19 / 39
第19話 勇者な女子会
しおりを挟むこっそり集まった夜の20時。
皆を見回すと、佐山先輩以外の全員が集まっていた。
姫木さん、秋山さん、リリアさん、それと私だ。
私こと栗田真子が僭越ながら開始の音頭を頂戴することに。
「第一回! 勇者な女子会を始めたいと思います!」
ぱちぱちぱち。
「ユウト様はいらっしゃらないんですね」
女子会ですからね。
佐山先輩は男だから当然不参加だ。
今私たちが集まってるのは秋山さんに割り当てられた一室。
大きな天蓋付きのキングサイズのベッドの横で、お菓子とジュースを囲んで豪華な高級カーペットの上に座り込んだ。
姫木さんが意外なことにそわそわしていた。その姿を新鮮に思いながらさっそく飲物に手を付ける。
「こういうのは初めてなので……なんだか緊張しますね」
と、今のは姫木さん。普段の凛とした姿とは違い、今は寝間着の可愛らしい女の子にしか見えなかった。
少し前の刺々しさは抜けていて、心なしか話しやすい。
だからなのだろう。ついつい踏み込んだ質問をしてしまう。
「姫木さんと佐山先輩はなんで急に仲良しになったんですか?」
「あっ、わ、私も気になってました」
「長くなりますけど、それでも良ければ」
姫木さんは、飲物で喉を潤すと、やがてゆっくりと口を開いた。
前の世界でのこと。佐山先輩に模擬戦を挑んだこと。卑怯な手で負けて、納得できなかったけど正論で言い負かされたこと。……そして、その後に慰めてもらえたこと。
「今までの私は前が見えていませんでした。何の覚悟もなかった」
姫木さんは、一拍置いてさらに続けた。
「そのことがあった直後は……正直悔しかったです。今まで嫌いだった男相手にそんなことを言われて……でも、こうも思ったんです。それも前が見えていなかった原因だったような気がして、これからは自分を改めないといけないなって」
それに、と――
「……意外と優しい人でしたし」
思わず見惚れてしまうほど、優しい顔だった。
ここに佐山先輩が居なくてよかった……姫木さんは元々かなり美人さんだから、そんな顔見せたら男なんてイチコロだろう。
眩しくさえ見える彼女の表情は艶があり、同性である私でさえも思わずドキッとするほどの色香があった。
というかなんで佐山先輩はそんな簡単にフラグを増設していくのか……
と、私たちの視線が集まってることに気付いたのか、姫木さんは慌てていた。
「す、すみません。つまらない話でしたね」
そんなことはなかったけど、内心では穏やかじゃない。
姫木さんは佐山先輩が好きなんだろうか?
「ヒメキ様はユウト様を好いていらっしゃるのですか?」
おおっ、リリアさんが一石を投じた。
気になってはいても聞けなかったことだ。
姫木さんは「そんな浮ついた気持ちじゃないですよ」と、否定していたけど声はちょっとだけ上擦っていた。
顔もなんだか赤い。上擦ったことが恥ずかしかったのか、それとも……
「それを言うならリリアさんも佐山先輩に気があるんじゃないですか?」
からかうように言ってやった。
ここで否定をしてくれればどれだけよかったか。だというのに、リリアさんはさも当然とばかりに言い放った。
「はい、好きですよ」
秋山さんが「ひゃわわっ」と、変な声を出して照れていた。私の心にも驚きが広がる。
けど、どこかで納得もしていた。やっぱりという感じだ。
「初めて男の人に優しくされたんです。我ながら惚れっぽいとは思いましたけど……私はあの御方の優しさに惹かれたんです」
自己嫌悪を覚えた。たぶん嫉妬だ。私はこんなに嫌な女だったんだろうかと考えてモヤモヤした。
「攻略されてないのは、自分だけなんですね……き、気を付けないと」
うんうん……うん?
「あの、秋山さん? 私も勘定に入れてませんか?」
「え、ち、違うんですか?」
……違わないけど。
「そういえば一番最初から気があるみたいな素振りでしたね」
姫木さんの言葉。
へぇ? と、皆の視線が鋭くなった。
恋バナで盛り上がれるのは異世界でも共通ということなのか……
「……気付いてたんですか?」
「分かり易かったですよ」
「佐山さんは、全く気付いてませんでしたけどねー……」
「うぐぐ」
妙に悔しかった。
大したことじゃない、とは思う。
今は委員会が同じだけ。惚れた理由だって大層な理由じゃない。
だけど――
「……クリタ様?」
顔を伏せた私を皆が見てくる。
私は少しだけ思考に耽った。
なんで気付いてくれないんだろう。皆に優しくするくせに。私は名前さえも覚えていてくれなかった。
「そういえば明日は王都でお買い物ですね」
「ふふっ、楽しみですね」
楽しそうに話しを弾ませる皆の姿がどこか他人事のように感じられた。
ねぇ、佐山先輩?
どうしてなんですか?
この中で一番貴方を長く、そして深く慕っているのは、私なんですよ……?
誰にだって負けない自信がある。それなのに――
自分の中に醜い感情の炎が見え隠れする。
皆に気付かれなかったことが幸いだった。
少し、ほんの少しだけだ。
でも、嗚呼――
少しだけ……妬ましい。
49
お気に入りに追加
1,583
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました
柚木ゆず
ファンタジー
――次の人生では恋をしたい!!――
前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。
100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。
だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。
――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。
婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。
((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。
サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。
人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、
前世のポイントを使ってチート化!
新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冒険者をやめて田舎で隠居します
チャチャ
ファンタジー
世界には4つの大陸に国がある。
東の大陸に魔神族、西の大陸に人族、北の大陸に獣人族やドワーフ、南の大陸にエルフ、妖精族が住んでいる。
唯一のSSランクで英雄と言われているジークは、ある日を境に冒険者を引退して田舎で隠居するといい姿を消した。
ジークは、田舎でのんびりするはずが、知らず知らずに最強の村が出来上がっていた。
えっ?この街は何なんだ?
ドラゴン、リザードマン、フェンリル、魔神族、エルフ、獣人族、ドワーフ、妖精?
ただの村ですよ?
ジークの周りには、たくさんの種族が集まり最強の村?へとなっていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる