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第11話 その頃
しおりを挟む「私は何をやってるんですかね?」
「それ何回目だシルヴィ……」
街に滞在していたC級以上の冒険者の強制招集クエスト。
本来ならこれは複数の魔物による大行進(スタンピート)の前触れだった。
大事になれば街が消えてなくなるような脅威――のはずだった。
「だってまさかの誤報ですよ? 緊急事態だって言われたから急いで準備したのに」
アイリさんが忌々しそうに舌を打った。
ギルドに手配してもらった馬車に揺られながら私も俯き溜息を吐く。
今頃街の人たちは脅威が杞憂だったと喜んでいるのかもしれない。
ギルドは情報の精査で忙しいだろうけど……
「本当なら今頃はトーワさんとイチャイチャしてたはずなのに……」
ここにはいない黒髪の少年を想い胸が高鳴った。
今ここに彼がいないことが無性に寂しく感じられる。
せっかくお友達になれたのに……
「騙されてるとかねーよな」
「アイリさんのそれも何回目ですか……」
あの日から寝て起きるたびにリセットされるようで、あれは夢だったんじゃ? あるいは都合よく騙されてるんじゃ? と不安そうに聞いてくる。
「大丈夫ですよ」
「け、けどよ。トーワのやつもなんか渋ってたし、やっぱりアタシと友達なんて嫌だったんじゃ。真偽の魔石まで使っちまったし……」
アイリさんの目が泳ぎ出した。
足を揺すって必死に不安を誤魔化そうとしている。
認めないとは思いますけど、表情の筋肉は今にも泣きそうなほど震えていた。
「それを言ったら私なんて強姦未遂ですよ……?」
冒険者として培った技術と実力をまさか犯罪行為に利用する日が来るなんて。それも自らの浅ましい欲望に屈した結果だなんて。
優しくしてくれたのは嬉しかった。
でも、いくらトーワさんが優しくても心の奥底じゃ……
「な、なんだか私まで不安になってきました」
いや、嫌われてはいないはず。それは謝罪の時に何度も確認した。
彼の表情が見せる優しさは間違いなく私たちを好意的に捉えていて……
だけど、しばらく街を離れることを伝えるべきだったかもしれない。
招集が突然だったことと、今まだ友達というだけの私たちからそんなことを伝えられても困るんじゃないか、ということでの配慮だ。
配慮というか単純に意中の男性に会いに行くことを怖がっただけですけど。
今思えば後悔しかありません。
「帰ったらトーワさんに忘れられてるとか……」
嫌な想像を浮かべてしまった。
実際問題顔を合わせて話したのはたったの二日だ。
それも一日は強姦未遂で、もう一日はその謝罪。
印象は最悪だろう。
あ、駄目。極度の緊張で縮こまった胃が馬車の揺れで……は、吐きそう。
それに聞いてはいなかったけど、他に仲の良い女性がいたらと思うと……
するとアイリさんは自分に言い聞かせるように「だ、大丈夫だろ」と、言った。空元気に見えたけど。
「なんたってトーワはブス専だからな! あの街にアタシ達以上のブスがいるか!?」
「確かに……悲し過ぎますけど見たことないですね」
容姿だけで判断する人には思えなかったけど、見た目の印象も判断基準であることは間違いない。
そう考えたら私たちは他の人と比べて優位なはず。たぶん。
って、これ以上考えてたら精神をやられる気がする。
強引に話を変えてみた。
「ところでミーナさんとはまだ連絡がとれないんですよね?」
冒険者パーティー”銀翼”の前衛。アイリさんとは違うタイプの軽戦士だ。
家族から虐待を受けて捨てられた過去を持つ猫人族の少女。
冒険者としての等級はBだけど、彼女の実力は指折りだ。あの頼もしい獣人の仲間に何度助けられたことだろう。
可能なら今回のクエストにも同行してほしかった。
「あいつは自由人だからな。治療師探してくる。って言ってそれっきりだ」
それについては申し訳なく思う。
発情してるのが恥ずかしかったのと、ミーナさんの情操教育に悪いんじゃということで詳細は伏せていた。
子供扱いされるのを嫌がっていた彼女だったけど、実年齢以上に幼く見えるミーナさんを見ているとどうにも抵抗があった。
だけど、今思えば全部話すべきだったのではと。
彼女が今も私の為に必死で治療師を探しているのだとしたら……もしかしたら忘れて道草食べてるような気がしないでもないですけど。
いつものようにケロッと帰ってくる気もします。
「ま、そのうち戻ってくるだろ」
ミーナさんはこれまでにも何度かメモを残していなくなることがあった。
とはいえ何日か勝手に空けても予定があれば必ず帰ってきていました。
今回は予定になかった突然の招集を受けてのクエストだったので合流は無理でしたが……
「トーワ元気にしてっかな」
ふとアイリさんが物寂しそうに呟く。
頬杖をついて外を見ていた。
「私、帰ったら絶対デートするんです」
「舐めんな。最初はアタシだ」
「順番はちゃんと決めましょうよ」
「お前はもうレイプしただろ」
うぐっ、それを言われたら私は弱い。
私は「み、未遂ですよ」と情けない言い訳を口にするのだった。
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