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プロローグ
003:家族との別れ
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父が目の前にいる。もうね。ものすっごく怒ってる。今にも爆発寸前と言った様子だ。それでも鋼のような意思で感情を抑え込んでいる様子から、我ながら良い父を持ったなと思った。
「申し開きを聞こうか?」
言葉こそ穏便だが。内心は酷いことになってそうだな。まぁいっか。私は何があったかを端的に話す。
「とある少女が悪漢の手に落ちようとしていたので助けました」
隠し立ても嘘もない。だって私、悪くないもん。しかし……
「ティナ。会場のどこにもその様な少女は居なかった」
私は首を傾げる。はてな?
事実として居たのだが。
あぁ、なるほど。
多分だけど醜聞という傷が付くことを恐れて、その子が隠しているのだろう。父にそう伝える。すると父が溜め息を吐いた。なんだか最近、私は人の溜め息ばかり聴いている気がする。
しっかし。そうかぁ。これはあれだ。私は冤罪で処刑かな?
良くて修道院送りってところか?
「ティナ。証人が被害者のランバレット殿のみだ。それがどういうことか分かるか?」
「はい。私は非常に不利です」
「そうだ。バモラー殿はこの度の件を非常に嘆き怒っていらっしゃる」
「はい」
「本来ならカラモルト家に多額の賠償金と君の身柄の引き渡し。そして我が家の御家取り潰しとなるほどの事態だ。とはいえ伯爵家としても、まさか女性に殴られたと世間に周知されるのは非常に不味いというのだ。そこで幾らかの賠償金とお前の貴族号の剥奪。そして追放で手を打つと仰っている」
「はい」
「ティナ……」
そう言って非常に残念そうにしている父。そんな父に私は言う。
「父様。私は今でも自分が間違ったことをしたとは思っていません」
すると父が何度目になるか分からない溜め息。ごめんよ。でも譲れないものがあるのだよ。
「残念だよ。こういう形でお前と別れることになるなんて」
「私もです。父様。今までありがとうございました」
「……あぁ」
私が父の執務室を出ていこうとすると「待て」と言われた。
「何でしょう?」
「母さんに。メルーナに挨拶だけはしていけ」
うぅ。それは気が重い。
「……はい」
私は言われた通りに母の部屋を訪ねてドアをノックする。
「エレスティーナです」
「入りなさい」
「……はい」
部屋に入ると母は部屋の角の椅子で、やや憔悴した様子で小さな弟を抱いて座っていた。
しばし無言で見つめ合う。しかし何時まで黙っていてもしょうがない。私は早々に家を出ていかなければいけないのだから。なので先に口を開いたのは私の方。
「お別れです。母様」
すると、耐えかねたように母がすすり泣き出した。貴族女性が人前で泣くというのはよっぽどのことだ。
「あぁ、ティナ。ティナ……」
その弱りきった母の様子が居た堪れなくて私は小さく「ごめんなさい」と謝罪を口にした。しばらく無言で別れを惜しんだところで母がおもむろに口を開いた。
「昔から不思議な娘でした」
そう言って母は思い出話を始めた。
「素直で聞き分けが良くて、手のかからない娘。滅多に泣かず、私達の話す言葉にじぃっと耳を傾けて。ふふ。最初に本を読み始めたのは三歳だったかしら。どれほど驚いたか」
うん。そだね。私には前世の記憶があったからね。特に記憶を取り戻した三歳以降は賢しらな娘だったと思うよ。
「この娘は天才なのかと思うこともしばしば」
あはは。前世で生きた四十年分の記憶があったからね。この世界より優れた文明で生きた知識。その上に大人の忍耐力に思考力まである子供。そりゃ期待しちゃうよね。
「ふふ。ここ十年は変な踊りまで踊りだしてね」
あはは。武道の型の稽古や筋トレやストレッチだね。ごめんね。変に見えたよね。でも体を鍛えたかったし実際にそれが役に立ちそうだよ。引き締まった私の腹筋を羨ましがってたね。
「母様……」
「貴女にそうやって呼ばれるのも今日で最後ですね」
「はい」
「元気で……頑張るのよ」
最後まで娘の無事を願う母の姿に思わず挫けそうになる。でも……あの時の自分の行動が間違っていたとは思わない。
いや、まぁ……うん。
本当は近場の衛兵を呼ぶだけで良かったんだろうけどさ。
殴ったのは私の憂さ晴らし。だって気持ち悪かったんだもん。しゃーない、しゃーない。あはは。
などという事を考えていたとは、おくびにも出さず私は母にお別れを伝える。
「母様も……お元気で」
まぁ我が家には嫡子の弟がいるからね。御家が少し傾くのは申し訳ないが弟には頑張ってもらおう。母の腕の中ですやすやと眠る弟にも謝罪する
「ごめんね。不出来な姉で」
「申し開きを聞こうか?」
言葉こそ穏便だが。内心は酷いことになってそうだな。まぁいっか。私は何があったかを端的に話す。
「とある少女が悪漢の手に落ちようとしていたので助けました」
隠し立ても嘘もない。だって私、悪くないもん。しかし……
「ティナ。会場のどこにもその様な少女は居なかった」
私は首を傾げる。はてな?
