9 / 17
9話
しおりを挟む
ジークがキサラギに敗れ少女の手で治療を受け始めてからどれぐらいの日にちが経っていたことであろうか。
崖から落下し死の淵から少女の力で這い上がったジークの体は再び戦える状態へと脈を打ち始めている。
体はすでに武器を振れるまでに癒えジークは洞窟を出て王都に向かって歩み始めた
以前は痛みに軋んだ体が地面を踏みしめる感触をしっかりと受け止めてみせたことに安堵を覚える。
そんなジークの後ろにはいつのまにか姿をみせた少女がついてきていた。
「来ていたのか……王都まで来るのか?」
仏頂面のまま少女が答える。
「当然だ、何のためにお前を治療したと思ってる?」
返ってきた答えにジークは理由を問うたりはしなかった。
何らかの思惑があってのことだと思うが治療を受けた手前それを聞くことをジーク自身が咎めたのだ。
彼自身もマリアやキサラギの事で頭が一杯だったゆえかそれ以上の会話はなかった。
ジークと少女はただひたすら王都へと向かう。
二人の間をひたすら無言が続くなか最寄りの街へと立ち寄るべく街の入口まで近づいた。
誰何しようとこちらに近づいてきた兵士がジークの顔をしばし見た後、あっと声をあげる。
「……あんた、い、いや、あなたは……ジークバルト様か!?」
死んだと思われていたジークが生きて姿を現したことに兵士は驚きを隠せないでいた。
土や血で汚れあちこちが歪んだ鎧を身に付ける、まるで幽鬼のようなジークを兵士はまじまじと見つめた。
そして魔王討伐のさなかに何が起きたのか根掘り葉掘り聞こうとし始めたためジークは兵士を目で戒める。
威圧され口をつぐんだ兵士にジークはあごで指し示すように促す。
怯んだままカクカクと頷き特に手続きを行うことなく兵士が通行を許可しジークは街内へ足を踏み入れる。
街へ足を踏み入れようとしたその時にジークの後ろから何やら揉めているような声が聞こえた。
「どうしてジークはすぐに通れたのに私はだめなんだ!」
振り返ったジークの前で少女がジークを指差し兵士と何やら口論になっていた。
フードで頭を覆っているため即頭部にある角は見えていないだろうが放っておけば揉め事になるのは必定である。
騒ぎを嫌ったジークは踵を返すと兵士に少女も通すように告げる。
「俺の連れだ」
そう告げられた兵士はジークと少女をしばし見比べていたが根負けしたように再び通行の許可を出した。
今度は二人並んで入場する。
並んだままジークは少女へ咎めるように話しかけた。
「あまり騒ぎを起こすな、王都までが遠くなる」
少女はジークの言葉を受けれがたいようにひとりごちる。
「どうして私が人間の機嫌を取らねば……」
懲りてない少女の様子にジークはため息を付きながら「次は置いていくぞ」と宣言する。
「うっ、ぐう…………分かった……」
渋々ながらも少女がジークの言うことに従う。
会話を終えたジークは真っ先に街の鍛冶屋へと向かった。
武器を失い得物を持たないジークは鍛冶小屋の中へ入ると立てかけてある剣を物色していく。
いくつかめぼしい剣を手に取ると一本ずつ上段から空を切り下げる。
何本か試したジークは手にしたものから一本の剣を選んだ。
以前に持っていた剣とは比べるべくもない出来ではあったがそれでも武器は武器である。
残されたわずかな金を払うとジークは屯所へと向かった。
扉を叩くと中から返事があり、無造作に屯所の中へと入ったジークをここでも余計な詮索が取り囲んだ。
目を怒らせながらジークは最低限の説明だけを行い馬を借り入れる。
最後の残された金を叩きつけるように出てきたジークに少女が問い詰める。
「お金を全部使ってしまって……どうするのよ?」
「あてはある」
短く返答するとジークは入ったばかりの街をでるべく門の方へ向かった。
「もう夜よ? 宿屋に泊まったりするんじゃないの?」
宿屋で一泊するとばかり思っていた少女は焦りジークの横を小走りしながら引き止めようとするもジークの足は止まらない。
結局、ジークを止めることができず少女もつられる形で真夜中の森へ向かう羽目になった。
