34 / 39
第34話 盗賊
しおりを挟む夜も明けた翌日。
馬車で森林沿いを道なりに進んでいる時の事。
真子の【聖女】スキルで詩織を癒す。昨日よりかは元気出てるかな? といった様子だ。
だけど、常に使い続けるわけにもいかなかった。使用限界は今のところ来てないけど、いざってときに【聖女】の支援ができないのも困るしね。
「詩織、大丈夫?」
「うぅ、すみません……悠斗君」
今僕は、詩織の頭を太ももに乗せて膝枕をしていた。
普通ならここまでしないんだろうけど、本当に具合が悪そうだったからちょっと横になってもらったんだ。
すると前の席に座っていた真子が、何やらわざとらしく頭を押さえ始めた。
「うっ、あ、あれ? 私も気分が……」
「そうなの?」
「ええ、そうなんです。ぜひ悠斗先輩の膝枕を所望します」
「刀香さんにやってもらったら?」
今僕の膝空いてないし、それに男の固い膝枕より、女の子の柔らかい太もものほうが幾分か楽だと思う。
目を向けると、真子からは違うそうじゃない。みたいな目で見られた。
何か間違えたらしい。後輩からジト目で見られて妙な罪悪感に襲われる。
「うぁ、悠斗君。ごめんなさい。横になってると頭にダイレクトに馬車の振動が……」
「ああ、そうなんだ。じゃあやめたほうが――」
と、その瞬間。
「敵襲ッ!」
隣の馬車から声が聞こえてきた。
移動中の馬車と言えど危機を知らせるその声はハッキリと感じ取れた。
馬車が慌てて止められる。
「ユーラ! 敵はどこに!?」
馬車を出ると冒険者組の人達はさすがに慣れているのか、軽快な動きで陣列を組んでいた。
グレンさんを前衛にユーラさんとミラさんが後方に、ニーナさんはその更に後ろで弓を構える。
「前方に4人、と後ろに回り込もうとしてるのが2人。森の中に隠れてこっちを窺ってるのが2人。全部で8人……盗賊だと思う」
ユーラさんは【探知】のスキルを持っているので、冷静に盗賊の人数を口にした。
「そっちは任せてもいいか?」
護衛されてるとはいえ、任せっぱなしというわけではない。
いざという時の作戦は予め話し合っていた。
「分かりました」
皆も王都を出る前に魔物を倒していたとはいえ、人との戦闘はこれが初だった。
僕はカルラと戦ったけど、それからの対人戦はやっていない。
後方に二人か……油断なく【神眼】スキルで相手のステータスを閲覧した。
ステータスは30前後。スキルは無し。
だけど手にはカットラスのような武器が握られている。慢心は出来ない。
「チッ、なんで分かった?」
ユーラさんの【探知】スキルを知らない盗賊の男が忌々しそうに吐き捨てた。
「何でですかね?」
わざわざ言うまでもない。
情報を与えるなんて真似は出来ないし。
僕は【強化】で全身を強化した。
「ッ!」
先手必勝とばかりに男は爪先で地面を蹴って土塊を飛ばしてきた。
一緒それに気を取られる。視界も僅かに奪われた。
「ルァア!」
剣でそれを受けた、鍔迫り合いになるけど、初手で決められなかったのは致命的だった。
そのまま力で押し切っていく。
「はっ!? な、なんだよ……この馬鹿力っ!」
ステータスは10倍以上の差があるんだ。子供と大人みたいなものだ。
盗賊の男が僕に負けまいと踏ん張った。その瞬間、僕は力を抜いた。
「なっ」
バランスを崩した男。その首めがけて一閃。
ほんの一瞬の躊躇があったけど、魔族のカルラとの戦いの事もあり直後は自分でも驚くほど滑らかに動けた。
意外にも軽い感触だった。ロングソードが首の骨を断つ。
男は何が起こったのか理解できないままに首と胴体を別れさせた。
すぐに周囲を見る。
皆はまだ戦闘中だ。加勢するべく、僕は駆けだした。けど――
刀香さんと切り結んでいた盗賊の男が崩れ落ちた。
「あ ぇ?」
男の脳天には矢が刺さっていた。
その矢は、ニーナさんの弓から放たれたのだと理解した。
相手の男がそれを理解できたのかは分からないけど、盗賊はニーナさんを最後に見て、そのまま白目になったまま絶命した。
「隙だらけ」
次いでもう1本。音もなく射られたそれは盗賊たちの頭蓋に吸い込まれるように突き刺さった。
残った盗賊は一人。
こちらは一人も欠けることなく万全の体勢だ。勝負は決まっただろう。
だけど、残った一人は最後の悪足掻きとばかりに横に倒れている仲間の剣を手に持った。
「舐めんなよクソがぁあ!!」
剣を投げつけてきた。勢いよく放たれた剣先はニーナさんへと向かっている。
僅かに硬直するニーナさんは、すぐに短剣を構える。
だけど、危ういと感じた。
「ニーナさんッ!」
「っ!」
僕は横からニーナさんを抱き締めながらタックルをする要領で、攻撃から逃れた。
ニーナさんの頭を庇いながら倒れ込む。
慌てて視線を戻すと、盗賊の男がグレンさんの剣に貫かれている光景が目に映った。
◇◇◇
「盗賊ってこの世界ではどういう扱いなんですか?」
キラキラしている詩織から、せめて目を逸らしてあげながら僕はグレンさんに尋ねた。
「魔物と同じような扱いだな。生死問わず首には賞金がかけられている」
首だけ持って行けば街で換金して貰えるらしい。
どうやって判断するんだろうとも思ったけど、街の関門で嘘を判断する魔導具で調べられるらしい。
有名な盗賊だと懸賞金がかけられてたりだとか。
グレンさんとミラさんが黙々と首を切り落としていたのは中々ショッキングなシーンだ……
ユーラさんは、仲間の盗賊の報復が来ないかどうか周囲を警戒してくれていた。
「仲間が来ないとも限らないし、さっさと出よう。盗賊に襲われたことに関しては俺達からギルドに報告しておく」
「分かりました」
と、そこで先ほど押し倒してしまったニーナさんに目を向ける。
「さっきはすみません。咄嗟だったので……怪我はなかったですか?」
「う、うん……」
言葉少なくニーナさんは頷いた。
心なしかソワソワしている。
……やっぱり気にしてるのかな。
状況が状況でも、女の人押し倒すのは良くなかったかもしれない。
48
お気に入りに追加
1,583
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~
細波
ファンタジー
(3月27日変更)
仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる…
と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ!
「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」
周りの人も神も黒い!
「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」
そんな元オッサンは今日も行く!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる