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15:異なる星から。
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先に動いたのは影だった。
ガチャリと銃を構えたかと思うと、それを乱射した。銃弾の雨を、モレクはどこから出したのか、斧の一振りでなぎはらった。
キィンと、聞き覚えのある音が響く。
「何者だ!」
シャロンが叫んだ。
影は答えなかった。
(応答なし。私の『言葉』が通じないということは、異国の……?)
姿かたちは、確かに人のそれだ。
特殊部隊さながらのスーツに身を包み、こちらに銃を構えている。
モレクが様子をうかがっているのを感じる。
シャロンとは違う、様子の伺い方だ。
それはつまり――誰かということは関係なく。
ただ。
相手をころすタイミングを、うかがっている。
(それは相手も同じだ)
確かに感じている。向こうも、こちらをころす気だ。
どこの誰かもわかっていないはずだが、それでも。
むこうはこちらを攻撃するつもりなのだ。
ふと、脳裏にティターニアたちが浮かんだ。
彼女たちはどうだろう。
もし、もしもこのような連中にでくわしたら?
銃を撃たれたら?
ただ――平和な世界を満喫しているだけなのに。
「……ここにニンゲンはいないはずだ。お前は、どこからきた!」
最終警告の意味で、シャロンは叫んだ。
しばらくして、影は言葉を紡いだ。
「 」
「え…………」
目の前に。
すぐ目の前に、影が迫っていた。
スローモーションで、影がナイフを振りかざすのが見える。
あまりに突然のことに、小刀に触れた手が動かない。
「シャロン!」
フリーズした脳に、モレクの声が叩きつけられた。
目の前に迫っていた影は、真横の壁にたたきつけられていた。
モレクの手だ。
彼の手が、平手打ちをくらわせたらしい。
べしゃっという音を立てて、その体はぐしゃぐしゃになっていた。
真っ赤な何かが、そこからはじけ飛んでいる。
「ご、ごめんなさ」
「ぼさっとするな! 死にたいなら儂が後から殺してやる! 今はこいつらを迎え撃て!」
「!」
死にたい?
そんな――そんなわけない。
だって。
だって!
「わたしは、生きる!」
飛び込んできた次の影を、わたしは容赦なく切り捨てた。
これは、生存競争だ。
勝った方がその後の未来を勝ち取れる、そういうものだ。
まして相手は。
この星でも、共に生き残ったものでもない。
「できるではないか」
「うん、ごめんね! わたしは、貴方と生きたい。だから、死ねない!」
小刀を手に、シャロンは宙を舞った。
***
「……嘘だろ」
男は、呆然と呟いた。
実に百年ほどのコールドスリープに、同意なしでかけられていたのはつい数時間前までの話で、いまだ頭が正常に働いているとは思えない。
おおよそ見覚えのない作戦指令室で、彼はモニターを食い入るように見つめていた。
モニターには。
ぼやけた記憶でもわかるーー見覚えのある少女が、化け物と共に立っている。
「残念ながら事実です」
男の隣で、男のコールドスリープをといた白衣の女が呟いた。
「我々を勝利に導き、我々をこの星へと逃がした英雄はーー敵の手に堕ちました」
くい、と彼女は眼鏡をあげると資料を手渡した。
男にとってはみたこともない言語だったが、何故か理解することが出来た。
脳裏に、最後の記憶が甦る。
笑顔で送り出してくれた彼女が、敵だということが理解できない。
「地球はーーあの隕石から、生き残ったのか……」
「ええ。おそらくは全て地球がもつ『防衛本能』です。突然の侵略者、それが片付いた途端に起きた隕石の雨ーー彼は我々を地球から排除したかったんですよ」
「そんな、まさか……」
「そして、そんな地球は彼女を選んだ。彼女に私たちの中に潜らせ、敵を凪ぎ払いさせ、そして我々を見事地球から追い出させた」
「そんなはずはない!」
男は声を荒げた。
だん、と強く机を叩く。
「そんな、はずは……ないんだ……」
途切れ途切れの記憶でも、確かに彼女が味方だったことは事実だと肯定したかった。
しかし。
どういうわけか、それを裏付ける彼女の情報が頭にない。どこからきて、どう生きたのか、どう戦ってくれたのか、名前、出身、経緯ーー全てが、頭から失われている。
「幸いにも地球は百年で回復した。これでまた我々は、『地球』に住むことができます」
「ーー! まさか……」
「報告から察するに、彼女はもはや地球側。我々の視察隊も見事『惨殺』されました。いやはや、見事な腕前で。そう、かつての英雄は我々にとって邪魔なものとなったという確固たる証拠です。とすれば……、わかりますね?」
白衣の女は、懐から拳銃を取り出した。
そっ、と男に差し出す。
「……俺に部下を撃てと?」
「かつての、でしょう? 元は貴方が目をかけてやったときいています。ご自分の粗相は、ご自分で始末なさってくださいな。……神野司令官殿」
女は、ニヤリといやらしく笑った。
ガチャリと銃を構えたかと思うと、それを乱射した。銃弾の雨を、モレクはどこから出したのか、斧の一振りでなぎはらった。
キィンと、聞き覚えのある音が響く。
「何者だ!」
シャロンが叫んだ。
影は答えなかった。
(応答なし。私の『言葉』が通じないということは、異国の……?)
姿かたちは、確かに人のそれだ。
特殊部隊さながらのスーツに身を包み、こちらに銃を構えている。
モレクが様子をうかがっているのを感じる。
シャロンとは違う、様子の伺い方だ。
それはつまり――誰かということは関係なく。
ただ。
相手をころすタイミングを、うかがっている。
(それは相手も同じだ)
確かに感じている。向こうも、こちらをころす気だ。
どこの誰かもわかっていないはずだが、それでも。
むこうはこちらを攻撃するつもりなのだ。
ふと、脳裏にティターニアたちが浮かんだ。
彼女たちはどうだろう。
もし、もしもこのような連中にでくわしたら?
銃を撃たれたら?
ただ――平和な世界を満喫しているだけなのに。
「……ここにニンゲンはいないはずだ。お前は、どこからきた!」
最終警告の意味で、シャロンは叫んだ。
しばらくして、影は言葉を紡いだ。
「 」
「え…………」
目の前に。
すぐ目の前に、影が迫っていた。
スローモーションで、影がナイフを振りかざすのが見える。
あまりに突然のことに、小刀に触れた手が動かない。
「シャロン!」
フリーズした脳に、モレクの声が叩きつけられた。
目の前に迫っていた影は、真横の壁にたたきつけられていた。
モレクの手だ。
彼の手が、平手打ちをくらわせたらしい。
べしゃっという音を立てて、その体はぐしゃぐしゃになっていた。
真っ赤な何かが、そこからはじけ飛んでいる。
「ご、ごめんなさ」
「ぼさっとするな! 死にたいなら儂が後から殺してやる! 今はこいつらを迎え撃て!」
「!」
死にたい?
そんな――そんなわけない。
だって。
だって!
「わたしは、生きる!」
飛び込んできた次の影を、わたしは容赦なく切り捨てた。
これは、生存競争だ。
勝った方がその後の未来を勝ち取れる、そういうものだ。
まして相手は。
この星でも、共に生き残ったものでもない。
「できるではないか」
「うん、ごめんね! わたしは、貴方と生きたい。だから、死ねない!」
小刀を手に、シャロンは宙を舞った。
***
「……嘘だろ」
男は、呆然と呟いた。
実に百年ほどのコールドスリープに、同意なしでかけられていたのはつい数時間前までの話で、いまだ頭が正常に働いているとは思えない。
おおよそ見覚えのない作戦指令室で、彼はモニターを食い入るように見つめていた。
モニターには。
ぼやけた記憶でもわかるーー見覚えのある少女が、化け物と共に立っている。
「残念ながら事実です」
男の隣で、男のコールドスリープをといた白衣の女が呟いた。
「我々を勝利に導き、我々をこの星へと逃がした英雄はーー敵の手に堕ちました」
くい、と彼女は眼鏡をあげると資料を手渡した。
男にとってはみたこともない言語だったが、何故か理解することが出来た。
脳裏に、最後の記憶が甦る。
笑顔で送り出してくれた彼女が、敵だということが理解できない。
「地球はーーあの隕石から、生き残ったのか……」
「ええ。おそらくは全て地球がもつ『防衛本能』です。突然の侵略者、それが片付いた途端に起きた隕石の雨ーー彼は我々を地球から排除したかったんですよ」
「そんな、まさか……」
「そして、そんな地球は彼女を選んだ。彼女に私たちの中に潜らせ、敵を凪ぎ払いさせ、そして我々を見事地球から追い出させた」
「そんなはずはない!」
男は声を荒げた。
だん、と強く机を叩く。
「そんな、はずは……ないんだ……」
途切れ途切れの記憶でも、確かに彼女が味方だったことは事実だと肯定したかった。
しかし。
どういうわけか、それを裏付ける彼女の情報が頭にない。どこからきて、どう生きたのか、どう戦ってくれたのか、名前、出身、経緯ーー全てが、頭から失われている。
「幸いにも地球は百年で回復した。これでまた我々は、『地球』に住むことができます」
「ーー! まさか……」
「報告から察するに、彼女はもはや地球側。我々の視察隊も見事『惨殺』されました。いやはや、見事な腕前で。そう、かつての英雄は我々にとって邪魔なものとなったという確固たる証拠です。とすれば……、わかりますね?」
白衣の女は、懐から拳銃を取り出した。
そっ、と男に差し出す。
「……俺に部下を撃てと?」
「かつての、でしょう? 元は貴方が目をかけてやったときいています。ご自分の粗相は、ご自分で始末なさってくださいな。……神野司令官殿」
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