異世界ハンターライフ

新川キナ

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070:ジェラルク・ヴァレノ

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 ダンジョン探索。ラーダにも言われたが、それは闘技場のようなものらしい。

 実際に潜ってみた結果。納得した。そこはハンティングをする場所というより競い合う場所、と言う感じだ。ただただ迷路が続き、時に罠があり、時に魔物がいる。宝箱があり、そして競争相手がいる。そうだな。闘技場というより競技場だな。俺にとっては射撃競技をしている感覚だ。ダンジョンの狩りは、とてもシステマティックなのだ。

 でもハンティングってのは、もっと生臭いものだ。生き物の呼吸や鼓動。血や肉の躍動感を肌で感じ、耳で感じ、目で感じ、鼻で感じ、舌でも感じる。

 ダンジョンにはそれがない。いや限りなく薄いというか。

 森の息吹。雪山の鼓動。自然との戦い。

 そういった物が無い。

 自分が根っからのハンターだと自覚させられる場所。俺はハンティングが好きだ。だからここは違う。ここは俺の居場所じゃない。そう思わせられる場所だった。

 レベルをただ上げるのには良いかもしれないけどな。

 だが、そんな不満な場所でもダンジョンには潜り続けた。

 理由は辞め時がなかったからというものと、もう一つ。ダンジョンは異界に通じていると言う話があったからだ。もしかしたら日本に帰る糸口が見つかるかもしれないから。

 まぁもっとも。俺は帰る気はないんだけどな。

 愛する人がここに出来たから。

 でもハルは……

 ダンジョンに最初に潜ったのが3月のこと。それから5ヶ月が経過して8月になっていた。

 俺たちはダンジョンを攻略出来る一歩手前まで来ていた。そんなある日のこと。

 酒場で飲んでいると傭兵ギルドから一通の手紙が届いた。宛名はジェラルク・ヴァレノという人物へ。

 誰だ?

 俺とハル。そしてエリスが不思議に思っているとジャックが手紙を受け取った。封を開けて中を読み始め、そして読み終わるとラーダに渡した。

 ラーダが読み終わったところで俺は尋ねた。

「説明がほしいんだが?」

 するとラーダがジャックを見た。ジャックはしばらく迷っていたが、決心したのか話し始めた。

「実は僕。ヴァレノという子爵家の長男なんです」

 貴族様だったのか……

 俺はハルを見ると、彼女はとても怒った顔をしていた。ジャックは戸惑いながらも説明を続ける。

「現在、父が当主なのですが、ずいぶん前から病気で臥せっていました。容態が日増しに悪くなっているので帰ってこいと言う内容の手紙です」

 俺は気になったことを尋ねた。

「何で嫡男様がダンジョン探索を?」

 するとジャックは答えた。

「前に少し話しましたよね。うちの領地は貧乏だと。ダンジョンの最奥にはダンジョンコアという物があるんです。それを分裂させて持ち帰れば自分の領地にダンジョンが作れる。そうすれば領地が潤うんです」

 なるほどな。ダンジョン探索をしている理由はわかった。問題はハルとのことだ。

 そのハルが静かに言った。

「私とのことは遊びのつもりだったの?」
「違います。僕は本気でした」
「本名さえ明かさずに?」
「それは! それは……僕の称号や領地じゃなくて僕を認めてくれる人が欲しかったからです! 僕が僕だから良いと言ってくれる。そんな人が! だから……だから!」
「だから何? 身分も本名も隠して偽って、それのどこに貴方がいるの?」
「っつ!」
「身分も名前も含めて貴方は貴方なの。ねぇ名無しさん? それともジェラルクさんとでも呼ぼうか?」
「違う! 僕は……」
「僕は、何?」
「僕は……」
「貴方は誰?」
「僕は……ジャックであり、ジェラルク・ヴァレノでもある」

 ハルが大きく溜め息。ジャックの言葉は続く。

「でも! 僕の気持ちは本気です。それはわかってほしい!」

 ハルが再び大きな溜め息。

「それについても言わせてもらうけどね。私は平民でさえ無いのよ。ジャック。いいえ。ジェラルクさん? 面倒ね。どっちかにしてくれない?」
「それは……でも好きなのは事実だ。君を手放す気はないし、手放したくない!」
「気持ちだけじゃ、どうにもならないのが身分なんじゃないの?」
「一つだけ手があるんだ。ダンジョンだ。そこを攻略すれば大手柄だ。名誉男爵だけど身分が手に入る。一緒に行こう。何があっても君を護ると誓うから!」

 ハルが盛大に溜め息を吐く。

「少し考えさせて」

 そう言って自室へと戻っていったのだった。
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