美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第26話 その時は

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 シルヴィさん、アイリさん、ミーナの3人から気持ちを伝えられた翌日。
 僕はアランさんの自宅で彼と向かい合っていた。
 飲み物を勧められたけど、今ばかりは何も喉を通らなかった。
 一晩中考えても答えは出なくて……僕はアランさんに相談した。
 自分だけで考えるべきかもとは思ったけど、それでもアランさんは真摯に相談に乗ってくれた。
 一睡もできずにまとまらない考えと説明をめちゃくちゃに言った気がする。
 それでもアランさんはそれを聞いて答えてくれた。

『あいつらは街じゃ嫌われ者だ。石を投げられてるのも見たことがある。俺だってわざわざ言ったりはしなかったが、内心じゃ無意識のうちに見下してたかもしれねぇ』

 意外だった。
 アランさんはそういう俗っぽい価値観みたいなのは気にしない人だと思ってたから。

『言っちゃなんだが俺の価値観から言うと、不細工なんだ……多分よっぽどじゃないと貰い手はない……あったとしても金目当て、地位目当て、そんなもんだろう……お前がよっぽどで例外なんだ』

 だけど、と――アランさんは柔和な笑みを浮かべた。

『あいつらは良いやつらなんだ。馬鹿にされてもそいつら助けて『よかった』って笑えるくらい良いやつらなんだよ。お前だって、こうやって悩むくらいにはそのこと分かってるんだろ?』

 僕は頷いた。
 それはよく分かっている。
 僕の友達は皆いい人たちだ。

『まあ……だから、なんだ。いや、悪い。口出しし過ぎた』

 なんでそこまで? 僕は尋ねた。
 相談しておいてなんだけど、アランさんがそこまで彼女たちの肩を持つとは思わなかったから。

『俺も助けてもらったことがあるからな。それに、トーワのことも俺は気に入ってる』

 だから……あー、あれだ。とアランさんは照れ臭そうに頬を掻く。

『あいつらには幸せになってほしいって思ってんだ。報われてほしいってな。そんで俺はその相手がお前だったらって思ってる』

 背中を押して貰えた気がして、胸が熱くなった。
 アランさんはいつものように豪快に笑う。

『だから気にすんな! お前の世界の事は知らねーけど、この世界じゃ好きな相手が何人いてもいいんだぜ? いいところだろ!』

 アランさんも彼女たちの事を気に入ってくれてるんだ。そのことが自分の事のように嬉しかった。
 色々相談に乗ってもらえたことに頭を下げた。お礼を言うと、アランさんがまた照れ臭そうにそっぽを向いた。
 アランさんもいい人ですよね。揶揄うような僕の言葉にアランさんは『うるせーよ』と笑った。

 受け入れたらとか、断ったらとか。
 泣かせるだろうかとか。
 喜んでくれるだろうかとか。
 色んな疑問や光景が浮かんだ。

 結局なんだかんだ言って僕の答えは決まっていたことに気付いた。









「トーワ殿」

 人気の無い木陰で休んでいると、話しかけられた。
 アランさんとの会話を思い出していた僕はようやく人の気配に気づいたのだった。

「ありがとうございます。魔素溜まりによって集まった魔物の討伐。これだけの規模になったにも関わらず死者が出なかったのは間違いなくあなたの功績のお陰でしょう」

 ギールの村の村長であるザックさんが僕に深々と頭を下げた。
 深く皺の刻まれた顔に優しく笑みを浮かべている。

「ですが、討ち漏らしがないとも限りませんよ?」

「あ……すいません、そこまで気が回ってませんでした」

「いえいえ、あなたに万が一があってはこの村の面目が立ちません」

 妙に畏まった様子のザックさんだった。
 それを言ったらザックさんだって村の長としてずっと指示を出していたのに……そんな風に頭を下げられると恐縮してしまう。
 だけど多忙だったせいもあり挨拶もちゃんと出来てなかったから、声をかけてくれたのはそれもあるのかもしれない。
 確かギルドへの情報伝達もしてくれたんだったか。

