君と眠り、君と生きよう。

黒谷

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09:焼けた大地、再び。

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 森を抜けると、すぐに荒れ地に出た。
 そこをさらにいくと、シャロンがきびすを返した焼けた大地へとたどりつく。あれほど雨が降ったというのに、やはり煙がもくもくとあがっている。
 まるで火山地帯のようだ。見渡す限り植物も生き物も見当たらない。

「近付くだけで熱くて。燃えそうだから迂回路を探そうと思っていたら、雨が降ってきてモレクと出会ったんだよ」
「なるほど。お前がそのまま歩けば、確かに燃えていたかもしれんな」

 シャロンを抱えたまま、モレクはその焼けた大地に一歩、足を踏み入れた。

「ちょっ、えっ……あれ?」
「どうだ」
「あつく……ない」

 不思議そうに、シャロンは地面を見下ろした。煙はいまだもくもくとあがっている。地面が冷えたわけではなさそうだ。

「この高さなら、熱さもあまり気にならんだろう。儂に抱えられながら歩けば、平気ということだ」

 説明口調で呟くと、モレクはそのままずしずしと歩を進めた。
 シャロンはモレクの肩に腰掛けて、眼下に広がる焼けた大地を楽しんだ。
 あちこちから吹き上がる煙。時おり唸る大地。まるで再構築されてる途中のようだ。

「そういえばモレクは視察してどうするの? 住むの?」
「……住めそうであれば、地獄の一団全てでこちらに移住するつもりらしいが」
「ふうん、そうなんだ」

 空は青い。雲がちらちらあるだけで、昨日と違って雨は降りそうにない。頭上を数羽、鳥が飛んでいった。空を飛ぶのもよいが、こうして肩に乗せてもらうのも悪くない、とシャロンは思った。
 しばらく歩くと、大きなクレーターが見えた。クレーターの中心には、いくつか大きな岩が見えた。
 シャロンはすぐにぴんときた。
 あの日だ、と。
 たくさんの星が降り注いだ日の残骸だ。
 ここにも星が降った。そうして再生をしている最中なのだ。

「あ、ああ……」

 百年も経ったというのに、この星はまだ、あの日の痛みを全て癒せてはいない。それほどこの星の傷は深いのだと、そう思った瞬間、シャロンの瞳からボタボタと涙がこぼれおちた。
 あんな屍だらけの世界から、目が覚めたら広大で肥沃な緑の世界に変わっていたから、てっきり百年の間に全て終わっていたものだと勘違いしていた。
 この星はまだ、苦しみの最中なのだ。
 百年経っても、まだ。
 戦いは続いている。

「……どうした?」
「ううん、その、なんか……痛そうで……」

 モレクの問いかけに、シャロンはごしごしと目をぬぐいながら答えた。
 なんて痛ましい。なんて、悲しい。
 見るに耐えない、とシャロンは両手で目を覆い隠したが、すぐにモレクによってそれは外された。ダメだ、と言葉が続く。

「お前を守った者の傷だ。しかと目に焼き付けておけ。目を背けて泣くなどと、この者に無礼だろう」
「……!」
「見るに耐えないか? 苦しいか? しかしそうまでして、この星はお前を生かしたかったのだ」

 シャロンは、ぐっと目をぬぐうと、今度は両手で覆い隠したりしなかった。
 あふれでる涙を時おりぬぐいながら、しっかりとその光景を目に焼き付けた。進むたびにクレーターは現れ、星が砕け散った光景が目に飛び込んできた。
 どうして、守ってくれたのか。
 どうして、百年眠らせたのか。
 どうして、今起こされたのか。
 その答えを知ろうと、必死でシャロンは焼けた大地を目に焼きつけた。わずかな声も聞き洩らさんと目を見開いていた。
 そうして、それを知ったあかつきには。
 今一度この星を守ろうと思った。
 今度は諦めて、心中など考えまい。投げ出すまいと心に誓った。二度とこんな傷をつくらせまいと、拳を強く握りしめた。

「世界を全部見て回ったら、私はここに木を植えて、自然豊かになるよう頑張る。必ずここに戻ってくる」
「……そうか」
「その時はモレク、貴方はいないかもしれないけど……でも、きっと遊びにきてね。ひとりぼっちは寂しいから……」
「……。善処しよう」

 泣き腫らした目で微笑むシャロンにため息をついて、モレクはうなずいた。
 ほどなくして焼けた大地を通り抜け、今度は炎天下の砂漠がみえた。蜃気楼で遠くが揺らめき、水のようにうねっている。
 シャロンはぎゅ、と木で作った水筒を握りしめた。砂漠地帯は見渡す限り一面に広がっていて、とてもじゃないが先が見えない。
 オアシスのような場所はあるのだろうか。
 一抹の不安を覚えるシャロンをよそに、モレクは容赦なく砂漠地帯へと足を踏み入れた。ざく、と音が変わる。

「わたし! わたしも!」
「……炎天下の砂漠は暑いが、歩くか? その靴では焼けてしまうかもしれんが」
「うう……じゃあいいです……」

 モレクにたしなめられて、シャロンはしゅんと身を縮めた。
 この靴は大事なものだ。焼けてしまっては困る。なにせティターニアの手作りである。

「……そんなに歩きたいのなら、夜にしろ。夜ならば暑くはないからな」
「! うん!」

 目を輝かせて、シャロンは再び前を見据えた。頭上の太陽はすでに傾き始めている。夕陽が出るまであと二時間ほどといったところだろう。
 夜の砂漠を心待にして、シャロンはモレクの肩の上で再び足をばたつかせた。
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