追放された武闘派令嬢の異世界生活

新川キナ

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第一章:王都編

011:初仕事

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 工房を訪ねた私を出迎えたのは、初老を迎えたばかりぐらいの男性だった。

「えぇっと。何か用かね?」

 私は依頼の紙を見せる。

「冒険者ギルドで依頼を見て来ました」

 すると男性は「おぉおぉ。よう来なすったね」と歓迎して招き入れてくれた。そして、さっそくとばかりに仕事の説明だ。

「実はな図書館から依頼が来ておってな、羊皮紙の本から植物紙の本へに写本する作業を受けているんだが職人が二人も腕を痛めて休んでおる。完治するまでの間の十日から十五日程を通いで頼みたい。とはいえ、それもこれも今日の仕事を見てからのことじゃがな」

 私は疑問に思ったことを尋ねる。

「その職人さん。ポーションや治癒院では治さなかったんですか?」

 すると初老の職人は言った。

「ポーション代も高い。三等級が必要だそうだ。治癒院となるともっと高い。薬を塗って安静にしてれば治る程度だから。それなら休んだ方が得だってなってな」

 なるほど。損得を考えると、そういう場合もあるか。

 私はさっそく作業場を案内してもらう。

「ここじゃ。この机で頼む。道具はそこにあるのを使ってくれ。あぁ。一応どの程度のことが出来るのか見せてもらうぞ」

 私はさっそく羊皮紙で出来た本を渡され、植物紙に指定された場所を写す。さらさらさらっとな。すると見ていた初老の職人が言った。

「ほぉ。癖の少ない綺麗な字をしておる。ペンの持ち方も綺麗だ」

 これなら大丈夫じゃろう。そう言って持ち場に戻って行った。

 お昼まで黙々と作業をこなす。お昼は工房の近くの屋台で食べるのだそうだ。食事代は工房が出しくれるとのこと。良い職場だ。休憩をはさんで午後の作業……の前に一度。初老の職人が私の朝の作業の出来を確認。

「ほぉ。これは綺麗だ。うむ。いいじゃろう。合格じゃ。冒険者ギルドで依頼を出すのは苦肉の策だったんじゃが、これは当たりの人材が来てくれたよじゃ」

 そう言って「明日からも来てくれ」と言われた。その後は途中で休憩を入れつつ、また黙々と作業。

 そして、日が暮れるだいぶ前に仕事が終わった。

「今日はありがとさん。少し色を付けておいた。これで美味い物でも食ってくれ。明日もよろしく頼む」

 そう言って給料を支払ってくれたので私もお礼を言う。帰宅する途中でウサギの串肉を購入した。お土産だ。皆で食べよう。

 こうして今日が終わるのだった。
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