追放された武闘派令嬢の異世界生活

新川キナ

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第一章:王都編

031:ホーンラビット戦

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 街の第一城壁と第二城壁の間の平野部での薬草園。そこには何処からともなくゴブリンやコボルトが出没する。そして偶にホーンラビッドも出るという。

 ゴブリンっていうのは十歳ぐらいの子供サイズの子鬼の魔物だ。この辺に居るゴブリンは赤い肌をしており、三匹から五匹程の数で襲い掛かってくる。

 知能はそこそこで嗜虐性があり、たまに何処からか手に入れた武器を所持していたりする。木で出来た棍棒とか行き倒れた人間の武器とかね。

 一〇歳ぐらいの子供サイズだが人間の子供よりは膂力も体力もあり、素人の武器を持った成人男性でも囲まれれば危険な魔物だ。

 コボルトは見た目、二足歩行をする灰色狼だ。こっちは五匹から一〇匹ほどの群れで行動している。極稀に二〇匹ほどの大集団になることもあるそうだ。そういう場合は食糧事情で飢えている場合があり大変危険な魔物となる。

 ゴブリンより知能は劣るようで武器を所持していたりする事例はない。

 習性は狼そのものだ。群れで長距離を追いかけ獲物が疲れるのを待ってから襲いかかってくる。どちらかというと街から離れた原野で見かけることが多い。

 ホーンラビットっていうのは角ウサギとも牙うさぎとも呼ばれている危険な魔物だ。

 大きさは成人男性の頭ぐらい。毛の色は茶色や灰色で、基本的にオスは一匹で行動している事が多いが、メスは子供を連れており二、三匹で行動する。後は繁殖期には雌雄で行動するとか。

 そして高速で突進してきて、人間の腹に角を突き立てるという魔物だ。肉食性で初心者キラーとも呼ばれている。

 というわけで、城壁の中とはいえ危険となっているのだ。とは言っても、ゴブリンだってそうそう出ては来ないけどね。基本的に頭は使わない楽な仕事だ。むしろ、ただ武装して見回っているだけなのが辛かったりする。

 護衛の仕事の過酷さは基本的に退屈との勝負だ。何もない事が最良だが何か起きないと暇という。これが夏場だと暑さとの勝負となるそうだ。夏場は受けないでおこう。

 ちなみに、この護衛の仕事は十日ごとの更新だ。

 現在の季節は春で日本だと三月に相当する季節。そんな、ようやく暖かくなってきた季節の日中の護衛は大変だ。陽気で長閑で……そして眠い。

 上空では、ぴぃひょろろぉと鳥が飛んでいるのが見える。

 日差しを遮るものがない中で、畑を見て回る。ポカポカと温かい。そんな中で薬草の農作業をする農奴たち。中には休憩をしている人などもいる。結構自由なんだな。

 そんな中で緊張感を保っての護衛の仕事は、なかなか務まらない。

 眠い……

 農作業をしている人々が昼の大休憩を始めた時に、それは起きた。

「ちょっといいかい?」
「はい?」

 私を呼び止めたのは三〇代の恰幅の良い女性だ。彼女が心配そうに言った。

「さっきからダンリーさんの姿が見えないのよぉ」
「ダンリーさん?」

 私は記憶を探る。確か四〇代の男性だ。

「私も気になって、さっき少し探してみたけど、何処からも返事がないのよ。他の人も見てないって言うし。何かあったのかねぇ」

 辺り一面、薬草畑で作物が青々と茂っている。屈んでいたり倒れていたりすると姿が見えない程度に。

「確かに気になりますね。ちょっと探してみます。他の護衛の人にも話してもらって良いですか?」

 女性が頷いて去っていく。

 私はダンリーさんを探すべく、名前を呼びながら歩き始めた。しばらく畑をウロウロしていると、小さく痛みでうめく声が聞こえた。

「ダンリーさん?」

 呼びかけると弱々しい声で「こっち、だ」と答えがあった。

 私は声が聞こえた方へ急いで向かう。

 すると段々と血の匂いがしてきた。風上へ向かって急いでいるとダンリーさんを見つけた。

 辺り一面が血の海だ。その中心には倒れているダンリーさんと魔物であるホーンラビットの姿が。私はすぐさまサーベルを抜剣して戦闘態勢へ。するとホーンラビットも顔を上げて私を睨みつけ唸り声を上げた。敵の数は三匹。

 三匹とも口元が赤く染まっている。ダンリーさんに噛み付いていたのだろう。

 早く手当をしないと!

 私は発見の合図用の発煙筒に火をつけて、その辺に放り投げた。赤い煙が空へと上がっていく。

 さて。他の応援が来るまで少し時間がかかるが、ダンリーさんの出血量だと一刻を争うだろう。

 私は抜いたサーベルを構えてダンリーさんの元へ駆ける。

 すると二匹の小さなホーンラビットは奥へと逃げ、一番大きなホーンラビットがこちらに向かって突進してきた。だが一直線に正面から突進してくるだけの肉の塊なんて怖くない。角は怖いが当たらなければどうということはない。

 私は相手の体当たりに合わせて、横に避けながら剣を横薙ぎに払った。腰も入ったし踏み込みも上出来。剣筋も立ったが、いかんせん私の体重は軽い。剣も中古で特別、切れ味が鋭いという代物でもない。

 案の定。まるまるとした筋肉の塊であるホーンラビットは地面に着地したがピンピンしていた。クルリとこっちを向いて再び戦闘態勢へ。毛皮と筋肉と脂肪に阻まれた形だ。まだまだ技量不足。斬る場所をもっと見極める必要があるなと反省。

 再び向かい合う。するとやはりホーンラビットは突進してきた。馬鹿の一つ覚えか。私は今度こそと構える。しかしホーンラビットも馬鹿ではなかったらしい。今度はジグザグに折り返しながら突進してきた。高速での動きに目で追うのがやっとだ。

 初心者キラーと名高いホーンラビットの面目躍如といったところか。

 って敵を褒めている場合じゃないな。

 私は腰を落とし、剣を掲げて上段に構える。避けない。迎え撃つ。早くしないとダンリーさんの命が危ないのだ。

 惑わされるな。やつの狙いは私のお腹だ。ならばタイミングを測って剣を振り下ろすだけのこと。そしてその瞬間が訪れた。ジグザグ機動から突進のジャンプ。私はホーンラビットが間合いに入る直前に剣を勢いよく振り下ろしたのだった。
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