1 / 74
001:加瀬とハル
しおりを挟む
「なぁハル?」
「はい?」
「何で狩猟が北海道の一部を除いて秋から冬にかけて行われるか知ってっか?」
俺は現在、北海道をドライブ中だ。
正確にはシカを狩るために猟をしている真っ最中だ。
本州でシカ猟というと基本「巻き猟」と呼ばれるスタイルで行われる。これは獲物を追い出す「勢子」と、待ち伏せをして銃で撃つ「タツ」の二手に分かれる猟法だ。
しかし北海道のエゾシカ猟なら、車での「流し猟」がメインとなる。
この猟法は車を流しながらエゾシカを見つけたら撃つというスタイルだ。現在、俺と相棒のハルは流し猟の真っ最中なのだ。
その車中で新人のハルに問題を出して暇つぶし。すると相棒の眉間に皺が寄った。
「加瀬さん。私を馬鹿だと思ってるでしょ?」
俺は正直に「うん」と頷いて笑顔を向けると、ハルの頬が丸く膨らんだ。仕草や表情が子供みたいなやつだ。
まぁ実際21歳になったばかりだから、40歳の俺からしたら、まだまだ社会に巣立つ直前の子供なのだが。
「それで? 答えは?」
「はい。幾つか理由があります。1つに夏だと狩りをする側の人間が暑さや蚊。ヤマビルなどが不快で辛いという理由。2つに野生動物は餌の少ない冬を生きるために、秋に栄養を溜め込み油の乗った美味しい肉が取れるという理由。3つ目は冬場なら狩った後に肉が傷みにくいという理由。他にも野生動物が出産や子育てを終えていて、親を狩っても子は生き延び来年へと繋がっていくという理由。落葉しており見通しが良く狩りやすいなど、とにかく冬場に狩りをするのは何かと合理的だからです」
ほとんど100点に近い答えのハルに笑顔で褒める。
「おぉ賢い賢い。さすが優等生。褒めてつかわす」
そう言って頭を撫でてやるとハルが顔を赤らめた。
「何だ照れてるのか?」
「違います! 怒ってるんです! 子供扱いしないでください!」
そう言って「ふん!」とそっぽを向いた姿が、やはり子供じみていたので俺は大いに笑ったのだった。
さて、少し自己紹介をしよう。俺は加瀬心《かせしん》。先程も少し触れたが40歳で市役所で働く地方公務員だ。
まぁその辺にいるただのオッサンだと思ってくれればいい。
ちなみにバツイチの独身だ。
そして先程から、からかっている対象の子が立花遥《たちばなはるか》。
通称ハルだ。ボブのショートカットの髪と、スラリとしたスポーティでアクティブなタイプの女性だ。
務めている職場の上司の子で、現在が大学四年生。就職活動を早々に終えて趣味の猟に出ている優秀な学生でもある。
そうやって他愛ない会話を交わしていると、ハンドルを握っているハルが何かを見つけた。
「加瀬さん」
「どうした?」
「道路に動物の糞が落ちています」
車を国道脇に寄せてから降りて、二人で確認する。
「ヒグマだな。それも新しい」
ヒグマも狩猟対象だが、新人のハルが居るために狩りの獲物からは外す。
ヒグマは本当に危険なのだ。
生半可な気持ちと装備では立ち向かえない。
現在、狩猟歴が1年と少しの21歳のハルはライフルが所持できないため、散弾銃に20番スラッグと言う弾を使用している。
この弾は反動が少なく初心者の女性向けな為に、威力不足の感が拭えず大型の動物だと半矢(弾が当たりはしたが死に至っていない状態の獲物のことを言う)にしてしまう可能性が高いのだ。
そうなると手負いのクマを相手にすることになる。それは大変に危険で狩るのも命懸けになってしまうのだ。
「ハル。行くぞ」
オレは相棒を呼び、再び車で移動を開始するのだった。
「はい?」
「何で狩猟が北海道の一部を除いて秋から冬にかけて行われるか知ってっか?」
俺は現在、北海道をドライブ中だ。
正確にはシカを狩るために猟をしている真っ最中だ。
本州でシカ猟というと基本「巻き猟」と呼ばれるスタイルで行われる。これは獲物を追い出す「勢子」と、待ち伏せをして銃で撃つ「タツ」の二手に分かれる猟法だ。
しかし北海道のエゾシカ猟なら、車での「流し猟」がメインとなる。
この猟法は車を流しながらエゾシカを見つけたら撃つというスタイルだ。現在、俺と相棒のハルは流し猟の真っ最中なのだ。
