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第一章:王都編
004:生きるために
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その後は家を出るだけ。荷物はない。着の身着のままというやつだ。家族としては色々と持たせてやりたいだろう。でもそれは出来ない。グレイセント家はこれからが大変だからね。
「バイバイ」
私は門の前で一度だけ屋敷を見上げて貴族の女性式の礼をした。右手を胸にして軽く頭を下げるのだ。後ろ暗いところはないからね。私は間違ってない。そんな思いを込めての最後の別れの挨拶。
これで終わり。貴族の私はもう居ない。その後は振り返ることもなく王都の中央広場を目指した。何はともあれ着替えなきゃ。貴族服で街なかを歩いていたら騒動の種にしかならないからな。
雪が溶けたばかりの季節で、まだまだ肌寒い早朝を少し過ぎた時間。私は使用人に聞いた庶民が使うという服屋を探して急ぎ足で街の中を歩いた。視線が突き刺さるが気にしない。
そして中央広場の一角に服屋を発見。さっそく突撃する。
「すみませーん」
店内に入った私は大声で呼びかける。すると女性店員が目を白黒。
貴族服の女性がお供も付けずに一人で来店したら、そりゃ驚くだろう。私は貴族生活で培ったポーカーフィエスで苦笑いをしたいのを抑えながら要件を話す。
「この服を売りたいのだけれど良いかしら?」
「え!」
「で、そうね。こっちの男の子用の服が欲しいの」
男性用じゃ私には大き過ぎるからね。
「は、はい!」
未だ混乱覚めやらない様子の女性店員がパタパタと動き始める。驚かせてゴメンよぉ。私は心の中で謝罪をしながら更衣室で着替えていく。
「えっと。こちらが服の代金のお釣りです」
「ありがとう」
わずかばかりの金銭が手元に入った。正直な話。貨幣の価値が分からない。銀貨なのは分かるけど。とりあえず私が早急にしなければならないことは仕事を探すことだ。
さすがに体を売るのは最後の手段としたい。
病気とか怖いし。
仮に売るとしてもそれなりの相手がいい。決して安売りはしたくない。貧すれば鈍する。その前に行動。これ大事。
「確か、冒険者という何でも屋の仕事があるとか言ってたな」
何処で聴いたんだっけ?
小間使いたちの会話だっけ?
あの時は仕事しろよと思って聞いていたが、今なら彼女たちのお喋りにグッジョブを送りたい。あなた達のサボりは今、私の中で生きているよ!
途中で適当な通行人を探す。声をかける対象に選んだのはオバサンだ。ちょっとちょっと。オバさん何処に行こうというのかね!
「すみません」
「おや。お嬢ちゃん。どうしたね? 男の子用の服なんて着て?」
「うん。冒険者になりたいんだけど、何処に行けば良いかな?」
するとオバさん。
「あんた! 冒険者になるのかい! やめときなよぉ。怪我するよ?」
やかましい。余計なお世話だよ。って私の中の悪魔が言った。ほんと口が悪いんだから。
「はぁ……そういうのいいから。何処に行けば良いのかだけ教えて」
最近は私も溜め息ばかりだな。ミセス・ウルネリーや父さんから感染ったかな?
まぁいいや。今はオバサンだ。
「はいはい。そうね。こっちの道をまっ直ぐに行った先。ブーツと剣と弓のマークの看板が目印だよ」
「そう。ありがと」
「本当に気をつけなね。冒険者なんて野蛮な連中だよ? お嬢ちゃんなんてペロリと食べられちゃうわよ?」
「それならそれで、お金を取るだけよ」
そう答えて私はバイバイと親切だけどお節介なオバサンと別れたのだった。
「バイバイ」
私は門の前で一度だけ屋敷を見上げて貴族の女性式の礼をした。右手を胸にして軽く頭を下げるのだ。後ろ暗いところはないからね。私は間違ってない。そんな思いを込めての最後の別れの挨拶。
これで終わり。貴族の私はもう居ない。その後は振り返ることもなく王都の中央広場を目指した。何はともあれ着替えなきゃ。貴族服で街なかを歩いていたら騒動の種にしかならないからな。
雪が溶けたばかりの季節で、まだまだ肌寒い早朝を少し過ぎた時間。私は使用人に聞いた庶民が使うという服屋を探して急ぎ足で街の中を歩いた。視線が突き刺さるが気にしない。
そして中央広場の一角に服屋を発見。さっそく突撃する。
「すみませーん」
店内に入った私は大声で呼びかける。すると女性店員が目を白黒。
貴族服の女性がお供も付けずに一人で来店したら、そりゃ驚くだろう。私は貴族生活で培ったポーカーフィエスで苦笑いをしたいのを抑えながら要件を話す。
「この服を売りたいのだけれど良いかしら?」
「え!」
「で、そうね。こっちの男の子用の服が欲しいの」
男性用じゃ私には大き過ぎるからね。
「は、はい!」
未だ混乱覚めやらない様子の女性店員がパタパタと動き始める。驚かせてゴメンよぉ。私は心の中で謝罪をしながら更衣室で着替えていく。
「えっと。こちらが服の代金のお釣りです」
「ありがとう」
わずかばかりの金銭が手元に入った。正直な話。貨幣の価値が分からない。銀貨なのは分かるけど。とりあえず私が早急にしなければならないことは仕事を探すことだ。
さすがに体を売るのは最後の手段としたい。
病気とか怖いし。
仮に売るとしてもそれなりの相手がいい。決して安売りはしたくない。貧すれば鈍する。その前に行動。これ大事。
「確か、冒険者という何でも屋の仕事があるとか言ってたな」
何処で聴いたんだっけ?
小間使いたちの会話だっけ?
あの時は仕事しろよと思って聞いていたが、今なら彼女たちのお喋りにグッジョブを送りたい。あなた達のサボりは今、私の中で生きているよ!
途中で適当な通行人を探す。声をかける対象に選んだのはオバサンだ。ちょっとちょっと。オバさん何処に行こうというのかね!
「すみません」
「おや。お嬢ちゃん。どうしたね? 男の子用の服なんて着て?」
「うん。冒険者になりたいんだけど、何処に行けば良いかな?」
するとオバさん。
「あんた! 冒険者になるのかい! やめときなよぉ。怪我するよ?」
やかましい。余計なお世話だよ。って私の中の悪魔が言った。ほんと口が悪いんだから。
「はぁ……そういうのいいから。何処に行けば良いのかだけ教えて」
最近は私も溜め息ばかりだな。ミセス・ウルネリーや父さんから感染ったかな?
まぁいいや。今はオバサンだ。
「はいはい。そうね。こっちの道をまっ直ぐに行った先。ブーツと剣と弓のマークの看板が目印だよ」
「そう。ありがと」
「本当に気をつけなね。冒険者なんて野蛮な連中だよ? お嬢ちゃんなんてペロリと食べられちゃうわよ?」
「それならそれで、お金を取るだけよ」
そう答えて私はバイバイと親切だけどお節介なオバサンと別れたのだった。
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