの類で目を描く行為だけは認めない」

「見てから言ってません?」

 僕は大人しくボールペンを仕舞った。

「これに関しては誰でも思いつきそうだから予め全員に伝えてある。こんなことで7以上を出されてもつまらないだろ?」
 
 ……単純だと思ってたけど、何気に難しいぞこれ。
 これはようするに過去の勇者とどれだけ違う能力を選べるかの発想力の問題だ。
 ここでは関係のない力……例えば薬草採取の能力を選べば過去の勇者とかぶる可能性はほとんどない。
 その上でサイコロを振れる。
 確率で言えば3分の1でスキルが3つ。
 賭けとしては悪くない。
 だけど、それは最高につまらない。
 どうせならそれ以上を出したい。

「ちょっとサイコロ見せてもらってもいいですか?」

「ああ、いいぜ? 好きに細工しろよ」

 随分余裕だな。
 好きに細工してもいいって……舐めすぎじゃないだろうか。
 ペンが無理だとしても細工していいならやりようはある。
 お言葉に甘えよう。
 僕はサイコロを受け取ると試しに持っていたカッターナイフで傷を付けようと試みる。
 だけど刃先を滑らせてもサイコロには傷一つつかなかった。

「無駄だ。そのサイコロは神の加護を得ている」

「神の加護?」

「ああ、絶対に破壊不可能なサイコロだと思えばいい」

 ふむ……
 確率を操るとか、サイコロの出目を書き変える系は駄目だな。
 ありきたりだから選ばれてる可能性がある。

「一つ質問なんですが」

「なんだ?」

「僕は7以上を出せると思いますか?」

(この声が聞こえてるなら答えなくてもいいですよ)

 頭の中で同時に別の問いを投げかける。
 僕のその質問に首を傾げた後で神様は―――

「知るかよ。そんなのてめえ次第だ」

 つまらなそうにそう答えた。
 その言葉を聞いて僕はある可能性に思い至る。
 だけど……ちょっと怖い。
 でもそれ以上に、面白そうだ。
 覚悟を決める。

「神様って言うからには全知全能だと思ってたんですけど違うみたいですね」

「あ?」

「全知全能なら僕の出目くらい知ってる気がしたんですよ。僕の質問に知らないと答えました。あなたは全知全能ではありません」

 そこで神様が眉をひそめた。

「……つまり?」

「あなたを殺せる能力を下さい。あ、殺せる力なら何でもいいです」

 言った。
 もう後戻りは出来ない。

「……正気か?」

 その言葉を聞いて笑みを消した神様が聞いてくる。
 引き返すなら今だぞ、と。

「正気です。全知全能じゃないなら僕でも殺せますよね」

「………」

「あ、でも負けるのが怖いなら別にやめてもいいんですよ? 勝ちたいなら弱い力をくれて悦に浸ってればいいですし」

 あなたを殺してスキルを頂く。
 僕はそう言ったのだ。
 神相手に―――
 
「……調子に乗るなよ人間風情が」

 刺すような殺気が全身を襲う。
 寒気が止まらない。
 だけどこの空間の力なのか、不思議と心は落ち着いていた。

「いいだろう、スキル神殺しを与える。殺せるもんなら殺してみろよ」

 目の前にいる神様の手のひらから光が放出された。
 僕の胸の辺りまでくるとゆっくりとそれが体内に入ってくる。

「今スキルを譲渡した。さあ―――こいよ」

 いつの間にか剣が神様の手に握られていた。
 構える神様を前に、僕はカッターナイフを取り出した。
 そして―――

「どれどれ」

 カッターナイフでサイコロを軽く撫でた。
 そこには確かに小さい傷跡がついていた。

「……あ?」

「ふう、よかったよかった。できなかったらどうしようかと思ってました」

 唖然としている神様の前でサイコロにカッターナイフを当てる。
 あとは簡単だ。
 ガリガリと時間をかけて3と4の面の間で分断。
 かなり不格好だけど何とか作れた。

 出る可能性がある面は4つ。
 7、4、3、0だ。
 賭けとしては十分に成立する。

 ついでに偶然ポケットに入っていた接着剤で後ろの何も書いてない面に財布から取り出した小銭を貼り付ける。
 重りだ。
 これで7の可能性を少しでも高める。

 振った。

「出目は7ですね」

 そこには3と4が書かれた面が上に出ているサイコロがあった。
 神様が舌打ちをする。

「お前……騙しやがったな?」

「騙したなんて人聞きの悪い。神様が勝手に騙されたんですよ」

 サイコロが破壊不可能なのは神様の加護があるからと言っていた。
 それなら神様を殺せる力があればこのサイコロも破壊できると思ったんだ。
 そこは賭けだったけど神を殺せる力で加護が破壊できない可能性は低いと思った。
 問題はそれを過去に誰かが選んだかどうかということだったが、その心配はない。


 ―――なぜならこの能力は神様が選んだのだから。


 僕の殺せる力なら何でもいいという曖昧な問いの真意に神様は気付かなかった。
 サイコロを破壊する力がほしい。
 だけど過去に選ばれた能力は選びたくない。
 それならどうするか。

 答えはその答えを知ってる人に答えてもらう、だ。

 そして、僕の思考が読まれてないかどうかは最初の問いの通りだ。
 神様は僕の心の中だけでした質問に気付かなかった。
 つまり僕の思考は読まれていないことになる。
 まあ神様が全部理解した上で気付いていないふりをしていたっていう場合もあるけど、そこを考えだしたらキリがない。
 本当に全知なら嵌めようとした時点で僕の負けが確定するわけだからその可能性は無視した。

 一番怖かったのが0が出るパターンだけど……4分の1で7が出るなら悪い確率じゃなかった。
 重りもあるからその確率はさらに偏る。

 僕が安堵していると、目の前から強い圧を感じた。
 この空間の力があっても怖い……強烈な殺意。

「お前……ここまで俺のことを馬鹿にしておいてタダで済むと思ってるのか? お前の考えは分かったが俺を殺すとまで言ったんだ、殺されても文句はないよな?」

 首筋に剣先が当てられる。
 答えを間違えたらここで僕は殺されるだろう。
 だから僕はニヤリと笑って不敵に答えた。

「それなら大丈夫ですよ」

「あ?」

「だって僕みたいなやつ大好きでしょ?」

 ぽかんとする神様。
 だけど次の瞬間にはお腹を抱えて笑い始めた。

「……くくく、はははははははっ!!」

 ひとしきり笑った後で神様が言う。

「くく、ああ、そうだな、その通りだ。いいだろう、ここまで俺を楽しませた奴はいなかった。特別におまけもつけてやるよ!」

 神様の手のひらから強い光が出てきて僕の体内に入ってくる。

「お前の選んだ神殺しのスキルに加えて、ステータスにいくらかの補正と、その他こっちで見繕ったスキルを与えた」

「ありがとうございます」

 僕はお礼を言って頭を下げる。
 
「送るぞ、準備はいいな?」

「結構急ですね」

「お前ひとりに時間取りすぎたからな、ほかの3人が異世界の手前でずっと待ってるんだよ」

 それは悪いことをした。
 僕がいつでもどうぞと頷くと、視界いっぱいに白が広がる。
 そして、僕の意識は光に包まれた。










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