事実として居たのだが。
あぁ、なるほど。
多分だけど醜聞という傷が付くことを恐れて、その子が隠しているのだろう。父にそう伝える。すると父が溜め息を吐いた。なんだか最近、私は人の溜め息ばかり聴いている気がする。
しっかし。そうかぁ。これはあれだ。私は冤罪で処刑かな?
良くて修道院送りってところか?
「ティナ。証人が被害者のランバレット殿のみだ。それがどういうことか分かるか?」
「はい。私は非常に不利です」
「そうだ。バモラー殿はこの度の件を非常に嘆き怒っていらっしゃる」
「はい」
「本来ならカラモルト家に多額の賠償金と君の身柄の引き渡し。そして我が家の御家取り潰しとなるほどの事態だ。とはいえ伯爵家としても、まさか女性に殴られたと世間に周知されるのは非常に不味いというのだ。そこで幾らかの賠償金とお前の貴族号の剥奪。そして追放で手を打つと仰っている」
「はい」
「ティナ……」
そう言って非常に残念そうにしている父。そんな父に私は言う。
「父様。私は今でも自分が間違ったことをしたとは思っていません」
すると父が何度目になるか分からない溜め息。ごめんよ。でも譲れないものがあるのだよ。
「残念だよ。こういう形でお前と別れることになるなんて」
「私もです。父様。今までありがとうございました」
「……あぁ」
私が父の執務室を出ていこうとすると「待て」と言われた。
「何でしょう?」
「母さんに。メルーナに挨拶だけはしていけ」
うぅ。それは気が重い。
「……はい」
私は言われた通りに母の部屋を訪ねてドアをノックする。
「エレスティーナです」
「入りなさい」
「……はい」
部屋に入ると母は部屋の角の椅子で、やや憔悴した様子で小さな弟を抱いて座っていた。
しばし無言で見つめ合う。しかし何時まで黙っていてもしょうがない。私は早々に家を出ていかなければいけないのだから。なので先に口を開いたのは私の方。
「お別れです。母様」
すると、耐えかねたように母がすすり泣き出した。貴族女性が人前で泣くというのはよっぽどのことだ。
「あぁ、ティナ。ティナ……」
その弱りきった母の様子が居た堪れなくて私は小さく「ごめんなさい」と謝罪を口にした。しばらく無言で別れを惜しんだところで母がおもむろに口を開いた。
「昔から不思議な娘でした」
そう言って母は思い出話を始めた。
「素直で聞き分けが良くて、手のかからない娘。滅多に泣かず、私達の話す言葉にじぃっと耳を傾けて。ふふ。最初に本を読み始めたのは三歳だったかしら。どれほど驚いたか」
うん。そだね。私には前世の記憶があったからね。特に記憶を取り戻した三歳以降は賢しらな娘だったと思うよ。
「この娘は天才なのかと思うこともしばしば」
あはは。前世で生きた四十年分の記憶があったからね。この世界より優れた文明で生きた知識。その上に大人の忍耐力に思考力まである子供。そりゃ期待しちゃうよね。
「ふふ。ここ十年は変な踊りまで踊りだしてね」
あはは。武道の型の稽古や筋トレやストレッチだね。ごめんね。変に見えたよね。でも体を鍛えたかったし実際にそれが役に立ちそうだよ。引き締まった私の腹筋を羨ましがってたね。
「母様……」
「貴女にそうやって呼ばれるのも今日で最後ですね」
「はい」
「元気で……頑張るのよ」
最後まで娘の無事を願う母の姿に思わず挫けそうになる。でも……あの時の自分の行動が間違っていたとは思わない。
いや、まぁ……うん。
本当は近場の衛兵を呼ぶだけで良かったんだろうけどさ。
殴ったのは私の憂さ晴らし。だって気持ち悪かったんだもん。しゃーない、しゃーない。あはは。
などという事を考えていたとは、おくびにも出さず私は母にお別れを伝える。
「母様も……お元気で」
まぁ我が家には嫡子の弟がいるからね。御家が少し傾くのは申し訳ないが弟には頑張ってもらおう。母の腕の中ですやすやと眠る弟にも謝罪する
「ごめんね。不出来な姉で」
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