神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸

文字の大きさ
上 下
24 / 39

第24話 魔槍グングニル

しおりを挟む




「ユウト様!!」

 リリアの空を切る叫び声。
 椅子を引かれて無理矢理距離を空けられたと気付いたのは、セラさんが僕を庇うように前に出ているのを見た後だった。

「下がっていろ」

 さすがに平和ボケが過ぎていた。
 自分が嫌になるくらい間抜けな判断だった。
 疑問を感じた時点でさっさと【神眼】で鑑定すれば良かったのに。

「この変装メイク時間掛かったんですけどねぇ~」

 ゼンさんは、口を三日月のように歪めて、粘質な笑い声をあげる。さらにその口ぶり。
 顔がくしゃりと潰れた。
 彼の全身が幽鬼のように揺らめいた。

「…………」

 セラさんが無言で剣を抜く。命を奪う刀身が明確な敵へと向けられる。
 侵入者であろう男は礼儀正しく一礼をした。
 巨大なコウモリのような翼を威嚇するように広げる。

「私の名はカルラ。魔王軍の幹部候補です」

 スーツによく似た服装をしている。
 一見すると人間に見えた。
 だけど耳が人ではありえないほど尖っている。
 そして、何よりも……その醜悪な笑みが本能的嫌悪を呼び起こす。
 肩の上にはなぜか西洋人形がケタケタと笑みを浮かべていた。
 何あの人形……怖くない?
 腰を折って一礼した時に、肩から落ちそうになっていたのを「おっと」と言って抑えていた。

「失敬。大切な物なのでね」

 礼儀正しく顔に微笑を湛えていた。
 それでもどこか不穏さを感じさせる笑み。
 僕は油断なくカルラと名乗った男を【神眼】で鑑定した。



――――――――



 カルラ(夢魔族)

 95歳
 
 Lv36

 生命 1720
 
 攻撃 160

 防御 230

 魔力 570

 俊敏 130

 幸運 110

 スキル【伝心】【操心】



――――――――


 【伝心】の文字が目に入る。
 もしかして、こいつがリリアに指示を出していた魔族なのか?

「油断するまで待っていましたが……いやあ、まさかこんなつまらないミスで――ッ!?」

 一瞬でセラさんがカルラに肉薄していた。
 間に合わないタイミングに思える。
 だけど、カルラの周りで耳障りな金属音と共に火花が散った。
 短剣が……浮いてる?
 サイコキネシスのような力を持っているんだろう。
 魔族の男の周囲に短剣が重力を無視する動きを見せながら浮かんでいた。

「少しはお喋りを楽しみましょうよ。守護神さん?」

「…………」

 沈黙するセラさんを見て尚も不気味に笑う男は、ねっとりとした視線を投げかけてきた。

「悪鬼の守護神セラ・グリフィス。レベル56。スキルは【調理】【未来視】【剣術】【速力】【復讐者】ですよね?」

 ブラフだった……って、わけじゃないんだろう。
 無数のスキルの中から偶然当てれるわけがない。

「べらべら喋る奴だな」

「ああ、失敬しました。お喋り好きなのでね。私の言葉で絶望する人間が大好きなんですよ」

「なら、そのついでに教えてもらおうか……何故知っている?」

 魔族の男は無言のままニタリと笑う。
 焦れた様にセラさんが再び魔族へと攻撃を加えるがまた防がれてしまう。

「この槍に貫かれて頂けるならお答えしますが?」

 いつの間にか手元には身の丈ほどの大槍が握られていた。

「……グングニルか」

「その通り。持ち主の生命を削ることを代償とするスキルを有した魔槍です。使い過ぎると寿命が削れるので嫌なのですが……さすがに悪鬼の守護神相手なら致し方なしでしょう」

 グングニル……北欧神話に出てくる狙ったものを必ず貫くと言われているあれか。
 名前からしてロクでもない能力なんだろう。
 というか武器がスキルを持ってるって……ありなのか。

「さすがに無策でこんなところまで来ませんよ。この一撃は悪鬼の守護神といえども防げません。放てば百発百中。狙ったものを必ず貫く必殺の槍です」

 そのままなのか……それ反則なんじゃないの?
 チート武器だよ。
 助太刀したいところだけど、さすがに実戦経験がない僕は足手まといだろう。
 いくらステータスとスキルがあっても、誰かを殺したことなんてないんだから。
 足が竦む。それを悟られないように自分を叱責した。

「ああ、召喚されたばかりの無知な勇者君はご存知なかったようですね。この世界では有名な武器なんですよぉ? なにせ絶対に躱せないですからねぇ?」

 にちゃりと口元を歪めて、煽ってきた。
 乗る価値のない挑発だ。だけど、不安はある。
 それなのに相手を見据えるセラさんは気負った様子もなくそこに佇んでいた。
 その姿はあの男の言う様に守護神の名に恥じない姿だった。

「お前達」

 そこでセラさんは僕たちを呼んだ。
 いきなりだったのでびっくりした。
 僕がセラさんを見ると彼女が言ってくる。

「あれは私にも防げない」

「え゛!?」

 体が強張る。
 え、無理なの?
 魔族カルラは笑みを深めた。
 文字通り悪魔のようなその表情。

「さて、貴女とのお喋りはここまでにしておきましょう……メインディッシュも残っていますからね」

 その言葉の意味に疑問を感じる間もなくカルラはグングニルを構えた。
 え、というか、え!?
 どうするのこれ!?

「いきますよ」

 まるで僕の恐怖心を味わうかのようにゆっくりと、緩慢な動きで槍を持つ腕を振り上げた。



 ッッッ!!!!!!!!!!
 