そして、少女は魔法で起こした火でジークが語った「あて」にかじりついている。
ジークが語ったあれとは森をねぐらとする獣を狩ることでの食料を現地調達することであった。
手に入れたばかりの剣で獣を狩り乱雑に切り分けた肉を焚き火にくべていく。
火が十分に通ったものからジークは肉へとかぶりついた。
その様を見ていた少女も続くように肉にかぶりつき、吐き出した。
「あ、味がないじゃない!」
「調味料なんかないからな」
粗雑に焼いただけの獣肉をジークは止まることなく口に入れていく。
そんなジークの様を信じられないものを見るような目で見ていた少女は自らの腹を見下ろし葛藤する。
しばし考えた後、空腹に負けた少女は獣特有の臭みが全く誤魔化されていない焼かれた肉を睨むようにかぶりついていった。
二人は森で夜を明かし空がしらみ始めたところで少女が目を覚ました。
寝惚け眼で目をこすりながら少女は周囲を見渡しジークが居ないことに気付いた。
「置いていかれた!?」
意識が瞬時に覚醒した少女はあてもなく走った。
わずかな距離だったが少女からすれば焦りの分だけ長く感じられたその走りも小川を前にして勢いが止められる。
川の先を見つめていた少女であったが、ふと聞こえた水音に目を向ける。
「あっ、うあっあ……」
少女の顔は瞬く間に朱に染まり硬直してしまった。
視線の先でジークが一糸まとわぬ姿で水浴びをしていたためである。
固まっていた少女はジークと目があってしまう。
数瞬後、少女は回れ右をして元の焚き火があった場所へとひた走る。
そして男の裸体を目の当たりにした衝撃からか少女は転げるように悶え始めた。
それはジークが戻った後でも続き少女はしばらくジークの顔を直視することができなかったのである。
血糊や汚れをすっかり落としたジークは後ろに不機嫌な様子の少女を載せながら王都へと馬を駆けさせていく。
だが少女の気持ちとは別にジークの胸中は王都に近づくにつれさざめいていく。
「マリア……もう少しだ、待っていてくれ……」
ぽつりとジークの口からマリアへの思いがこぼれ落ちていった。
崖から落下し死の淵から少女の力で這い上がったジークの体は再び戦える状態へと脈を打ち始めている。
体はすでに武器を振れるまでに癒えジークは洞窟を出て王都に向かって歩み始めた
以前は痛みに軋んだ体が地面を踏みしめる感触をしっかりと受け止めてみせたことに安堵を覚える。
そんなジークの後ろにはいつのまにか姿をみせた少女がついてきていた。
「来ていたのか……王都まで来るのか?」
仏頂面のまま少女が答える。
「当然だ、何のためにお前を治療したと思ってる?」
返ってきた答えにジークは理由を問うたりはしなかった。
何らかの思惑があってのことだと思うが治療を受けた手前それを聞くことをジーク自身が咎めたのだ。
彼自身もマリアやキサラギの事で頭が一杯だったゆえかそれ以上の会話はなかった。
ジークと少女はただひたすら王都へと向かう。
二人の間をひたすら無言が続くなか最寄りの街へと立ち寄るべく街の入口まで近づいた。
誰何しようとこちらに近づいてきた兵士がジークの顔をしばし見た後、あっと声をあげる。
「……あんた、い、いや、あなたは……ジークバルト様か!?」
死んだと思われていたジークが生きて姿を現したことに兵士は驚きを隠せないでいた。
土や血で汚れあちこちが歪んだ鎧を身に付ける、まるで幽鬼のようなジークを兵士はまじまじと見つめた。
そして魔王討伐のさなかに何が起きたのか根掘り葉掘り聞こうとし始めたためジークは兵士を目で戒める。
威圧され口をつぐんだ兵士にジークはあごで指し示すように促す。
怯んだままカクカクと頷き特に手続きを行うことなく兵士が通行を許可しジークは街内へ足を踏み入れる。
街へ足を踏み入れようとしたその時にジークの後ろから何やら揉めているような声が聞こえた。
「どうしてジークはすぐに通れたのに私はだめなんだ!」
振り返ったジークの前で少女がジークを指差し兵士と何やら口論になっていた。
フードで頭を覆っているため即頭部にある角は見えていないだろうが放っておけば揉め事になるのは必定である。
