「君までの距離」

甘党王子

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1.片思いしていた彼と同じクラスになれた高校初日のクラス発表の日

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新しい制服のスカートが春の陽気に揺れる。
私はそのスカートの端を少しつまみながら緊張と興奮が入り混じった気持ちを抱えて校庭を歩いていた。
新しい高校生活が始まるこの日、心の中にちょっとした不安と大きな期待が入り混じっている。
中学を卒業してからというものずっと胸の奥に温めてきた思いがある。
その思いが今日という日にさらに強くなっているのだ。


「ねえ、茉莉、大丈夫?なんだか緊張してるみたいだけど」


と、親友の高橋結衣(たかはし ゆい)が心配そうに私の横に並びながら言った。
結衣は相変わらず明るくて元気な笑顔を見せてくれていた。
彼女と一緒にいると少しだけ不安が和らぐような気がする。


「うん、大丈夫。ちょっとドキドキしてるだけ」


と私は微笑むけれどその笑顔はどうやら少し硬かったようだ。


「大丈夫よ、茉莉。これからが楽しみだね!それに、私たちが一緒なら何があっても乗り越えられるって」


と結衣は言いながら私の手を優しく握った。
その温かさが私の心に少しだけ安堵をもたらしてくれる。

私達は校門をくぐり広がる校庭を眺めた。
まだ朝の空気がひんやりと感じられ、どこか新鮮で清々しい雰囲気が漂っていた。
私はその景色を見なが心の中でちょっとした不安を感じると同時にこれから始まる新しい生活への期待も膨らんでいた。


「ところで、茉莉、クラスがどこになるか分かった?」


と結衣が話題を変えた。


「ううん、まだ分からないの。掲示板を見に行かなきゃ」


と私は答えた。
少しだけ焦る気持ちを感じながらもまずは掲示板に向かうことにした。
掲示板の前に着くとたくさんの生徒たちが集まっていてその中でクラス発表を待っている様子が見受けられた。
私は結衣と一緒に掲示板の前に立ち少しドキドキしながらクラス分けの発表を待っていた。


「茉莉、どうしよう。もしクラスがバラバラだったら…」


と結衣が不安そうに言った。


「きっと大丈夫よ。私たちが一緒なら、どんなことでも楽しくなるって」


と私はなるべく明るい声で答えた。


掲示板の発表が始まり生徒たちがその結果を見ていく中私たちも自分たちの名前を探していた。
そしてようやく私の名前を見つけた瞬間心臓が一気に高鳴った。
私の名前が掲示板にあったことにホッとしつつさらにその後ろの方で目を引く一つの名前に気づいた。


「翔太…く…ん?」


私は息を呑んだ。
実は茉莉のドキドキの原因は高校の入学式の日に分かったことであった。
彼女の片思いの相手藤井翔太(ふじい しょうた)が同じ高校に進学していたのだ。
翔太は中学校の頃からずっと憧れの存在でサッカー部のエースとして学校内外からの人気者だった。
茉莉はそのことに気づいた瞬間心臓がドキドキと高鳴った。


「翔太くんがいる高校に進学するなんて、運命かもね」


結衣がいたずらっぽく言う。
そこには藤井翔太の名前があった。
彼も私と同じクラスになっていたのだ。
翔太くんは学校の中で一際目立つ存在だった。
サッカー部のエースとして、彼はその技術と努力でチームを引っ張り何度も試合で活躍してきた。
その姿はまさにヒーローそのもので学校中の誰もが彼のことを知っている。
私が翔太くんを好きになったのも彼がサッカー部で活躍する姿を見てからだった。
いつも真剣な表情でグラウンドを駆け抜けゴールを決める瞬間はまるで時間が止まったかのように感じた。
その瞬間、私は彼に夢中になってしまったのだ。
翔太くんはただサッカーが上手いだけでなくその見た目もかなりかっこいい。
背が高くて引き締まった体格そして爽やかな笑顔。
その笑顔を見るたび、私の心はドキドキと高鳴り、彼のことをもっと知りたいと思う気持ちがどんどん強くなっていった。
女子の間でも翔太くんはすごく人気がある。
彼が廊下を歩くといつも女子たちの視線が集まり、自然と周りに人が集まってくる。
彼に話しかけられるだけでみんなが嬉しそうに微笑む。
そんな彼の姿を見るたびに私の胸はちくりと痛んだ。


「翔太くんって、ほんとにかっこいいよね」


と、友達の結衣が私に言ったことがある。


「うん…そうだね」


と、私は返事をしながらも心の中で焦りを感じていた。
結衣も翔太くんのことが好きなのかもしれない…そんな不安が頭をよぎった。
誰に対しても優しくていつも周りのことを考えているところが素敵だった。
部活が終わった後疲れているはずなのに後輩たちにアドバイスをしたり道具を片付けたりと誰にでも分け隔てなく接している。
そんな翔太くんだからこそ彼に惹かれる女子が多いのも無理はない。
私もその一人だけど、実はまだ一度も話したことがない。
自分の存在を知ってくれているのかも分からない。
だからこそ彼に直接気持ちを伝える勇気がなくもないし、ただ遠くから彼を見つめているだけだった。
でもそんなことをしている間に他の誰かが翔太くんの心を掴んでしまうのではないかと、不安になることもある。


『どうしたら、彼にもっと近づけるんだろう…』


と、私は何度も自分に問いかけた。
サッカー部のエースでみんなの憧れの存在である翔太くん。
そんな彼に、私の気持ちは届くのだろうか。
それでも、私は諦めたくなかった。
翔太くんがかっこよくて、優しくて、みんなに好かれる理由を知っているからこそ、彼に惹かれている自分を止められない。
そして、いつか彼に自分の気持ちを伝えられる日が来ることを心のどこかで願っていた。
そんな彼と同じクラスになれたんだ。
ドキドキで心臓が破裂しそうだ…。
クラスに行けば彼がいる。毎日会えるし声も聴ける。
こんな幸せなことがあっていいのでしょうか…。


「茉莉、大丈夫?」


と結衣が心配そうに声をかけてきた。


「うん、なんでもない」


と私は必死に平静を装いながら答えた。


「ただ、ちょっと驚いただけ。」


「ずっと好きだったもんね。これから楽しみだね」


‥‥本心なのかな?
親友でも翔太を好きならライバルだ…
親友の葉言をちょっとでも疑ってしまう自分が恥ずかしい。
期待と不安を胸に二人は決められた教室に向かった。
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