神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸

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第33話 馬車酔い

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「無理……もう無理です……とりあえず無理です……」

 冒険者の街と呼ばれる巨大都市【グラントニオ】へと向かっている道中。
 僕達が今いるのは森林沿いの道を走る馬車の中。
 僕、姫木さん、栗田さん、そして、絶賛馬車酔い中の秋山さん。

「秋山さん大丈夫? 少し止めてもらおうか?」

 秋山さんに【治癒】スキルを使用しながら声をかける。

「大丈夫……じゃないような大丈夫なような……あ、やっぱり無理……」

 葛藤してる言葉が返ってくるんだけど秋山さん明らかに無理してるよね……ていうか無理って言ってるし。
 キラキラしたものが出そうになっている。
 僕としては出した方がすっきりすると思うんだけど、女の子には意地があるんです……とか言っていた。
 確かに女の子がキラキラするのは抵抗があるんだろう。
 男にもあるけど女の子の方があると思う。
 だからなのか秋山さんは必死に耐えていた。

「治癒スキルはどうです?」

「さっきからやってるんだけど効果薄いみたい」

 アルテミス王都を出立してからもう2日半。
 秋山さんは今だに馬車に慣れていない。
 1日目あたりはファンタジーっぽい! とか言ってそれなりに元気だったんだけどね。

「それにしても強い仲間なんて都合よく見つかりますかね?」

 栗田さんの言葉に「んー」と、返事とも言えないような言葉を返す。
 僕たちの旅の目的は2つ。
 1つは言うまでもなく魔王の討伐。
 2つ目は――セラさんが禁書庫から持ってきてくれた手記に書かれていた禁忌のスキル。
 もしも……それが本当に叶うのなら、僕はもう一度リリアに会いたい。
 会って話したい。あの時の言葉に答えたい。
 だけど、正直どうすればいいのか……手がかりすらないのが現状だ。
 魔王を倒す旅……そして、その死者の蘇生ができるスキルについて調べる。
 色々装備やら食料やらお金に衣類なんかの餞別は貰っている。
 だけど無限にあるというわけでもないのでどこかで稼がないといけないときは来るだろう。
 不安はある。
 授業である程度の常識は習ってはいるけど果たして僕たちだけでやっていけるだろうかと。
 皆がいるから心強いことは心強いけど。
 そして、この旅だが……勿論なんのアテもないわけではない。
 先ほど言ったように僕たちは世界最大規模の冒険者組合の存在する【グラントニオ】へと向かっている。
 冒険者ギルドの本拠地があるその都市には、世界中から様々な人が集まっているらしい。

「うぅ……まだですか?」

「まだ半分も来てないよ」

 確か南西に10日の距離だと聞いている。
 今日は2日と半日目なので、まだ半分も来てない。

「この辺りは治安が良いんでしょうか?」

「ん? なんで?」

 姫木さんの言葉の意味が分からず聞き返した。

「いえ、仮にも勇者ですし、いくら問題を起こしたと言ってもこの数の護衛で出立させるなんてありえるんでしょうか?」

「大人数だと目立つってことじゃないかな。それに護衛の人達かなり強かったよ?」

 僕達の護衛についてくれたのは王都でも有名な冒険者の人達らしい。
 4人のうち3人は【紅の牙】というパーティー名で、パーティーランクはCランクなのだそうだ。
 もう一人はソロで活動しているBランクの冒険者。
 馬車は2台用意されていて、僕たちが乗っている方が勇者の皆で、もう片方に冒険者の人達が乗っていた。
 申し訳ないとは思いつつも今後に影響が出るので【神眼】で鑑定させてもらっている。
 さすが荒事に慣れているだけあってかなりの高レベルだったので、戦闘面に関しての心配はしてない。 
 それを聞いて姫木さんも納得できたのか、視線を秋山さんへと戻した。
 うーん、そろそろ休ませた方がいいかもしれない。

「勇者様。日も暮れてきたのでこの辺りで野営の準備をしたいと思うのですが」

 なんて考えてたら御者の男性がタイミングよく声をかけてくれた。
 皆に目を向けると、その意見に賛成したようで頷いた。特に秋山さんはあからさまにホッとしていた。




◇◇◇




「名前で呼んだ方がいい?」

 焚火を囲んでそれぞれが座り込んむ中でグレンさんが発言した。
 彼は【紅の牙】の冒険者でリーダーをしている人だ。
 ちなみにこの場にいる人たちをざっくり紹介するとこんな感じ。

