美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第18話 確かめる

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「ヒール」

 僕の手のひらから溢れた魔力の光が広がっていく。
 目の前の男性の肩口辺りにできた傷を癒し、さっきまで流れていた血を拭うと、周りの皮膚とは違う真新しい皮膚ができている。
 彼は痛みや動きを確認するように腕を軽く振るった。

「おおっ、治ってる治ってる。わりーな兄ちゃん」

「いえいえ、これも仕事ですので。でも塞がったとはいえしばらくは無理しないでくださいね?」

「おうよ」

 お代を僕に渡して冒険者の男性は去っていった。

「ふぅー……」

 大きく息を吐いた。
 なんか緊張したな……治療師として初めて怪我らしい怪我を治した気がする。
 かなり大きく抉れたみたいな傷だったけど、傷口を洗う時や消毒する時にも動じないのはさすが歴戦の冒険者って感じだったな。
 痛みに耐性とかできたりするんだろうか?
 というより肩口抉れるってかなりの大怪我だと思うんだけど、あの人治療後とか凄いケロっとしてたな……来た時は怪我してるところ抑えて痛そうにしてたのに。
 異世界の怪我事情の一端が見えた気がする。怪我してる個所が再生されていくところとか結構グロかったんだけど、この世界では日常ってことなのかな。
 痛いのも痛そうなのも僕は苦手かな……どっちにしろ冒険者は無理だったかも。

 野良猫たちにご飯をあげて、以前よりも少しばかり範囲を広げた薬草畑の雑草を抜いていく。
 ここ最近は雨が降っていなかったので軽く水やりも。

 で、ちょっと気になってたんだけど。

 何かさっきから布みたいなのが木の端からチラチラ揺れて見えるというか。
 洗濯した服が飛んで行ったのかとも思ってそっちを見てみると隠れるみたいに動いてた。
 人、だと思う。たぶんシルヴィさん。
 以前シルヴィさんが着ていたローブの色に似てたから、たぶんシルヴィさんが隠れてるんじゃないかなーと推察したわけなんだけど……

(何してるんだろう……)

 声をかけてもいいんだろうか。隠れてるなら理由があると思うんだよね。
 別に以前会ったときは普通だったし、僕から隠れる理由なんて……
 一瞬”レイプ”という単語が頭をよぎった。

(いやいやいや、さすがにそれは)

 確かにシルヴィさんには一度襲われている。
 未遂とはいえ前科があり、セックス云々言ってたムッツリさん。加えて友達になった時の内緒話。僕を狙ってるらしい発言に、同じく内緒話をしていたアイリさんの下心無し発言に光る真偽の魔石。
 理由はあれども友達をそんな風に疑うなんて……いや、結構多いな根拠。
 シルヴィさんもしかして本当に……いやいや、まさかそんな……

 まあ冗談はさておき、彼女の行動に関しては考えても分からなかった。
 仕方ない。直接聞こう。治療に使った消毒液やらを一か所にまとめて片付ける。
 僕が動くと隠れる服の端みたいな白い布。だけど近づいても逃げないそれに声をかけた。

「あの、シルヴィさんですか?」

「っ!」

 お、当たってたみたいだ。
 しばらくわたわたと手足が見えた後で、観念したようにシルヴィさんが出てくる。

「何してるんですか?」

「えーと……えっと、こ、こんにちは」

「ああ、はい。こんにちは」

 シルヴィさんは目を泳がせている。
 そこで気付く。なんとなくシルヴィさんの服に違和感を感じた。
 凄く些細な変化かもしれないけど服の丈が短く見えるような……?

「いつもと雰囲気が違うような気がするんですけど」

 雰囲気というか服の感じというか。
 シルヴィさんの目がさらに不安そうに揺れ出した。

「あ、へ、変でしょうか……?」

「いえ、動きやすそうでいいと思います」

 よかったあってた。
 だけどもっと気の利いたことは言えないんだろうか僕は。
 自分のファッションに対する口下手さに内心で苦笑いしているとシルヴィさんがこちらをジッと伺ってきていた。
 僅かに目を揺らしながら言ってくる。

「い、いい天気ですねー」

 その言葉には感情が全く乗っていなかった。
 それにいい天気と言いつつ何故か視線は僕に固定されている。

「そうですね……?」

 彼女はローブの裾を少しだけ捲り上げた。
 シルヴィさんの白磁のように綺麗な美脚が広めに目に入る。
 綺麗なふくらはぎだった。

「…………」

 見つめられる。え、なに?
 凄い見てくる。瞬きすらしていない。
 僕が疑問符を浮かべていると、次第にシルヴィさんは顔を染めていった。
 よく分からないけど恥ずかしがっている……のだろうか?
 恥ずかしいならやらなければいいのに。というより何がしたいんだろうか?

