美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第15話 また変な男に?

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「ただいま」

 人気の無い土地に建てられた比較的新しい1軒の建物。
 パーティーの仲間達と建てたアタシの帰る場所だ。
 宿に泊まると嫌がられるし、居心地が悪いからな。
 銀翼の皆で資金を出し合って購入した共同住居だった。

「あ、おかえりなさい」

 エプロンを付けたシルヴィが出迎えてくれた。
 ギルドへの報告は終わったらしい。奥からはスープの匂いが漂ってきている。

「おかえり」

 お、戻ってたのか。
 次いで顔を出したのは冒険者パーティー”銀翼”の軽戦士ミーナだった。
 こいつと顔合わせたのはシルヴィが状態異常になった時以来か?
 相変わらずやる気のなさそうな目をしてる。

「ミーナも帰ってきてたのか。何日も空けて悪かったな。いきなりだったからよ」

 強制招集のことだ。
 ある程度は置き手紙に書き記してたけど、顔を合わせたんだしこの機会に謝っておく。

「構わない。むしろタイミング的には丁度良かったかもしれない」

「あん?」

「話がある」

 いつになくミーナが真剣だった。ぴょこんと猫の耳が揺れた。
 アタシ達がいない間に何かあったのか?

「食べながら話そう」

 顔を合わせたのは数日ぶりだしな。
 いいぜ、と返すとミーナは身を翻した。
 何か機嫌良さそうだな? どんな話かと思ったけど、悪いことでもないのか?







 シルヴィの快復と、しばらくぶりの再会を乾杯で祝した。
 アタシがエール、シルヴィが水で、ミーナはアプルジュースだ。どれも魔法で冷やしてある。
 目の前のテーブルには料理が並べられている。テイルボアのステーキ肉。他にはスープに雫草のサラダ。
 バランスが良さそうなメニューだった。高級食材だけどアタシ達のパーティーは金だけはあるからな。伊達にA級じゃない。
 ただ横のところに黒っぽい肉塊が置いてあった。なんだこりゃ? 焦げたのか? シルヴィにしては珍しい失敗だな。
 ジョッキに入ったエールを飲み干して、ぷはっ、と息を吐き目の前に座ったミーナを見る。

「で? 話ってのは?」

「好きな人ができた」

 咽た。
 一瞬冗談かとも思った。
 隣を見るとシルヴィも驚いた顔をしている。

「今朝も狩りの成果を貢いできた。あの人も喜んでくれていた」

 いや……これまた変なのに引っ掛かったんじゃねーか?
 ミーナが誰かに貢ぐなんて見たことない。というより浮いた話自体初めてだ。
 本当なら応援したい、けど……もし違うならさすがに見過ごせないだろ。
 こいつが幸せそうにしてるところに茶々を入れるのは気が咎めたけど……

「げほっ、お、お前なぁ、いくらなんでも貢ぐってのは……そいつ碌な男じゃねーんじゃねーか?」

「……撤回を要求する。これは私が好きでしていること。彼から言われたわけじゃない」

 ミーナが面白くなさそうにムッとしてた。
 仲間の好きな相手を悪く言ったのはこっちに非があっただろうけど、うーん、でもなぁ。
 これまでのことを考えたら素直には頷けない。

「どんな人なんですか?」

 シルヴィも会話に加わる。ミーナは胸を張って自慢気に応えた。

「素敵な人」

「いや、そういうことではなく……名前とか性格とか」

 シルヴィの質問。それはアタシも気になった。
 どこのどいつだ? 耳を傾けたけど、ミーナはただ一言だけで簡潔に答えた。

「言わない」

 あっさりと拒否される。言わない……ってなんでだ?
 アタシ達は顔を見合わせた。

「あの人に一番に愛されるのは私。いつか紹介はするけど、それは今じゃない」

 そう言ってきっぱりと断られた。
 毅然と答えたミーナ。本気で入れ込んでるらしい。

「なんだぁ? 取られるとでも思ってんのか?」

「思ってる」

 一瞬の間も入れずに即答された。
 そこまで言われると興味は出るけど、それよりもミーナの想い人をアタシ達が取ると思われてることを否定したい気持ちが強くなった。
 ミーナの言ってるやつのことは分からないけど、アタシ達にだって今気になってるやつはいるんだからな。

「へっ、心配すんなよ。アタシ達はもっといい男見つけてるからよ」

「……いい男? それは変な男に嵌ってるのでは……?」

「そうじゃねーよ。ちゃんといい男だ」

 トーワは変な男なんかじゃない。
 優しいし、アタシ達を見て嫌悪しない。
 変わった趣味だとは思うし、その価値観を信じ切れてないところも少しはあるけどな。
 でも本当に少しだけだ。あいつが嘘をつくとも思えねーし。
 ただこれまでの常識みたいなのが「もしかしたら……」って思わせてくる。
 だけどミーナはアタシの「いい男」って部分を聞いて眉根を寄せる。

「それは以前にも聞いた。で、クエストの報酬を持ち逃げされた」

「違うんですよミーナさん。今度は本当なんですって」

 アタシも隣のシルヴィに頷く。
 ミーナが大きくため息を吐いた。

「……嘆かわしい。私がお情けをもらってからならいいと思っていたのに。二人はあの人の寵愛を受けたくないの?」

 いや、どこの誰かも分からないんだから、受けたいとは思わねーかな……?
 大体そいつもアタシ達みたいな不細工に囲まれたら気が休まらないだろ。
 不安しかない。

「そうですね……名前も顔も性格も知らないので何とも言えませんけど……」

 シルヴィも乾いた笑いを零していた。前までなら気になってたかもしれないけど、今はトーワがいるし。
 あいつ今頃なにしてんのかな。
 アタシが勧めた本を読んでくれてたりするんだろうか。
 思わず顔がニヤけてしまう。それに気付いて慌てて取り繕うけど二人は気づいてなかったみたいだ。
 その男とのことについて話題に花が咲いている。

