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第一章:王都編

030:呪詛を吐き出すお爺さん

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 さて。仕事は仕事。不安はあれど引き受けた以上は頑張んなきゃな。

 これから一〇日間。薬草園だ働く農奴たちの護衛の仕事だ。

 でもいいなぁ。オレクルアルさん。見た感じ五十代ぐらいだった。いったい何年、魔草の研究に時間をかけたのかは知らないけど、今まで誰も出来なかったことをやり遂げるってのは羨ましい限りだ。一つの研究が実を結ぶって凄いよね。

 私も、いつかは何かをやり遂げてみたいなぁ。

 そんな事を考えながら薬草園を見回る。するとブツブツと何事かを呟きながら作業をしている老人を見かけた。

 なんだろう?

 不思議に思って耳を傾けてみると呪詛だった。

「儂の研究を盗みおった。オレクルアルのやつが儂の研究を盗みおった。恨めしい。憎い。恨めしい。憎い……」

 うひぃ。怖わぁ……

 って、え?

 研究を盗んだ?

 私はお爺さんに声をかけた。

「お爺さん?」

 するとお爺さんは驚きの声を上げて飛び上がった。

「わひゃぁ! 何じゃ! い、いつの間に! ひぃ!」

 そう叫び、後ろにひっくり返った後で、白目をむいて、のたうち回り始めた。

「か、か、ひ、く、る、し……」

 な、何事なの! こわっ! お爺さん怖っ!

「って、大丈夫!」

 私は苦しみ藻掻くお爺さんを見る。すると首には隷属の首輪が嵌められていた。隷属の首輪とは奴隷を縛る首輪のことだ。これがあると命令に反することをすると首輪が締まるという非人道的な魔道具だ。一部の極悪な奴隷に嵌める道具で、貴族の間ではそれなりに知られている道具だ。

「ちょっ! え、首輪!」

 どどどどどうしよう!

 下手に首輪に触ると余計に絞まっちゃうし!

 私が困り果てていると、それに気がついた他の作業員が近寄ってきた。現場を指導する監督官もだ。

 その監督官が私を見て言った。

「何を聞いた?」
「え? 何をって……」

 どうしよう。正直に話す?

 いや。彼が呟いていた内容は世に知られたらヤバい内容だ。だから虚実を混ぜてしらばっくれることにした。私は何も知らないただの冒険者だ。

「い、いえ。その。憎い、とか悔しいっていう呪詛の言葉は聞きましたけど、それ以外は声が小さくて。彼、どうしたんですか?」

 監督官が私をじっと見つめる。隷属の首輪のことも知らないフリだ。すると監督官は溜め息を吐いた後で言った。

「ただの発作だ。気にするな。すぐに治まる」

 どうやらお爺さんのことは発作とするらしい。そして私のことは誤魔化せたようだ。監督官は皆に作業に戻るように言ったので、私は指示に従い、作業に戻ったのだった。

 これから一〇日間。薬草園の農夫たちの護衛だ。頑張ろう。

 お爺さんのことは気になるけど、今の私にはどうすることもできないんだ。

 ごめんね。
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