その車中で新人のハルに問題を出して暇つぶし。すると相棒の眉間に皺が寄った。
「加瀬さん。私を馬鹿だと思ってるでしょ?」
俺は正直に「うん」と頷いて笑顔を向けると、ハルの頬が丸く膨らんだ。仕草や表情が子供みたいなやつだ。
まぁ実際21歳になったばかりだから、40歳の俺からしたら、まだまだ社会に巣立つ直前の子供なのだが。
「それで? 答えは?」
「はい。幾つか理由があります。1つに夏だと狩りをする側の人間が暑さや蚊。ヤマビルなどが不快で辛いという理由。2つに野生動物は餌の少ない冬を生きるために、秋に栄養を溜め込み油の乗った美味しい肉が取れるという理由。3つ目は冬場なら狩った後に肉が傷みにくいという理由。他にも野生動物が出産や子育てを終えていて、親を狩っても子は生き延び来年へと繋がっていくという理由。落葉しており見通しが良く狩りやすいなど、とにかく冬場に狩りをするのは何かと合理的だからです」
ほとんど100点に近い答えのハルに笑顔で褒める。
「おぉ賢い賢い。さすが優等生。褒めてつかわす」
そう言って頭を撫でてやるとハルが顔を赤らめた。
「何だ照れてるのか?」
「違います! 怒ってるんです! 子供扱いしないでください!」
そう言って「ふん!」とそっぽを向いた姿が、やはり子供じみていたので俺は大いに笑ったのだった。
さて、少し自己紹介をしよう。俺は加瀬心《かせしん》。先程も少し触れたが40歳で市役所で働く地方公務員だ。
まぁその辺にいるただのオッサンだと思ってくれればいい。
ちなみにバツイチの独身だ。
そして先程から、からかっている対象の子が立花遥《たちばなはるか》。
通称ハルだ。ボブのショートカットの髪と、スラリとしたスポーティでアクティブなタイプの女性だ。
務めている職場の上司の子で、現在が大学四年生。就職活動を早々に終えて趣味の猟に出ている優秀な学生でもある。
そうやって他愛ない会話を交わしていると、ハンドルを握っているハルが何かを見つけた。
「加瀬さん」
「どうした?」
「道路に動物の糞が落ちています」
車を国道脇に寄せてから降りて、二人で確認する。
「ヒグマだな。それも新しい」
ヒグマも狩猟対象だが、新人のハルが居るために狩りの獲物からは外す。
ヒグマは本当に危険なのだ。
生半可な気持ちと装備では立ち向かえない。
現在、狩猟歴が1年と少しの21歳のハルはライフルが所持できないため、散弾銃に20番スラッグと言う弾を使用している。
この弾は反動が少なく初心者の女性向けな為に、威力不足の感が拭えず大型の動物だと半矢(弾が当たりはしたが死に至っていない状態の獲物のことを言う)にしてしまう可能性が高いのだ。
そうなると手負いのクマを相手にすることになる。それは大変に危険で狩るのも命懸けになってしまうのだ。
「ハル。行くぞ」
オレは相棒を呼び、再び車で移動を開始するのだった。
0
お気に入りに追加
1,107
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います
七地潮
ファンタジー
妻に先立たれた 後藤 丈二(56)は、その年代に有りがちな、家事が全く出来ない中年男性。
独り身になって1年ほど経つ頃、不摂生で自分も亡くなってしまう。
が、気付けば『切り番当選者』などと言われ、半ば押しつけられる様に、別の世界で第二の人生を歩む事に。
再び妻に巡り合う為に、家族や仲間を増やしつつ、異世界で旅をしながら幸せを求める…………話のはず。
独自世界のゆるふわ設定です。
誤字脱字は再掲載時にチェックしていますけど、出てくるかもしれません、すみません。
毎日0時にアップしていきます。
タグに情報入れすぎで、逆に検索に引っかからないパターンなのでは?と思いつつ、ガッツリ書き込んでます。
よろしくお願いします。
※この話は小説家になろうさんでアップした話を掲載しております。
※なろうさんでは最後までアップしていますけど、こちらではハッピーエンド迄しか掲載しない予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる