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第一章:王都編

005:受付嬢に絡まれた

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 言われた通りに道を進んだ先で、冒険者ギルドの看板を見つけた。

「ここか」

 木製で年季の入った看板だ。仮にも王都という、国でも有数の歴史と豊かさを誇る街のギルドだ。歴史も同じぐらいあって中も豪華で活気があるんだろうな。

 そんなギルドのドアを私は躊躇することなく開いて中へと入ったのだが、驚いたことに建物の中は閑散としていた。

 うっそぉん。人がほとんど居ない?

 どういうこと?

 前世で言う所の役場とかそんな感じの印象を私は受けた。質実剛健。機能美というか、機能性だけを追求したような場所。いやまぁ一応さ。壁に装飾とかあるけど必要最低限って感じなのだ。豪華さや華やかさなんて二の次、みたいな。

 あっ、でも明かりに関することにはこだわりを感じた。照明然り、明り取り然り。でも、それも、やっぱり機能性を重要視した結果なんだろうな。

 左奥には受付の人が座るカウンター。右手前には掲示板が並んでいる。おそらく依頼が張り出されているのだろう。ポツポツとガラの悪そうな男性が立っているのが見える。

 やっぱり絡まれるのかな?

 可愛い私は先輩冒険者に絡まれたりするのかな?

 ドキドキ。

 それでも私は仕事をしなくてはいけないのだ。生活のために。ここで引き返すと言う選択肢はない。

 いざ行かん。荒涼たる世界へ!

 男たちの視線が私へと向いている。だが声を掛けたりする人物は居なくて、多くが遠巻きに見ているだけだ。受付カウンターには数名の女性が座っているのが見えるから、それだけで荒野に花が添えられているようだ。これだけの花が並んでいるのだ。今さら私が増えたところで気にもしないだろう。

 私は手前の女性に声をかけた。

「登録をしたいんですけど」

 すると受付嬢。一瞬だけ怪訝そうにした後で、私のことをじっと見つめた。

「何です?」

 そう問うと「いえ。すみませんでした」と言って、一枚の記入用紙を取り出し始めた。その際に彼女が私を見つめた理由を説明してくれた。

「魔力の流れを見ていました。大変キレイな流れをなさっていますね。精緻で穏やか。内包する荒々しさをちゃんと制御している。毎日、ちゃんと心身ともに鍛錬をしている人ですね」
「なっ、何で知って!」

 私は眼の前の受付嬢に対して警戒度を上げる。そんな私に頓着することなく一枚の植物紙が広げられた。

「登録。するんですよね? こちらに記入をお願いします」

 何なんだ?

 戸惑う私に彼女は、ちゃんと説明をしてくれた。

「私たち冒険者ギルドの人間。とりわけ受付を担当する人間の多くは訓練で魔力の流れが見れるようになっています」
「魔眼……」
「あら、ご存知でしたか」
「父から聞いたことが。毎日の訓練と生まれ持った才能が必要な目があると。魔眼の中では結構よく知られている類ということも」
「ふふ。そのお父様は博識ですね。それともどちらかの貴族様でしょうか」

 どんどん私のことが暴かれていく。唖然とする私に受付嬢は笑顔だ。私は内心で冷や汗を流しながら、目の前に出された紙の項目に名前と年齢を記入して彼女に渡す。ティナ。十五歳と。するとそれを見た受付嬢が呟いた。

「あら可愛らしいお名前」

 そう言って笑顔で紙を受け取り、何やら作成を始めた。しばらく待っていると一枚のカードを手渡された。

「仮の冒険者証です。本登録は依頼を幾つか熟してからとなります。がんばってくださいね」

 私は彼女に疑問をぶつける。

「幾つか、って。幾つ?」
「ふふ。平均は七つほどでしょうか。査定次第では増減します。評価の査定が高ければ、それだけ早く本登録が出来ますね」
「仕事はどういうのがあるんですか?」
「色々です。基本は街なかでの仕事になりますが……そうですね特別に一つお教えしましょう」

 そう言って彼女が話した内容。それは……

「仕事は選んで下さい。自分に合ったものを。そして人があまり受けたがらない仕事を。もしくは技能が必要な事を。それだけ査定に大きく影響します。これは本登録以後も有用な情報です」

 私は理解した。確かに誰でも受けられる仕事と技能が必要な仕事なら、後者の方が評価が高くなるのは道理。

「なぜ話してもらえたんですか?」
「ふふ。冒険者になる人は沢山いますが、優秀そうな人は貴重ですから。文字の読み書きができるだけでも貴重なんですよ? そういう依頼を受けてもらえたら嬉しいなって」

 なるほど。ギルドにとって得があるからか。私は思わず本音をこぼす。

「ふぅ。冒険者に絡まれるかと思って身構えていたんだけどギルド職員に絡まれたか」

 私の大きな独り言が聞こえたようだ。そんな私の嫌味に受付嬢は頓着せずに朗らかに笑って言った。

「優秀な人材は大歓迎ですよ、ティナさん。ようこそ。冒険者ギルドへ」
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