上 下
8 / 39

第8話 魔族

しおりを挟む




「あの」

 給仕係に伝えようとして止める。
 判別が難しいため偶然混ざっていたのだと考えた。
 僕はすぐに日和った考えを振り払う。
 魔族領の一部で栽培されている食材がそんな都合よく混ざるのか?
 更に言うなら僕たち勇者の食事に……果たしてこれを偶然で片づけていいのだろうか。

「? どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ」

 可愛らしく首を傾げる秋山さんを尻目に全ての食材に【神眼】による鑑定をかけていく。
 見た限り毒物はこの1つだけだった。

「勇者様方、この度は――」

 堅苦しい挨拶を聞き流しながら必死に頭を回す。
 まずこの毒は遅効性だ。
 誰かが故意に混入させたものだとして……なぜ即効性のものではないのか。
 たぶん毒を体内に入れたのを確認した後に逃げる時間を稼ぐためではないだろうか?
 毒だと断定できなければ犯人探しもすぐには始まらないだろう。
 なら……この城の人間の中に敵対関係の人間がいる。

 更に毒味を回避出来たなら、ここに運ばれる直前、または運ばれてから料理の中に混ぜたはずだ。
 それなら近くにまだ残っているはず。
 順番に一人ずつ見ていく。
 逃がすわけにはいかない。
 なぜならその存在が1人だという保証がないからだ。
 毒を混ぜた存在を排除出来たとして他にもいたらいずれ僕たちは死ぬ。
 勇者の食事に毒物を混ぜれるというのはあり得ないことだと思う。
 それが可能なのだとしたら、その気になったら国の中枢を一瞬で落とされる。
 捕まえて聞くのが最善手だ。
 最悪の場合は僕のスキルを明かす必要がある。
 というかたぶんそれが一番安全だ。
 後で怒られたり問題は起きるだろうけど、命以上に大事な物はないのだから。
 だけどそこで僕の思考は止まる。
 僕たちをここに案内したメイドの少女の情報を見た瞬間確信を得られたからだ。

「……見つけた」

―――


 リリア(淫魔族) 

 Lv8

 15歳

 生命 700
 
 攻撃 45

 防御 20

 魔力 50

 俊敏 10

 幸運 90

 スキル【変装】【偽装】【魅了】【変換】

 加護【魔王の加護】


―――

 僕はメイドの少女を手招きで呼ぶ。

「どうされました?」

 可愛らしい顔が近づいてくる。
 【神眼】がなければ絶対に分からなかっただろう。
 近付いてきた彼女の手にソッと触れる。
 
「ゆ、勇者様……?」

 動揺している……ように見える。
 だけど【神眼】で見たところその動揺は嘘だと分かる。
 どうやら【神眼】は、表裏でハッキリ分かるものではなく、昔の嘘発見器みたいに感情の揺らぎを感知するものらしい。
 この子はまるで動揺していない。
 うーん、ラノベとかだとこういうので照れられたりするんだけどね。
 ほら、笑いかけたり撫でたりするだけで惚れられるニコポとかナデポみたいな。
 現実はそこまで甘くないよね。
 僕はメイドを装った魔族にだけ聞こえるほどの小さな声で囁く。

「キミ魔族だよね?」

「はい?」

 とぼけた様にきょとんとした顔をつくる。
 これが演技だというのだから凄いよね。
 だけど僕の【神眼】スキルは、微かな動揺を間違いなく感じ取っていた。

「遅効性の毒なんて回りくどい方法を取ったのは逃げるための時間稼ぎだよね?」

「……勇者様? 何を……」

「もしかして結構警備厳重だったから人の目があって殺せなかった?」

「あの、ほんとになんのことですか……?」

 傍から見れば手洗いの場所でもこっそり聞こうとしているように見えるのかな?
 まあそれなら好都合。
 僕はさらに声量を下げて少女に質問を繰り返す。
 少女は本気で疑問に感じているようだった。
 少なくとも僕にはそう見える。
 これが演技なのだとしたら僕には女性というものを信じることが出来る日は来ないかもしれない。
 だけど僕はそんな彼女に「じゃあさ」と、不敵に笑い言ってやった。

「なんで重心後ろに下げたの?」

「………それで、何が目的ですか?」

 ついに少女は否定することをやめた。
 つまりそれは僕を警戒していたと認めたのだ。
 重心に関しては完全にブラフだったんだけどどうやら信じてくれたらしい。
 平和な日本育ち、しかも格闘技の経験0の僕にそんな重心がどうとかなんて分かるはずもない。
 しかもこの子はメイド服なので尚更分かりにくい。
 重心に関してもなんか格好良いよね、くらいしか知らない。
 だけど……どうやら嵌ってくれたらしい。

「人のいないところにいかない? その方がお互い都合がいいと思うんだけど?」

 少女は油断なくこちらを見据えている。
 僕は手を上げて周囲に聞こえるように大声で言った。

「すいませーん! トイレ行ってきます!」

 同郷の皆の視線が痛かったのは言うまでもないだろう。




しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...