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17:鉄の船の出航
しおりを挟む──懐かしい夢を見ている。
本能的にそう感じて目を開けると、周りが燃え盛っていた。
頭が熱い。額から血が流れ落ちている。
ああ、そうか。そうだ。
歩いていたら、突然、襲われて、巻き込まれて。
手を伸ばすと届く距離に、武器が落ちていた。
拾いあげると、不思議なことに安心した。
理不尽に殺されるばかりではなく──反撃の力が、今、ある。
(そうだ、私は──あの時。戦って、生き残ることを決めたんだ)
なのにどうして。
どうして、あそこでこの星と心中しようと諦めたのだろう。
何がどうして、どうでもよくなったのだろう。
そうなる前のことが思い出せない。
司令官と出会う前が思い出せない。
私の周りはみんな手負いの兵士で、もう私が一人で出るしかなかった。
私に託されたのだ。
人類の未来を、頼む、と、そう──誰かに、言われたのだ。
(そうだ。それが、ひっかかった)
人類だけの未来を頼まれる筋合いはないと。
心のどこかで、思っていたのかもしれない。
私という、戦う『わたし』が生まれたときから──ずっと。
「……お前は強ぇわ。俺たちじゃ届かない場所まで、お前は『何も』知らないからいけるんだろうな」
ふと、背後に聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこに。
司令官が、立っていた。
「無知。無垢。なんでもいいや。──上層部はお前を『兵器』だなんて思っているが、俺はそう思っていない。何も知らないから俺たちの味方をしているだけ──知ればお前は、きっと……」
司令官殿は、わたしが何か、知っているの?
声を発したい。けれど出ない。
「その時、俺はどうするかなあ」
困ったような司令官の顔は、どこか泣きそうに見えた。
***
「──司令官殿!」
がばっと体を起こす。
自分の叫び声で目が覚めたのは初めてのことで、シャロンはしばらくの間呆然としていた。
体がわずかに揺れている。薄暗い室内は、どことなく見覚えがある。
「シャロン?」
ずし、ずし、と音を立てながらモレクが様子を見に来た。
彼を視界におさめると、不思議なことに気持ちが落ち着いた。
シャロンはベッドから降りると、一目散にモレクへ抱き着いた。
ぼふ。
彼の巨体に、彼女の体が埋まる。
「どうした」
頭上からの声に、シャロンは答えなかった。
ただぎゅ、と彼の体を抱きしめていた。
何か、よくわからないものが怖かった。
怖い夢をみたような気分だ。
過去は過去である。そんなことはわかっているつもりだった。
とうに理解していたはずのことだ。今更思い出して何になる。
そんなぐるぐると渦巻く思いも、彼に抱き着いていると次第にふわふわと消えていった。
「……シャロン?」
うかがうような声。
そ、と彼の大きな腕が彼女の体を抱きしめるように動く。
「ん……、もう、大丈夫」
体を離す。
顔をあげると、モレクと目が合った。
「まだ顔色はよくないが。それでも、うむ、船酔いはだいぶよくなったようだな」
「えへへ……ごめんね。まさか船酔いするなんて思ってもみなかったよ」
準備を終えた船は、あの廃墟と化した町から出航した。
船出して少しの間は、シャロンも元気なものだった。
甲板に出て風にあたっていたのだが、数時間して様子は激変。
あっという間に真っ青になり、船酔いを発症した。
「このまま、ここで揺れに身を任せていろ。そのうち慣れるはずだ」
「ええ……甲板に出て風とか感じたい……」
「ダメだ。甲板は一番揺れるものだ。風を感じたいというなら、そうだな、窓でもつけてやればよかったか」
モレクはじろりと壁を見つめた。
まるでそのまま穴でもあけそうな雰囲気だったが、シャロンをつかむとベッドに放り投げた。
「もう少し波が落ち着いたら、呼びにきてやる。その時に甲板に出ろ。今はダメだ」
「はあーい」
モレクは、ドアを開けると出て行ってしまった。
船の中心にほど近いこの部屋は、確かにさほど揺れない。
そのおかげでだいぶ船酔いもおさまっている。それも事実だ。
こうなると陸が恋しくなる。地面が揺れない、しっかりしているというのはなかなか幸福なことだったようだ。
「……もうひと眠りしよっかな……」
布団の中に再び体を潜らせる。
しばらくまどろんでいると、眠りの淵に落ちていった。
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