「始まりは、そう……私が困っていた時の事……最初は野良猫たちにも揶揄われたの。番か? って。最初はそんなことはないと否定した。でも今ではその子の言うことは正しかったように思う。それは運命の――」

 いつになく饒舌だな。
 こいつをここまで夢中にさせるやつに興味が出ないでもないけど……それでもやっぱりよくないと思う。
 だってまだ子供みたいなミーナに貢がせるってヒモじゃんそいつ。

「んで? その運命の人はミーナに貢がせて何をしてくれたんだ?」

 揶揄うように言った。

「……さっきも言ったけどそれは私の意志。彼に喜んで貰いたくて勝手にやっていること」

 それに、と。

「人のことは言えないと思う。アイリもシルヴィも、どんな男に嵌ったの?」

「優しい人ですよ」

 シルヴィが負けじと答える。
 どことなく自慢気なのは、トーワのことを知ってることに対する優越感だろうか。
 いつかミーナにも紹介したいとは思うけど……まずはミーナが好きだっていうやつだよな。

「騙そうとして近づいてくる人は大抵がそう。どこで出会ったの?」

「あー……実はな。シルヴィが状態異常になってただろ? あれは――」

「あぁ、それは知ってる。発情の匂いがぷんぷんしてたから」

 アタシの言葉を遮ったミーナの言葉に今度はシルヴィが咽た。
 手に持っていたナイフとフォークを落として、それにも気づかないで顔を真っ赤にしてわたわたと慌ててる。

「っ、あ、あの……え? そんなに酷い臭いでしたか?」

「安心するといい。獣人の私だから分かる程度の僅かな香り」

 するとシルヴィは露骨にホッとしていた。
 「そ、そうですか」と、小さく安堵の息を吐く。
 ミーナが思い出したように続けた。

「だけど彼の匂いもよかった。ハーブのような爽やかさと汗の混じった雄の匂い。素晴らしかった……嗅いだだけで思わず求愛しそうになってしまった」

 人族のアタシには分からない感覚だった。
 ミーナは獣人だから嗅覚が優れている。だけどこいつが男に関して「いい匂い」って言ってるのは初めて聞いたな。
 もう1杯のエールに口をつけてから、ウットリしてるミーナに聞き返す。

「求愛?」

「猫人族は求愛の時に鳴き声で愛を伝える」

「へぇ、聞いたことねーな」

「別に常日頃から求愛してるわけじゃないから」

 普段から求愛してたら痴女だもんな。
 仲間の話を聞きながら表面が黒っぽく焦げた肉を切り分けて不格好なそれにかぶりついた。
 焼きすぎだろこれ。水分も飛んでてパサパサしてた。

「どうだろうか?」

「ん? なにがだ?」

「それ。私が作った」

「ああ」

 色々分かって納得した。
 そうか、シルヴィが作ったわけじゃないんだな。
 けどミーナが料理ってのは珍しい。いつも食べる側だったし。どういう心境の変化だ?

「実は彼のためにロックボアを持っていったら多いと言われたの」

「1匹丸ごとか? そりゃ多いだろ。あの魔物食料にしたら余裕で10日以上は持つぞ」

「……気を付ける。それでどうだろう? これなら分量的には丁度いいと思ったけど……」

 部位分けされてるなら、1匹まるごと持っていくよりかはまだ幾分かマシだろう。
 それと料理の感想についてだ。気を遣うことも考えたけど、ここは正直に伝えた。

「固い。焼き過ぎだな。あと味付けがちょっと強い」

 とは言っても低ランクの頃はもっと不味い物も平気で食べてたし全然大丈夫だけどな。
 冒険が長引いたときとかは腹壊さないためにただ焼いただけの味気ない肉も食べてきた。
 現地調達した食べたことない魔物とかもな。
 自分の失敗を落ち込むようにミーナがしゅんとする。
 シルヴィがフォローに入った。

「でも血はちゃんと抜けてましたよ。内臓の処理も上手かったですし、今回は焼くのが慣れてなかっただけですね。次はきっと上手くいきますよ」

「そう……うん、ありがとう。またご教授願いたい。彼に失敗した料理を食べさせるわけにはいかない」

 アタシ達にはいいんだな……
 さらっと言われて苦笑いだ。まあいいけどよ。
 食えないほどじゃない。確かに焦げててパサパサだけど下処理と素材がよかったのか不味くはない。
 やたらと歯応えのある肉を咀嚼しながら視線をミーナに向けた。

「彼は、喜んでくれるだろうか……」

 顔を赤らめて物思いに耽る。それを見てたら本当に相手の男はいいやつなんじゃないかって思えた。
 よく見たらミーナの手には火傷の痕があった。シルヴィに料理を習ってるって言ってるが、どうやら本当に本気らしい。
 とはいえやっぱり心配だった。もしもの時は経験にはなるかもしれないけど、傷付かなくて済むならそれに越したことはないし。

「ま、振られたら酒くらいは奢ってやるよ」

 確か15で成人したばかりならもう酒も飲めるよな?
 ミーナが眉根を寄せる。馬鹿にするなと、そう言っている気がした。

「それはこっちの台詞」

 ふんっ、と鼻を鳴らした。
 って言いつつ飲むのはジュースなんだな。
 機嫌を損ねるだろうから言わないけど、酒はまだ早かったか?
 シルヴィがまぁまぁと仲裁に入った。










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