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第一章:王都編
012:鍛錬
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それから毎日、写本の仕事をした。お陰で手首が痛い。なるほどこれは腕を痛めるわ。
一日仕事なので他の仕事はできないが、それでもレダがやっているトイレ掃除や汲み取り。ゴミの回収や、どぶさらいよりもお給料が高い。技能職バンザイ!
さて。日常の多くは仕事をして過ごすが、鍛錬も欠かさない。早朝の起床を更に早めて、もはや深夜という時間帯に鍛錬を行うのだ。幸いなことに冒険者ギルドには広い運動場のような場所があって一日中、無料で開放されている。
「しっ!」
感謝の正拳突きから始まる型の練習。そして前蹴りに後ろ回し蹴り。手刀。受けなどを次々に繰り出していく。人影はまばらで一人か二人、居るかどうかという程度。明かりは携帯ランプのみ。周囲だけを明るく照らし、そこでひたすらに鍛錬。
最初こそ独りだったけど、住み込み始めて五日目にはレダとミアも加わるようになった。
理由は強くなりたいからとのこと。
この世界で武力は最も分かりやすい力だからな。とは言っても型はあくまで、その動作を最適に行う為の鍛錬でしかない。それで強くなれるかと言えば答えはノーだ。武力とは相手がいてこそ成り立つ強さ。
とはいえだ。身体の出来上がっていない子供に何が出来るというのか。なので、まずは体を作ることから始めさせている。
三人で鍛錬を行うようになって十日目。つまり私の写本の仕事の最終の日。形稽古を行っていると、見学する者が現れた。するとレダとミアの集中力が途切れる。それでは鍛錬にならないので見学者に声をかけた。
「何か用ですか?」
スキンヘッドの身長は二メートル近くありそうな大男だ。実用的な筋肉と脂肪の付き方をしており実力の程を思わせる。
「あんたが指導者か?」
「そうだけど?」
「どうだ? 少し手合わせしてみないか?」
断る理由がない。というか、この世界の徒手格闘の実力を知るチャンスだ。
私は頷く。
「えぇ。是非!」
私の身長は一六〇センチほど。大して相手は二〇〇センチほどの大男。その差は四〇センチ。だが体重は倍以上の差があるだろう。普通なら勝てる道理は全く無い。だがそれがいい。
男がルールの確認。
「寸止めか?」
「いえ。実践形式でお願い」
「ほぉ。当たったら洒落にならんぞ?」
「覚悟の上よ」
男が「ふぅん」と息を吐いたが、それ以上は何も言わなかった。禿頭の男が構えて両腕を前へ出す。足はベタ足と呼ばれるタイプの構えだ。両足を地面へベタっとつけて踏ん張り最大威力で拳を撃ち抜く構え。
対して私は体重差があるのでフットワークを軽くステップを踏む構え。男が言う。
「いつでも良いぞ?」
私は答える。
「んじゃ遠慮なく」
その瞬間。相手の懐に飛び込む。右の拳を男の左脇腹へ。しかし男はわずかに動いて左腕でガード。私はそのままトップスピードで男の正面の腹にワン・ツーとパンチ。
「ふっ! しっ!」
しかし当然、それも男はガード。良い目をしてる。見てから受けている。私はいったん距離を取り呼吸を吐き出して、すぐに大きく吸ってから、また飛び込む。拳を相手の腹に集める。高い打点が必要な頭に攻撃するのはまだだ。
男はまだ攻撃をしてこない。スタミナ切れを待っているのか?
そう少し思考を散らして油断した途端。男の左のジャブ。軽くという感じだったが圧力が凄い。けれど私はそれを余裕を持って避ける。そして上下の動きだけだった攻撃パターンに左右の動きを混ぜた。すると今度は男が前に出てきた。
左と右のワン・ツー。私はその拳を掻い潜り、男の右の脇腹へ左の拳を叩き込む。
まるで分厚いタイヤを殴ったような感触。
男が後ろに下がり一言。
「良いパンチだ。本当に女かよ」
私はその間に、息を整える。
試合はまだ始まったばかりだ。
一日仕事なので他の仕事はできないが、それでもレダがやっているトイレ掃除や汲み取り。ゴミの回収や、どぶさらいよりもお給料が高い。技能職バンザイ!