騒ぎを嫌ったジークは踵を返すと兵士に少女も通すように告げる。
「俺の連れだ」
そう告げられた兵士はジークと少女をしばし見比べていたが根負けしたように再び通行の許可を出した。
今度は二人並んで入場する。
並んだままジークは少女へ咎めるように話しかけた。
「あまり騒ぎを起こすな、王都までが遠くなる」
少女はジークの言葉を受けれがたいようにひとりごちる。
「どうして私が人間の機嫌を取らねば……」
懲りてない少女の様子にジークはため息を付きながら「次は置いていくぞ」と宣言する。
「うっ、ぐう…………分かった……」
渋々ながらも少女がジークの言うことに従う。
会話を終えたジークは真っ先に街の鍛冶屋へと向かった。
武器を失い得物を持たないジークは鍛冶小屋の中へ入ると立てかけてある剣を物色していく。
いくつかめぼしい剣を手に取ると一本ずつ上段から空を切り下げる。
何本か試したジークは手にしたものから一本の剣を選んだ。
以前に持っていた剣とは比べるべくもない出来ではあったがそれでも武器は武器である。
残されたわずかな金を払うとジークは屯所へと向かった。
扉を叩くと中から返事があり、無造作に屯所の中へと入ったジークをここでも余計な詮索が取り囲んだ。
目を怒らせながらジークは最低限の説明だけを行い馬を借り入れる。
最後の残された金を叩きつけるように出てきたジークに少女が問い詰める。
「お金を全部使ってしまって……どうするのよ?」
「あてはある」
短く返答するとジークは入ったばかりの街をでるべく門の方へ向かった。
「もう夜よ? 宿屋に泊まったりするんじゃないの?」
宿屋で一泊するとばかり思っていた少女は焦りジークの横を小走りしながら引き止めようとするもジークの足は止まらない。
結局、ジークを止めることができず少女もつられる形で真夜中の森へ向かう羽目になった。
そして、少女は魔法で起こした火でジークが語った「あて」にかじりついている。
ジークが語ったあれとは森をねぐらとする獣を狩ることでの食料を現地調達することであった。
手に入れたばかりの剣で獣を狩り乱雑に切り分けた肉を焚き火にくべていく。
火が十分に通ったものからジークは肉へとかぶりついた。
その様を見ていた少女も続くように肉にかぶりつき、吐き出した。
「あ、味がないじゃない!」
「調味料なんかないからな」
粗雑に焼いただけの獣肉をジークは止まることなく口に入れていく。
そんなジークの様を信じられないものを見るような目で見ていた少女は自らの腹を見下ろし葛藤する。
しばし考えた後、空腹に負けた少女は獣特有の臭みが全く誤魔化されていない焼かれた肉を睨むようにかぶりついていった。
二人は森で夜を明かし空がしらみ始めたところで少女が目を覚ました。
寝惚け眼で目をこすりながら少女は周囲を見渡しジークが居ないことに気付いた。
「置いていかれた!?」
意識が瞬時に覚醒した少女はあてもなく走った。
わずかな距離だったが少女からすれば焦りの分だけ長く感じられたその走りも小川を前にして勢いが止められる。
川の先を見つめていた少女であったが、ふと聞こえた水音に目を向ける。
「あっ、うあっあ……」
少女の顔は瞬く間に朱に染まり硬直してしまった。
視線の先でジークが一糸まとわぬ姿で水浴びをしていたためである。
固まっていた少女はジークと目があってしまう。
数瞬後、少女は回れ右をして元の焚き火があった場所へとひた走る。
そして男の裸体を目の当たりにした衝撃からか少女は転げるように悶え始めた。
それはジークが戻った後でも続き少女はしばらくジークの顔を直視することができなかったのである。
血糊や汚れをすっかり落としたジークは後ろに不機嫌な様子の少女を載せながら王都へと馬を駆けさせていく。
だが少女の気持ちとは別にジークの胸中は王都に近づくにつれさざめいていく。
「マリア……もう少しだ、待っていてくれ……」
ぽつりとジークの口からマリアへの思いがこぼれ落ちていった。
1
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる