上 下
9 / 15

第9話 今後の方針

しおりを挟む





 なるほど、宿を出てたならそりゃそうだよね。
 だけど、皆も有名になったことでこれから多忙になるだろうとは思ってたけどさ。
 まさかうたた寝気分で寝たら一週間も経ってて、しかもその間にこの国の話題の中心になってる英雄様たちが王都からこんなに早く出て行ってるとは想像できないよね。

「明日の荷物はまとまった?」

「はい!」

 あの後、僕たちは急ぎ王都の宿屋にどうにかして泊まらせてもらえた。この時間に空いてる宿屋は少なかったけど見つかって良かった。
 二人部屋だ。男女が共に泊まるには問題がある気もするけど、1部屋しか空いてなかったから仕方ない。ベッドも二つある部屋みたいだし大丈夫だろう。
 ノアとは今までに何度か同じ寝床で寝ている。勿論変なことはなかったし、これからもするつもりはない。
 そこは彼女にも懇切丁寧に説明して信用してもらっている。今まではなあなあになっちゃってたけど、改めて言葉にしておいた。

「……そ、そうですか」

 乾いた笑みを浮かべられた。心なしか尻尾もへにゃっとしてがっくりしている。
 完全には信じてもらえてないようだ。
 うーん、ちょっとショックだけど信用を勝ち取るのはこれからの行動次第ってことだね。頑張るよ。

「じゃあこれからの方針を改めて確認するよ。覚えてる?」

 ノアを見ると即座に切り替えたようで物覚えの良い彼女は凛とした返事を返した。

「ご主人様がこの世界にいることを悟られずに他の3人と接触する。ですよね?」

 正直この国の王族ってそこそこゲスい思考回路してるからね。生きてることを知られたらどうなるか……暗殺者なんて雇って監視してたことからもお察しだろう。
 召喚されたばかりの頃にどれだけあの人の命令で過酷なことをさせられたか……
 最初はそれでも僕の身を案じてくれてるから敢えて厳しくしているって思ってたけど「死んでもいい。次がいる」みたいな陰口聞いちゃったときは、絶望すら感じたし。
 というわけで僕の事を心配してくれているだろう皆に生存を知らせることが今回の目的になる。
 僕としてはもう危ないことはせずに平穏無事に生きたいんだ。
 農村とかで畑耕して、お嫁さんもらって、家族でのんびりとスローライフ。
 魔王討伐の旅の時からどれだけ憧れたことだろうか。
 ちなみに僕がこの夢を語ると皆はやたらと真面目に聞いてくれたっけ。悪い気はしなかったな。
 アイなんて興味を持ってくれたのか『作物の育て方』なんて本を買ってたし、ルーシャは「そ、それなら私の里に来なさいよ!」だっけ? 貰った土地の一部を提供してくれるってことなんだろう。本当にいい子たちだよね。
 エリスとノアは二人で必死にメモまで取って……勤勉だなと感心したものだ。
 おっと、話が逸れたね。

「変装道具も用意してあるよ。好きなの使ってね」

「はい」

 僕の事は勿論だけど、ノアにも素性を隠してもらおうと思っている。
 なぜかというと僕たちのパーティーの皆は今四英雄だなんて呼ばれてて、目立つことこの上ない。
 そんな彼女たちと仲の良い仮面を被った謎の男。うん、怪しすぎるよね。 
 僕と結びついてもおかしくないと思う。

「偽名はどうする?」

「ご主人様は【クロ】なんですよね?」

「うん」

「では私は【シロ】にします」

 ということらしい。

「皆がどこに向かったかは知ってるんだよね?」

「はい、簡単にではありますが目的地は聞いております」

 聞いてみたところ見事に全員ばらけていた。
 ちなみにこの世界に通信機器などの魔道具は一般的にはほぼ普及していない。
 国が1個か2個持ってるかどうかくらいで、一般人には手が届かないお値段なのだ。
 だからこそわざわざその場に足を運ぶ必要があるわけだ。下手な通信手段では情報漏洩が怖い。

「最初は誰を?」

「アイ一択だね」

 ノアが「む……」と、頬を膨らませた。

「どしたの?」

「な、なぜアイさん一択なのでしょうか? 何か特別な理由が?」

 ああ、そうか。謁見の時に僕がいたことは知らないんだっけ。
 アイが僕と同じ場所で死にたいと言っていたことを僕は聞いている。
 だからまずは早まりそうな彼女なわけだ。
 最初はまさかさすがに……と思ってたけどノアの話を聞くと冗談じゃなく思えてきたんだよね。
 早めに合流したいところだ。僕のことに責任を感じる必要なんてないんだから。
 ノアはなぜか安堵していた。
 ……なんで?

「というかノア! これでも僕怒ってるんだよ? 自殺なんて駄目だよ。そりゃ心配かけたのは悪かったけどさ!」

「ひゃわっ、い、いひゃいれふ、ごひゅいんひゃあ、いひゅ」

 ノアの頬っぺたを軽く抓って上下に揺らした。
 僕の後を追って死ぬなんて駄目だ。それはさすがに許容できない。
 というかノア柔らかいな。ムニムニすべすべだし。あ、何これ気持ち良い。
 しばらく夢中になるけど、すぐに我に返った。
 涙目になったノアが頬を擦りながら恨めしそうにしている。

「うぅ、痛かったです……戻らなくなったらどうするんですか」

「その時は僕が責任とるから大丈夫だよ」

「えっ!?」

 冗談交じりに返しておいた。
 それより早く寝ないとね。
 明日は僕たちも早朝から北東に向かう馬車を探すんだから。
 アイが向かった場所をもう一度反芻して口にする。
 王都と魔族領の間にはいくつもの村や街が存在する。おそらくはその中のいずれかを中継して向かうはず。
 その中でも必ず通らないといけない確定したルートが存在していた。

「目指すは【冒険都市カルディア】だ」

「あの……」

「ん?」

「も、もっと引っ張ってくれても、いいというか……不出来な奴隷にお仕置きは必要と言いますか」

 ……ノアは被虐性癖があったのか。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...