さて。日常の多くは仕事をして過ごすが、鍛錬も欠かさない。早朝の起床を更に早めて、もはや深夜という時間帯に鍛錬を行うのだ。幸いなことに冒険者ギルドには広い運動場のような場所があって一日中、無料で開放されている。
「しっ!」
感謝の正拳突きから始まる型の練習。そして前蹴りに後ろ回し蹴り。手刀。受けなどを次々に繰り出していく。人影はまばらで一人か二人、居るかどうかという程度。明かりは携帯ランプのみ。周囲だけを明るく照らし、そこでひたすらに鍛錬。
最初こそ独りだったけど、住み込み始めて五日目にはレダとミアも加わるようになった。
理由は強くなりたいからとのこと。
この世界で武力は最も分かりやすい力だからな。とは言っても型はあくまで、その動作を最適に行う為の鍛錬でしかない。それで強くなれるかと言えば答えはノーだ。武力とは相手がいてこそ成り立つ強さ。
とはいえだ。身体の出来上がっていない子供に何が出来るというのか。なので、まずは体を作ることから始めさせている。
三人で鍛錬を行うようになって十日目。つまり私の写本の仕事の最終の日。形稽古を行っていると、見学する者が現れた。するとレダとミアの集中力が途切れる。それでは鍛錬にならないので見学者に声をかけた。
「何か用ですか?」
スキンヘッドの身長は二メートル近くありそうな大男だ。実用的な筋肉と脂肪の付き方をしており実力の程を思わせる。
「あんたが指導者か?」
「そうだけど?」
「どうだ? 少し手合わせしてみないか?」
断る理由がない。というか、この世界の徒手格闘の実力を知るチャンスだ。
私は頷く。
「えぇ。是非!」
私の身長は一六〇センチほど。大して相手は二〇〇センチほどの大男。その差は四〇センチ。だが体重は倍以上の差があるだろう。普通なら勝てる道理は全く無い。だがそれがいい。
男がルールの確認。
「寸止めか?」
「いえ。実践形式でお願い」
「ほぉ。当たったら洒落にならんぞ?」
「覚悟の上よ」
男が「ふぅん」と息を吐いたが、それ以上は何も言わなかった。禿頭の男が構えて両腕を前へ出す。足はベタ足と呼ばれるタイプの構えだ。両足を地面へベタっとつけて踏ん張り最大威力で拳を撃ち抜く構え。
対して私は体重差があるのでフットワークを軽くステップを踏む構え。男が言う。
「いつでも良いぞ?」
私は答える。
「んじゃ遠慮なく」
その瞬間。相手の懐に飛び込む。右の拳を男の左脇腹へ。しかし男はわずかに動いて左腕でガード。私はそのままトップスピードで男の正面の腹にワン・ツーとパンチ。
「ふっ! しっ!」
しかし当然、それも男はガード。良い目をしてる。見てから受けている。私はいったん距離を取り呼吸を吐き出して、すぐに大きく吸ってから、また飛び込む。拳を相手の腹に集める。高い打点が必要な頭に攻撃するのはまだだ。
男はまだ攻撃をしてこない。スタミナ切れを待っているのか?
そう少し思考を散らして油断した途端。男の左のジャブ。軽くという感じだったが圧力が凄い。けれど私はそれを余裕を持って避ける。そして上下の動きだけだった攻撃パターンに左右の動きを混ぜた。すると今度は男が前に出てきた。
左と右のワン・ツー。私はその拳を掻い潜り、男の右の脇腹へ左の拳を叩き込む。
まるで分厚いタイヤを殴ったような感触。
男が後ろに下がり一言。
「良いパンチだ。本当に女かよ」
私はその間に、息を整える。
試合はまだ始まったばかりだ。
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