「いえ、頑張ってくれたのは村人の皆さんじゃないですか」

「勿論それもありますが……トーワ殿がいなければここにはいなかった者もいるでしょう」

 ザックさんが申し訳なさそうに言う。

「いえ、少しでも力になれてよかったです」

 怪我人は出たけど、不幸中の幸いというべきか死者は出ていない。
 大事にならなくて本当によかった。

「トーワ殿はしばらくここに?」

「そうですね。もうしばらく様子を見させてもらいたいなと」

「それはそれは、ありがとうございます。トーワ殿には精一杯のおもてなしをさせてもらいたいですな」

 いやいや、と僕はやんわりと断った。
 治療費はもらってるんだ。それ以上なんてもらったらバチが当たる。

「いいじゃねーか。貰っとけよ」 

 アランさんだ。
 声が聞こえた方を見ると全身血まみれでぎょっとした。
 慌てて駆け寄るけど、怪我はなかった。
 全部魔物の返り血らしい。お前は俺のかーちゃんかと振り払うアランさん。
 第一印象が血だるまで死にかけてたんだからそりゃ驚きますって。

「こういうのは遠慮する方が失礼ってもんだ。皆感謝してるしな」

 そういうことなら……そう思った時、砂埃が舞ってるのが見えた。
 リザード便の到着だろう。

「リザード便ですかね?」

 アランさんが肯定する。初めて見た時は本当に怖かった。
 あのサイズの生き物が言うこと聞かなかったらどうなるんだろうと思うと、乗ってる間ずっと不安だったから。
 アランさんとザックさんの会話を横目に軽く頭の中で行き来にかかる時間を計算した。
 元の世界のようにほぼずれのない運航予定というものはないが、現状の予定ではしばらくリザード便はグリルの街に向かうものはない。
 どれだけ早くても街に戻れるのは7日以上後になる。
 治療院にやってくる野良猫たちの世話はアランさんの奥さんであるソフィアさんに任せている。
 だからそっちの心配はないんだけど……返事を待ってもらってる皆には悪いことしちゃったな。

「ザックさん。そういうことだから頼む。酒も用意しといてくれ」

「ははは、分かりました。アラン殿も討伐に尽力して頂いて村民一同感謝しております。上物を用意させてもらいますよ」

「おう!」

 アランさんはまたガハガハ笑っていた。
 そうして一礼をするとザックさんが去っていく。
 宴の準備でもしにいったんだろうか。というよりアランさんは本当にお酒好きだよね。
 僕も思わず苦笑いしているとアランさんが尋ねてきた。

「用事は終わったんだよな?」

「ですね。加工も終わって引き取ってますよ」

 荷物袋をぽんと叩く。
 アランさんが満足そうに「おう」と笑った。

「折角頑張ったんだ。ちょっとくらい気を抜いてもいいだろ?」

「まあ……でもアランさんがお酒飲みたいってのもあるんじゃ?」

「がはは! バレたか!」

 お酒臭いですからね、この人ずっと飲んでるよね。
 奥さんに告げ口しますよ?
 そう言うとアランさんは「か、勘弁してくれよ。お前だって飲むだろ~?」と慌てていた。
 愛妻家のアランさんはやはり二人の奥さんには頭が上がらないようだった。
 あと僕は飲めないんですってば。

「でも酔ってると戦うときに危ないんじゃないですか?」

「このくらいいいじゃねーか。むしろ酔ってる方が調子いいまであるな」

 そうなのか……それもう中毒なのでは?
 酔拳……でも剣が武器だったから酔剣かな?
 おぉっ……と、アランさんが反応した。

「いーなそれ! 俺が二つ名呼ばれるくらい有名になったらそう名乗るわ、がはは!」

 今適当に考えたことだけどアランさんは随分と気に入ってくれたみたいだった。
 いつものように笑っている。
 こんな決め方でいいんですか……?
 ひとしきり笑うと僕の先ほどの発言に対して、けどなぁ……と、アランさんも反撃してきた。

