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第1話 勇者召喚
しおりを挟むHRの終わった放課後。
教師の長い話を聞き終えて僕は背伸びをする。
今日は一段と長かったな……少しだけ凝った筋肉を解すように肩を回すと、席を立ちあがるクラスメイト達が目に入った。
一足先に廊下で待っていた友人たちと合流し雑談したりする男子生徒。
宿題のことを話し合う優等生な委員長。
皆が思い思いの時間を過ごしていた。
「悠斗は今日どうする?」
すると僕にクラスメイトの健太が話しかけてきた。
高校に入ってからの付き合いで、いつも下らないことを話したりする友達だ。
「帰ってからラノベでも読もうかな」
ちなみに僕こと佐山悠斗はオタクだ。
隠してもいないので、このクラスの人間はみんな知っている。
クラス内カースト上位の所謂リア充グループだったりする人たちは、そういうのを気持ち悪いとか思っているようだけど僕は気にしない。
というか人に迷惑をかけない趣味をあれこれ言うのは野暮だと思う。
「相変わらずだな……」
はは、と苦笑を浮かべられる。
いいじゃないか、好きなんだから。
ちなみにジャンルは問わない。
基本的に可愛い女の子が出るラノベは皆好きだ。
「じゃあ、帰るよ。健太は?」
「俺はゲーセンかな」
「そっか」
健太の方も相変わらずだった。
聞けば新作の格闘ゲームの台が先日入ったらしい。
少し興奮気味に新台の良さを語ってくる。
その言葉を聞き流しながら僕はカバンを手に取り、席を立ちあがる。
その瞬間――
「え」
地面が強く光った。
一瞬だけ視界を奪われる。
しばらくして光に慣れた目を開け現状を把握しようとする。
視界のすぐ下には見たことのない光景が広がっていた。
詳しくはないけど黒魔術とかで使われる魔法陣が脳裏に浮かんだ。
「な、なんだこれ!?」
健太の慌てるような声。
魔法陣は僕の真下だけに現れている。
不思議と動けず、僕は唖然とそれを見ていた。
キャー! と、女子生徒の誰かの悲鳴が遠くに聞こえる。
騒めき出すクラスメイトの皆の視線の先にいる僕は、どうすることもできなかった。
まるで強力な力に押さえつけられているかのようだ。指一本動かせない。
脳内はパニック状態。どうすればいいのかも分からないまま、一際強く発光した魔法陣に僕の体は飲み込まれた。
◇◇◇
気が付くと真っ白い空間。
不思議な世界だった。
輪郭がぼやけるほどの強い光に満ちているのに足元には影すら出来ていない。
周囲には何もなく、目の前には一人の男が立っていた。
「よう、突然悪かったな」
長ズボンにシャツを着た茶髪の男。
歳は20後半くらいだろうか?
若い上に顔も良い。
転移前に唖然とこちらを見ていたリア充グループの山崎君もかなり格好良い容姿だと思っていたけどこれはレベルが違う。
まるで違う生物なんじゃないかってくらい整っている。
なんだろう、無性に悔しい。
「あなたは?」
僕が問いかける。
「俺はとある世界の管理を任されている神だ」
「なるほど……? えっと、ここはどこなんですか?」
「おい、信じてないな?」
ノリの良いツッコミが入った。
半眼でこちらを見てくる神様……自称だけど。
「いや、信じますよ。オタクなのでこういうのは知ってます」
たぶんよくある異世界ものだろう。
受け入れが早い気もするけど慌てても話は進まないのでとりあえず信じる。
というよりそうでもないと現状は説明できない。
期待も含めて僕はそちらの可能性が高いと思っていた。
それでも現実味のなさに頭の中はまだフワフワしているけど……
「くくく、面白い奴だな。この空間は……そうだな、お前のいた世界と異界の間にある空間だと思えばいい」
ってことはこれから僕は異世界に飛ばされるのだろうか?