 まず僕たち勇者メンバーは省略しよう。

 それぞれの馬車の御者の男性が二人。
 この二人は商人なのだそうで、丁度グラントニオに用があるそうだ。

 次にCランク冒険者パーティーの【紅の牙】の3人。
 リーダーの男性でグレンさん。
 探知や罠の解除を担当する女性でユーラさん。
 回復魔法を得意とする後衛の少女ミラさん。
 ちなみにユーラさんとミラさんは姉妹なのだとか。ユーラさんが姉でミラさんが妹。

 最後にフードを被った女の人? だと思われるソロ冒険者のニーナさん。
 彼女は単独でBランクの凄腕冒険者らしい。
 戦闘は見たことないけど、王都ではかなり腕を信用されている人なのだそうだ。

 で、話は戻るけど名前呼びがいいとのこと。
 理由を聞いてみた。

「何でですか?」

「そりゃ家名なんて持ってたら、偉い立場ですって言ってるようなもんだからな。勇者だなんてバレたら色んな奴らが寄って来るぜ?」

 ……言われてみれば。
 確かに勇者としての立場を利用する時があっても、必要以上に目立ちたいわけじゃない。

「じゃあ今のうちに名前呼びに慣れましょう!」

 妙に乗り気なのが栗田さんだった。
 気圧されながらも名前で呼んでみた。

「真子さん?」

「さん、はいりませんよ。真子で」 

「じゃあ……真子?」

「お、おぉ……」

 よく分からない反応が返ってきた。
 なんか感動してるみたいに震えてる。
 次に残った二人にも目を向けた。

「姫木さんが刀香さんで、秋山さんが詩織だね」

「ええ、構いませんよ。私は悠斗さんで呼びますね」

「わ、私は同じ学年ですから悠斗君って呼ばせてもらいます」

 姫木さんと秋山さん改め刀香さんと詩織に名前で呼ばれる。
 なんだろう、むずむずする。というか呼び方を変えたから仕方ないとは思うけど違和感があった。

「私は悠斗先輩でいきます。後輩ですし」

 栗田さん……じゃないや、真子はそのまま先輩呼びでいくらしい。
 いきなり変えるのも抵抗あるだろうからね。

「じゃあ改めて自己紹介だな」

「? 初日に聞きましたけど?」

「あの時は、お前さんたちがやけに真剣だったから簡単に済ませただろう? 初日なんてけっこー気まずかったんだぜ……?」

 ああ、そういえば自己紹介を軽くしただけで、これからのことをずっと話してたな。
 セラさんの最後の意味深な言葉が僕たちの頭から離れなかったんだ。
 今では先のことを考えすぎても意味なんてないだろうって結論に落ち着いたけど。
 そういうわけでもう一度名乗った。詩織が名乗ったところで、グレンさんが言ってくる。

「シオリの嬢ちゃんだが、馬車酔いだったらしいな。治癒で治らないなら聖女スキルで治るんじゃないか?」

「ん? 効果違うんですか?」

「治癒は自分の怪我の治りを早くする代わりに他人や状態異常には効果が薄いんだ。聖女は自分には効果が薄い代わりに状態異常に強い効果が出る、ってユウトは知らなかったのか?」

 ああ、そうだったんだ。
 実戦で使ったことがないから知らなかった。
 馬車酔いが状態異常ってイメージもなかったし。

「グレンさんは詳しいですね?」

「ん? おうよ。俺は個人の強さというより、どうやって危険を回避するかで冒険者のランクを上げてきた口だからな」

「情報通ってことですか」

「詳しくないと冒険者なんてすぐに死んじまうからな」

 ユーラさんとミラさんも頷く。
 ちなみに僕たちから離れたところでニーナさんは弓の手入れをしていた。 
 無口なニーナさんは、孤高って感じがして格好良い。

「ニーナさんもこっちでお話しませんか?」

 そう声を掛けたところグレンさんに止められた。
 そのまま注意される。

「そういうのは御法度だ。冒険者には距離感ってのがあるからな」

「距離感?」

「馴れ合いを嫌うやつもいるってことだ」

 聞けば騙されないように最低限の警戒心は持っていろということらしい。
 為になるな……詩織が妙に嬉しそうにその話を聞いていた。
 やっぱりこういう冒険者の暗黙のルールってあるんだね。
 それから【紅の牙】の人達はこれまでの失敗なんかも交えて色々教えてくれた。
 裏切りなんかも沢山あったらしい。
 それだけってこともないけど、仲良くなった人が次の日には魔物に殺されたなんてこともあるようで、必要以上に距離を詰めないことも大事だと教わった。
 シビアな世界なんだな……




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