上 下
12 / 48
第一章:王都編

012:鍛錬

しおりを挟む
 それから毎日、写本の仕事をした。お陰で手首が痛い。なるほどこれは腕を痛めるわ。

 一日仕事なので他の仕事はできないが、それでもレダがやっているトイレ掃除や汲み取り。ゴミの回収や、どぶさらいよりもお給料が高い。技能職バンザイ!

 さて。日常の多くは仕事をして過ごすが、鍛錬も欠かさない。早朝の起床を更に早めて、もはや深夜という時間帯に鍛錬を行うのだ。幸いなことに冒険者ギルドには広い運動場のような場所があって一日中、無料で開放されている。

「しっ!」

 感謝の正拳突きから始まる型の練習。そして前蹴りに後ろ回し蹴り。手刀。受けなどを次々に繰り出していく。人影はまばらで一人か二人、居るかどうかという程度。明かりは携帯ランプのみ。周囲だけを明るく照らし、そこでひたすらに鍛錬。

 最初こそ独りだったけど、住み込み始めて五日目にはレダとミアも加わるようになった。

 理由は強くなりたいからとのこと。

 この世界で武力は最も分かりやすい力だからな。とは言っても型はあくまで、その動作を最適に行う為の鍛錬でしかない。それで強くなれるかと言えば答えはノーだ。武力とは相手がいてこそ成り立つ強さ。

 とはいえだ。身体の出来上がっていない子供に何が出来るというのか。なので、まずは体を作ることから始めさせている。

 三人で鍛錬を行うようになって十日目。つまり私の写本の仕事の最終の日。形稽古を行っていると、見学する者が現れた。するとレダとミアの集中力が途切れる。それでは鍛錬にならないので見学者に声をかけた。

「何か用ですか?」

 スキンヘッドの身長は二メートル近くありそうな大男だ。実用的な筋肉と脂肪の付き方をしており実力の程を思わせる。

「あんたが指導者か?」
「そうだけど?」
「どうだ? 少し手合わせしてみないか?」

 断る理由がない。というか、この世界の徒手格闘の実力を知るチャンスだ。

 私は頷く。

「えぇ。是非!」

 私の身長は一六〇センチほど。大して相手は二〇〇センチほどの大男。その差は四〇センチ。だが体重は倍以上の差があるだろう。普通なら勝てる道理は全く無い。だがそれがいい。

 男がルールの確認。

「寸止めか?」
「いえ。実践形式でお願い」
「ほぉ。当たったら洒落にならんぞ?」
「覚悟の上よ」

 男が「ふぅん」と息を吐いたが、それ以上は何も言わなかった。禿頭の男が構えて両腕を前へ出す。足はベタ足と呼ばれるタイプの構えだ。両足を地面へベタっとつけて踏ん張り最大威力で拳を撃ち抜く構え。

 対して私は体重差があるのでフットワークを軽くステップを踏む構え。男が言う。

「いつでも良いぞ?」

 私は答える。

「んじゃ遠慮なく」

 その瞬間。相手の懐に飛び込む。右の拳を男の左脇腹へ。しかし男はわずかに動いて左腕でガード。私はそのままトップスピードで男の正面の腹にワン・ツーとパンチ。

「ふっ! しっ!」

 しかし当然、それも男はガード。良い目をしてる。見てから受けている。私はいったん距離を取り呼吸を吐き出して、すぐに大きく吸ってから、また飛び込む。拳を相手の腹に集める。高い打点が必要な頭に攻撃するのはまだだ。

 男はまだ攻撃をしてこない。スタミナ切れを待っているのか?

 そう少し思考を散らして油断した途端。男の左のジャブ。軽くという感じだったが圧力が凄い。けれど私はそれを余裕を持って避ける。そして上下の動きだけだった攻撃パターンに左右の動きを混ぜた。すると今度は男が前に出てきた。

 左と右のワン・ツー。私はその拳を掻い潜り、男の右の脇腹へ左の拳を叩き込む。

 まるで分厚いタイヤを殴ったような感触。

 男が後ろに下がり一言。

「良いパンチだ。本当に女かよ」

 私はその間に、息を整える。

 試合はまだ始まったばかりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい

新川キナ
ファンタジー
主人公の少年ジンが村を出て10年。 国家錬金術師となって帰ってきた。 村の見た目は、あまり変わっていないようでも、そこに住む人々は色々と変化してて…… そんな出戻り主人公が故郷で錬金工房を開いて生活していこうと思っていた矢先。王都で付き合っていた貧乏貴族令嬢の元カノが突撃してきた。 「私に貴方の子種をちょうだい!」 「嫌です」 恋に仕事に夢にと忙しい田舎ライフを送る青年ジンの物語。 ※話を改稿しました。内容が若干変わったり、登場人物が増えたりしています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜

ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。 全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。 神様は勘違いしていたらしい。 形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!! ……ラッキーサイコー!!!  すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...