 暗闇で蝋燭を灯したような、そんな一瞬の淡い光が視界に広がった。
 気付けばセラさんがその場から消えていた。
 いや――

「セラさんッ!!」
 
 彼女は部屋の隅まで吹き飛ばされていた。
 槍が、がらん……っ、と音を立てて転がる。

「なるほど、さすが悪鬼の守護神……といったところですかね」

 セラさんの鎧は大きく欠損していた。
 壁に叩きつけられた彼女の体に血が伝う。
 無事かどうかは分からない。少なくとも意識はないようだった。

「確かに、百発百中なのは間違いありません。だから貴女は――当たってから軌道を変えたんですね」

 僕はセラさんの安否以上に、己の身の危険をひしひしと感じていた。
 危険を知らせる警報ベルが体内でけたたましく鳴り響く。

「くくく、そんなことができるのは貴女くらいのものでしょう……しかし、無傷では済まなかったようですね」

 どうする。いや、これ本当にどうする!?
 脳内で現状を整理する。
 何故かカルラは動かない。まるで何かを待っているかのようにニヤニヤと粘質な笑みを浮かべ続けている。
 その姿に恐怖を煽られながらも周囲を見渡す。
 グングニルは……奪って使えないかな。いや、無理だろう。もう一度【神眼】で鑑定したけどカルラの生命力は半分以上減っていた。
 恐らく本当に命を削って使用しているんだろう。減ってる生命力を見るに、僕が使えば一発で全部持っていかれる。
 幸いなのは一撃で半分以上の生命力を消費したということは二撃目はないってことだろう。
 とは言っても生命力はHPのようなものだ。相手が生命力を回復する手段を持っていないという保証もない。
 転がってきた槍を後方に蹴り飛ばした。これで相手の武器は奪えたことになる……けど、カルラの余裕は崩れなかった。
 次に純粋な戦闘力では……これも厳しいところだ。
 レベル56らしいセラさんの攻撃を防ぐ自由自在の短剣。防げる気も突破できる気もしない。
 今更だけど、もっとレベルを上げておけばよかった……本当に今更だな。
 セラさんを背負って逃げるのも悪手だろう。
 宿舎の周りを警護していた騎士の人達は……いや、もしかしたらそれは期待できない可能性がある。こいつはゼンさんに成りすましていた。
 ゼンさんのふりをしたまま、命令するなりして警護を遠ざけていても不思議ではなかった。
 だったら異変に気付いた誰かの助けが来るまで粘るしかない。

「ユウト様!」

 リリアが僕を庇うように前に出た。
 けど……駄目だ。彼女のステータスでは戦力には成り得ない。
 そんなリリアを見てカルラは醜悪な笑みをさらに深めた。

「くふふっ、これで準備は完璧! パーフェクトですね! 調節に時間は掛かりましたが、上手く事を運べて良かったです!」

 その言葉の意味は分からなかった。でも、どうやら何かよくないことを考えてるらしい。
 僕は前に出てくれたリリアを庇うように背後へと隠した。

「リリア……逃げてくれ」

「いけません! それではユウト様が!」

 彼女は退かなかった。
 一瞬でもカルラから視線を逸らしたことをすぐに後悔するも、僕の隙を狙った攻撃はやってこない。
 短剣は相変わらずふわふわと魔族の周囲を回っている。

「ところで勇者君。その魔族には随分と懐かれているようですね?」

「……それが?」

「くふふっ、そんなに警戒しないでくださいよぉ?」

 カルラを油断なく見据えた。警戒心を最大にまで引き上げた。
 リリアも居るんだ。ここは僕が前に出ないといけない。
 ステータスから考えて、少なくともリリアよりは対応できるだろう。

「いくつか質問宜しいでしょうか?」

 僕はその言葉の意味が分からなかった。
 だけど、少しでも時間稼ぎになるならと頷く。
 手がなくても時間の経過はこちらに有利に働くはずだから。

(リリア、お願いだからここは退いてくれ……時間は稼ぐから他の人を呼んできてほしい)

 小声で伝える。返事は返ってこなかった。

「まずは……勇者サヤマ・ユウトさん。淫魔が人族を慕うなんておぞましいと思いませんか?」

「……思いませんよ。リリアのことを知った風に言わないでほしいんですけど?」

 ふむふむ……と、深く頷く。

「そうですかね? 軽い女だと思いますが」

 ……落ち着け。動揺を誘っているだけだ。
 血が上りかけた頭。何とか冷静さを保つ。

「あなたにリリアの何が分かるんですか?」

「分かりますよ。だって、その女の意思と感情は私が操ったものなんですからね」

「は?」

 その問いの答え。
 魔族の男の言葉は僕の理解を完全に超えたものだった。

「リリア――刺しなさい」

 何かがぶつかったような軽い衝撃。
 パニックに陥った脳内とは裏腹に体の機能は正常に作動する。
 熱い。一瞬だけそう感じた。

「え……」

 僕がリリアに刺されたと理解したのはその直後の事だった。






しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました

柚木ゆず
ファンタジー
 ――次の人生では恋をしたい!!――  前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。  100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。  だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。  ――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。  婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。 ((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

冒険者をやめて田舎で隠居します

チャチャ
ファンタジー
世界には4つの大陸に国がある。 東の大陸に魔神族、西の大陸に人族、北の大陸に獣人族やドワーフ、南の大陸にエルフ、妖精族が住んでいる。 唯一のSSランクで英雄と言われているジークは、ある日を境に冒険者を引退して田舎で隠居するといい姿を消した。 ジークは、田舎でのんびりするはずが、知らず知らずに最強の村が出来上がっていた。 えっ?この街は何なんだ? ドラゴン、リザードマン、フェンリル、魔神族、エルフ、獣人族、ドワーフ、妖精? ただの村ですよ? ジークの周りには、たくさんの種族が集まり最強の村?へとなっていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...