「さっきのは月光の洞窟なんて危険な場所に一人で行こうとしてたやつの台詞とは思えねーな」

「う……まあ、一緒にパーティー組んでもらえたのは感謝してますけど」

「そうだろうそうだろう!」

 がははと笑うアランさん。
 酒取ってくる。そう言ってアランさんは背を向けた。
 あの人また飲むつもりなのか……
 木に背を預けて枝葉の隙間から見える空を眺めた。
 遠くに見える雲が流れていく様子が心地良い。

「あー……いい天気」

 皆何してるのかな。まだ待ってくれてる……とは思いたいけど、さすがに怒らせちゃってるだろうか。
 それどころか断られるかもしれない。
 そうだよなぁ、ここしばらく忙しくてあまり考えなかったことだけど、普通にありえる。
 おおよそ告白を受けた身として最悪なことをし続けているからだ……手紙は届いただろうか。
 その時。声が聞こえた。
 聞こえるはずのない彼女の声――

「トーワ!」

「え」

 お腹に衝撃が走った。
 突然のことで呼吸が止まった。しかし圧迫感は収まらない。
 ようやく周りが見えてくると、ふわりと女の子の匂いがした。
 視界に入るのはぴょこぴょこ揺れる水色の猫耳。

「トーワ、トーワ!」

「み、ミーナ? なんでここに?」

 グリルの街にいるはずじゃ……
 僕が混乱していると、続けてアイリさんとシルヴィさんも姿を現した。
 ここに来るときに僕も使った防塵用のマスクを外して顔を見せる。
 皆なんで? 僕の疑問をシルヴィさんが答えてくれた。

「あはは……すいません。手紙は読みましたけど、ちょっと心配で……」

 何となく察した。
 アランさんはこの村についても書いていたようだ。
 やっぱり遅れすぎたらしい。
 悪いことをしてしまったな……

「ごめんなさい……待たせすぎちゃいましたね」

 ミーナに抱き着かれながら謝った。
 するとミーナは否定なのかただそれをしたいのかわからないが胸元でぐりぐりと頭を押し付けるように振った。

「……何かあったのか?」

 アイリさんに聞かれる。
 周囲の慌ただしい様子に何か気付いたらしい。

「ああ、実は魔素溜まりが見つかったんですよ」

 言い方を間違えないように正確に伝える。

「その近くでワーウルフの群れが見つかって」

 そこまで強くはない魔物だけど、徒党を組んで襲ってくるため討伐の危険度は高い。
 アランさんから聞いた話だけど、今回は魔素溜まりのせいで通常では考えられない規模の大群だったようだ。

「それでしばらく討伐するってことになってまして。僕も治療師として怪我人が出るなら、と」

 なるほど……と頷く二人。
 ミーナは僕のお腹ですーはーすーはーしていた。
 え、もしかして匂い嗅いでる? あの、恥ずかしいんだけど。
 それはそれとして、と言ってアイラさんは僕を軽く殴ってきた、全然痛くない。

「……心配した」

 弱々しくアイリさんは顔を伏せる。
 ごめんなさい。僕はそう言ってもう一度謝った。
 二人の後方でシルヴィさんがオロオロしていた。

「あ、あの……私も……」

 近づいてきて何か言いかけていたけど、正面はミーナに固められているため近づけない。
 右隣は木があって、左隣はアイリさんがいた。
 さすがに何かあるんだとは分かったけど、左右正面は塞がれているので何もできない。
 シルヴィさんは悲しそうに離れていった。

「……討伐に協力しましょうか?」

 まあ……何も言うまい。
 気を取り直して冒険者として素早く状況判断するシルヴィさんに対して僕も同様に情報を正確に伝えた。

「討伐のほうはもう大丈夫です。アランさん、あーA級の冒険者の方なんですけど、その人を中心に群れのボスはもう討伐し終わって後はもう残党狩りくらいだそうで」

 続けてこちらの被害についても伝えた。

「大事にはなってないですね。怪我人も、まだ油断はできませんけど大丈夫だと思います」

 安堵する皆。
 死者はいない。怪我人は出たけど重傷者は全員治療済みで後遺症もない。
 今後に関しては分からないけど、この調子なら無用な心配だろう。
 今は簡単に周辺を調べてもらっている。このまま何もなければ僕も予定通り帰るつもりだった。

「でもなぜトーワはこんなところに?」

「うん?」

 ミーナが顔を上げる。
 相変わらず離れないけど、そのまま顔だけこちらに向けて聞いてきた。

「ここで魔素溜まりが見つかる前にトーワはこの村にやってきている。違う?」

 あー……そっか。バレてるか。
 うーん、このまま黙ってることも考えたけど……彼女たちに嘘はつきたくなかった。
 待たせたくないし、何より僕も伝えたかったから。
 アイリさんに離れてもらった。
 僕の体に抱き着くミーナにも離れてもらい……ちょ、強い強い。
 ごめん、一旦離れてほしい。
 ようやくミーナにも距離を空けてもらう。

「あの、シルヴィさん、アイリさん、ミーナ」

 皆の名前を呼ぶ。
 荷物袋に入れておいた小箱を取り出した。

「これ、渡したくて」

 3人に箱を開けてもらうと、小箱の中央には黒く輝く魔石が納まっていた。
 黒曜魔石と呼ばれる鉱石だ。
 僕の世界にも存在した黒いムーンストーンにもよく似ている。
 ギールの村でアクセサリーに加工済み……選んだ形は指輪だった。
 全員が固まった。震える声でシルヴィさんが聞いてくる。

「あ、あの、それはつまり……」

 黒い石はこの世界では”生涯を共にする”相手に贈るものとされている。
 実はギールの村は黒曜魔石が採取できる月光の洞窟が近くにあるんだ。
 この辺りじゃ珍しい鉱石で、これが採れる場所で一番近いのがこの村だった。
 できることならもっと落ち着いたところで渡したかったけど、これ以上待たせるのも良くないだろう。
 周りに人がいないことを確認した。

「そういうこと、なんでしょうか?」

 シルヴィさんの言葉。アイリさんも期待を込めて視線を向けてくる。
 ミーナも体をよろけさせ、目を大きく見開いて驚いていた。

「ごめんなさい。結婚は待ってください」

 さすがにお互いのことを知らなすぎるから。
 瞬間、皆から泣きそうな顔をされる。
 3人が顔を青くするのを見て僕は慌てた。

「ああっ、あの、違うんです。恥ずかしい話、僕の治療院ってあんまり収入がなくて」

 男としては情けない話だ。
 だから待ってほしい。少なくともおんぶに抱っこされる関係じゃなくて、せめて彼女たちと胸を張って向かい合えるようになるまで。
 自分を好きでいてくれる人たちくらいは、自分の力で守りたいと思ったから。
 だから――

「お付き合いから……お願いします。この先必ず治療院を繁盛させます。だからもしそうなった時に気持ちがまだ変わってなかったら、その時は――」

 酷く緊張する。
 早くなる心臓を抑えて僕は唾を飲み込んだ。
 背筋を伸ばし、できるだけ頭を下げる。
 一呼吸だけ間を置いて伝えた。



「その時は、僕のお嫁さんになってください」



 決死の覚悟で伝えた。
 怖かった。でも先に伝えてくれた皆の方が怖かったはずだと自分を奮い立たせた。
 だけど……返事はない。
 恐る恐る顔を上げた。
 あの……?

「ッッ!!」

 信じられないという顔をしていた3人と目が合った。
 瞬間、感極まったように3人の目から涙が零れ落ちる。
 僕が声をかけるよりも早くミーナがお腹に抱き着き、アイリさんとシルヴィさんも勢いよく僕を抱き締めてきた。

「ちょ、み、皆……苦し……」

 皆力強い……
 どこかに助けを求める様に視線を彷徨わせる。
 視界の端に酒瓶を片手に持ったアランさんの背中が見えた気がした。
 声をかけようとするけど、すぐに意識は僕に体を密着させる皆へと移る。
 アイリさんが大きく息を吐いていた。

「よ、よがったぁ……っ!」

 泣きそうな顔で安堵している。というより泣いている。涙声になっていた。
 ミーナは僕の体に抱き着いたままだ。ぐすんぐすん、と何度も鼻を鳴らしている。
 シルヴィさんに至ってはその場にへたり込んでいた。
 随分待たせてしまったし、悪いことをした。
 もう一度謝るとアイリさんが苦笑する。
 ゴシゴシと涙を拭ってから「いーよ」と乾いた笑い。

「シルヴィとかずっと震えてたもんな」

「それはアイリさんもでは……」

「…………」

 二人がへたり込む傍でミーナはジッと僕の体にしがみついている。
 それはいいんだけどミーナのこれは一体?