僕があれこれどうなるんだろうと考えていると神と名乗った男は口を開く。
「この空間には精神を落ち着けて説得しやすくする効果が働いてる。それにしてもお前の理解はかなり早い方だったけどな」
ああ、だから僕は焦ってないのか。
言われてみればリラックス出来ている気がする。
無理矢理に抑制されてるとも取れるけど。
大丈夫かなこれ……所謂ハズレな異世界モノじゃなければいいんだけど。
そんな不安も脳裏を過ぎるけど、すぐに穏やかな精神状態へと戻った。
「毎回慌てられても話が進まないしな」
おずおずと手を上げる。一応神様ということなのでこちらは警戒気味だ。と、思っていたけどすぐに抑制された。便利だなこの空間。自室のベッドの上よりリラックス出来る。
「なんだ?」
続いて質問が許されたようなのでもう一度口を開いた。
「早い方ってことは他にもここに来た人がいるんですか?」
「それに関しては順番に答えていこう。お前は勇者召喚されたんだ」
ほんとにテンプレートな展開だったらしい。
勇者召喚系……か。
勇者がいるなら敵はやはり魔王なのだろうか。
「魔王を倒してくれみたいな?」
そうだ、と神様が頷く。
「日本各地からそれぞれ選ばれててな、今回はお前を入れて4人が召喚された。ほかの3人は既に異世界に送る途中だ」
「日本からだけなんですか?」
「この手の話に関して理解が早いからな」
ああ、なるほど。
僕みたいなオタクもいるからね。
ファンタジーとかネット小説とか色々流行ってるし。
ついでに意思の疎通に関しても同じ言語で同じ文化形態で過ごした人間同士の方が都合が良いっていう狙いもあるんじゃないだろうか。
「……ところで魔王? を倒せたらご褒美貰えるんですかね?」
「ご褒美?」
神様が繰り返す。
「たぶん笑いあり涙ありの超大作感動ストーリーになると思うんですよね。そんな時にエンディングで勇者が湿気た顔してたら台無しじゃないですか」
「自分で言うことなのかそれは……勇者の癖に欲張るなよ。そういうことは召喚した奴に頼め。俺は知らねーよ」
むぅ、駄目なのか。イメージ的に命の危険もありそうだからちょっとくらいはと思ったんだけど。
チラッと神様を見る。何か変なテンションになってるな僕。非日常に高揚しているんだろうか。
何にせよ神様相手にこれだけ図々しく物が言えるのだって、この空間の力のおかげかもしれない。
「召喚した人ってどんな人なんですか? その人にはお金とか貰えますかね?」
「その辺はあっちに行ってから自分で確認することだ。というかお前、俗物過ぎるだろ……」
情報少ないな……まあ、これ以上ごねて機嫌損ねてもあれだし引き下がっておくか。
心なしか呆れた顔の神様。今更だけど怒られなかっただけ良しとしよう。
「ま、いきなり呼ばれたことには同情するけどな」
聞けば世界を行き来するにはこうして管理する神様を経由する必要があるらしい。
それはどこの世界でも共通なのだそうだ。
なんか日本の管理職みたいだな。
「送る前に一人一人と直接会って好きな能力を与えている」
僕が言葉を反芻するように頷く。
すると神様が言う。
「どんな能力がいい?」
「1人1個だけなんですか?」
「基本的にはそうだ、不公平になるからな」
その言葉を聞いて考える。
神様は言った。
――基本的にはそうだ、か。
絶対ではない……のだろうか。
その言い方だと抜け道が存在する。
「……例外もあるってことですか?」
それに対する返答は「さぁな」と、そっけないものだった。
だけどそれだけで十分だった。
過去に例外が存在したならその人は何らかの方法で能力を複数貰ったのだろう。
それに加えて神様はこうも言っていた。
『この手の話に関して理解が早いからな』
ならスキルを複数貰う方法もテンプレになぞらえているのだと推測できないだろうか。
その中で能力を優遇してもらえる場合は……
「賭けをしませんか?」
僕は一つの提案をしてみた。
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