「暑いですねー」

 再び棒読み。今日むしろ涼しいくらいだと思いますけど。
 そう言ってシルヴィさんは今度は袖を捲った。といってもこれもほんの少しだけだけど。手首の下のところを恥ずかしそうにチラチラと見せてきていた。
 これまたほっそりとした綺麗な手首と前腕。
 僕が小首を傾げている間にも彼女はジッとこちらを見つめてきていた。
 彼女が何をしたいのかよく分からない。
 とはいえ何かをしたいんだろうということは理解できた。見当はつかないけど。

「うぅ」

 唸るシルヴィさん。
 あ、もしかしてどこかを怪我してるとか……?

「もしかして怪我してるんですか?」

 それとも以前の欲情する状態異常が再発を?
 だったら理解できる。シャイなシルヴィさんのことだから恥ずかしがって自分からその状態を言い出せなかったのかもしれない。
 完治していたと思っていたけど、もしそうなら一大事だ。

「え?」

「あ、違いました?」

「いや……あ、あー……ど、どうなんですかね……?」

 慌てた様子のシルヴィさん。
 やっぱりなんか様子がおかしいな。
 否定されなかったこともあり僕は彼女の手を取った。

「ちょっと来てください。すぐ終わりますんで」

「えっ、えぇ!?」

 少し強引ではあったものの、万が一があったら大変だ。
 僕は彼女を治療院の中に案内してすぐに診察を始めた。







 今朝トーワさんは体に関してもブス専なのでは? というとんでもない可能性に気付いてしばらく。
 治療院に行ったら入り口の前の所にトーワさんと知らない男性がいました。
 怖くて咄嗟に隠れると、どうやら彼は治療院を訪れた怪我人だということが分かった。
 邪魔するわけにもいかないので隠れてました。何度か声をかけることのできる機会はあったと思いますが、結局私のほうから声をかけることはありませんでした。

「あの、シルヴィさんですか?」

 これでも冒険者なので隠密行動の心得はあるはずなのに見つかりました。
 近づいてくることも、声をかけられることも分かっていたはずなのに、いまだに心構えができてなくて体が動かなかった。
 そんな自分を情けなく感じた。
 正直に言うと私は見つけてほしかったんでしょう。怖さ半分期待半分と言いますか。
 慌てて言い訳をしようとしたけど、ここで逃げてはいけないと勇気を振り絞った。
 わざわざ服も手足が広く見える物を選んで着てきました。いつもなら絶対に着ないような露出の多い綺麗な格好を。
 私には似合わないだろうなと思っていたけど、褒めてもらえたのは本当に嬉しかったです。すぐに本来の目的を思い出しましたが。

 コンプレックスを自分から曝け出すのは、正直酷く抵抗があった。
 心臓の鼓動が早くなっていきます。頭がふらふらして怖くなりました。
 逃げたい気持ちもありました。 
 でも、どうしても知りたかった。
 この醜くて細い手足を見てトーワさんがどういう反応をするのか。
 あまりにもか細い希望に縋るように私は服を捲って大きく露出させました。
 けどトーワさんは無反応。この人はなにをしてるんだ? みたいな顔で不思議そうにしている。
 ショックのあまり自失しそうになった。
 そ、そうですよね……私は何を自惚れていたのか。
 こんな見苦しいものを見せてまで……
 激しく後悔した。変なものを見せてしまったことに対して申し訳なさを感じてしまう。
 途端に自分の行動が恥ずかしく思えてきて……けど、そこで気づいた。


 ――あれ? 無反応?


 ”嫌悪”ではなく? 彼の目を見るとそこにあるのは困惑交じりではあるものの、どちらかというと好意的な視線に思えた。
 もしかして好きではないものの、そこまで苦手でもないのだろうか?
 私はもしかしたらという希望に突き動かされました。
 これはもう少し確かめないと。
 もし本当なら、と……私が動揺して迷っている間に治療院の中で診察される流れになってしまいます。
 前の状態異常は完治してますし、怪我なんてないですけど、私は否定しませんでした。
 そして、院内に案内されて、椅子に座らされた。
 トーワさんはあくまでも真摯に私の体を診てくれています。

「以前の状態異常はもう平気ですか? 痛んだりとかもないですか?」

 トーワさんの言葉で我に返りました。
 思えば私は最低なのでは……? 
 自分の欲望を優先させて、あまつさえ彼を騙してまで……
 少しずつこみ上がってくる罪悪感でズキズキします。
 彼の顔が見れない。自責の念に私は押しつぶされてしまいそうです。
 なんて言えるわけもなく……
 私は心の内でトーワさんに何度も頭を下げるのだった。







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