「……しばらくそうさせてやってくれ。ずっと我慢してたみたいだし」

「すいません、なんか心配かけたみたいで」

「それは本当にそうだな」

 怖かったんだぞ。とアイリさんが拗ねたように言う。

「……あの、もしかしてなんですけど……こ、この指輪のためにこの村に……とか?」

 指輪を眺めていたシルヴィさんが僕に聞いてくる。名推理だった。
 アイリさんが「言われてみれば月光の洞窟があったな」と言っている。
 どうやら色々バレてしまったらしい。
 何か照れ臭くなった。
 僕が頷くとシルヴィさんが少しだけ怖い顔をして寄ってきた。

「魔石が採取できる洞窟ってC級以上の資格者の同伴がないと入れない危険な場所ですよ?」

「あーじゃあ僕ってどっちにしろ一人だけで入っちゃ駄目だったんですね」

 A級冒険者のアランさんがいるから安全だったと思うけど、出てくる魔物の数が多くて怖かった。
 けど僕の近くに魔物が寄る前に全部切り伏せちゃったし、怖くても危ないと思ったことはなかった。
 アランさんはやっぱり凄いんだな。
 でも用事がないならもう寄りたくはない場所だ。
 あはは、と笑った。

「笑いごとじゃありませんよ!」

 珍しく怒り顔のシルヴィさん。
 思わずビックリしたけど、そんな僕を見てミーナが不機嫌そうに彼女を睨んだ。

「シルヴィ、うるさい」

「こ、ここは譲れません。ミーナさんだってトーワさんが危険な目に合うのは嫌でしょう?」

 シルヴィさんの言葉に考え込むミーナ。
 これは完全に僕が悪いことだと思うから、二人とも喧嘩とかは……

「……トーワ、次からは私に依頼してほしい。危険な目にはあってほしくない」

 ミーナも僕を心配そうに見つめてきた。

「ごめん、これだけは自分で手に入れたくてさ」

 喜んで貰えるかと。結局ソロで冒険者の真似事をするのはアランさんに止められたけど、今思えば本気で僕を心配してくれたんだろう。
 この人たちも悲しませていたかもしれない……そう思って怖くなった。
 アランさんにはまた改めてお礼を言わないとだ。
 口には出さなかったけど、意図を察してくれたらしい皆が顔を真っ赤にしていた。
 その様子が何とも可愛らしくて、可笑しくて、この子たちが僕の彼女なんだと思うと胸が暖かくなって。
 怒られると分かっていながらも、僕はやっぱり笑ってしまった。
 つられてみんなの顔にも笑みが浮かぶ。
 僕は改めて頭を下げて……は、ミーナが抱き着いてるからちょっと難しいので、言葉にした。

「あの……これから宜しくお願いします」

 改めて言葉にした。
 これでよかったのか。
 将来的にも大丈夫なのかとか、優柔不断じゃないかとか。
 色々疑問は残るけど。

「まだ実感ないけどな……」

「シルヴィがいきなり結婚を申し込んだときはもう終わりだと思った……」

「ああ、それは僕もビックリしました。いや本当に……心臓に悪いですよあれは」

 うぐっ、とシルヴィさんが言葉に詰まった。
 け、結果オーライですよ! そう言って開き直った彼女の言葉が可笑しくなって皆で笑った。

 この決断が正しかったのかは分からない。
 だけど、皆が笑ってくれているこの瞬間だけは正しいと思えた。

 この先どうなるのかも分からない。
 それでも、皆と一緒ならきっと楽しいんだろうなと――そう思えた。









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