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6. 二人の秘密を知っている男

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二人の男は背の高さだけでなく自信に満ちた姿勢で立ちお互いに対峙していた。
 その迫力と緊張感から僕は恐れ怯えてもう静止させる気力を失っていた。
 花野は武藤の首筋付近に指をスルリと入れた。
 くすぐったかったのか一瞬体が「ぴくっ」と反応した。
 その声は耳に触れるようなほんのかすかなボリュームで呟いた。
 花野は渡辺に聞こえないように小さい声で怪しげに…


 「…お前にあげるご褒美なににしようかなぁ…俺のチンコでもあげようか?あっ。お前タチなんだったけな?」


 「っっ!!!…てめぇ!!!!?」


 武藤は怒りに任せて思わずその手を大きく振りかぶったが周囲の状況を察して俊敏に我慢した。
 腕が振りかぶられたまま止まりその動きは急に止まったかのように凍りついた。
 顔には深い葛藤が刻み込まれ目には一瞬の熱い闘志と次第に消えていく自制心が交錯している。
 周囲の状況を冷静に把握し喧嘩がこの場では許されないことを理解しゆっくりと腕を下した。


 「どーしたの?俺って情報網なの!んで渡辺はネコちゃんで今はお前のペットなんだよな?」


 「…お前。そんなことなんで知ってる?」


 怒りを抑えるための苦悶が滲み出ていた。


 「ふはは!いいねー!何でもできる優等生のその苦悶に満ち溢れたその表情!あははっ!好きだなーその顔!」


 激しい怒りを抑えようと必死に努力している武藤の事を益々煽ってくる花野。
 今にも喧嘩が起きるかのような状況で二人の男の間の距離が詰まりいつでも争いが勃発する可能性があるような緊張感が漂っていた。


 『あああ…これ以上この状況を継続させるわけにはいかない…』


 何とかしなければ…
 とあたふたしていると


   「ガラッ!」


 まだ始業の鐘の音が鳴る前に担任が入ってきた。


 「おーい。ちょっと早いけど朝礼始めるぞ。席につけー」


 始業が予定よりも早く到来したことにより教室内では生徒たちの不満が顕在化していた。
 時計を見る生徒やため息をつく者不機嫌そうな表情を浮かべるクラスメイト達。
 僕は安堵に包まれ「ほっ」と一人ため息をついた。


 「武藤君。花野君。早く席に着きなよ?」

 
 二人を離すように促した。


 「はいよー。渡辺がそう言うんだから戻りますー。また仲良くお話しようねっ?む・と・う・く・ん?」


 最後まで煽り散らかしてくる花野。
 武藤はまだ不機嫌な表情を浮かべたまま渡辺の机の横に立っている。


 「あ…あの。武藤君も早く席に…」


 まだ途中だった言葉の上から命ずるかのように声をかぶせてきた。


 「今日、学校終わったら俺の家に来い」


 ぶっきらぼうに呟くと颯爽と自分の席に戻っていった。


 『今日…武藤君の家に…行く?』


 僕は机に座ったまま目を凝らしドアの方をボーっと見つめていた。
 心は不安と緊張で揺れ動き一体何が起こるのか予測できない不確かさに怯えていた。

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