2 / 48
プロローグ
002:最低の婚約者
しおりを挟む
私はミセス・ウルネリーを相手に逃げ回った。そして隙きを見ては鍛錬に明け暮れた。だが時間というのは嫌な事がある時ほど早く過ぎるものだ。
社交界当日は瞬く間にやって来た。
「お父様」
「おぉ、ティナか。うむ。母譲りの紫銀の髪と碧緑の瞳は相変わらず実に美しい」
会場の控室で父と合流した。期待に満ちた目をしている。
「ティナよ。今宵は頑張るのだぞ。婚約者のランバレット殿とは仲良くな」
そう言って機嫌よく会場である大広間へと足を運ぶ父。羽根でも生えているかの様に軽やかだ。ちなみに私の足には鉄球がついているように重もしい。ズルズルとした足取りで歩く私を知らない貴族の誰かが笑って観ている。他人事だと思いやがって!
あぁヤダヤダ。破談にならないかなぁ。
そんなことを思いながら婚約者と対面した。伯爵家の現当主バモラーと、その嫡子ランバレット。バモラーは肥え太った豚……ゲフンゲフン。いい肉付きをしている。ランバレットは逆で長身で筋肉質な男性だ。いかにも武人という感じの雰囲気で見た感じは良さげだ。
でも、将来はバモラーみたいになるのだろうか?
それはちょっと嫌だな。
私は二人に挨拶をする。
「お初にお目にかかります。エレスティーナにございます」
そう言って進み出た私にランバレットがさっそく興味を示した。
「ほぉ。紫銀の髪とは珍しい。噂に違わず美しいものだな」
そう言って無造作に髪に触れる婚約者様。
おい。許可なく触んなよ。
私の不快指数が少し上がる。ランバレットの言葉に当主のバモラーも頷く。
「うむ。ラジモンドよ。お主の妻のセレアーナを思い出すな。あれも実に美しい娘だった」
父が「はっ!」と応じる。その横ではランバレットからの熱い視線。どうやら興味を持ったらしい。粘着質な視線だな。私は内心で深く深く溜め息をついた。この溜め息の深さならミセス・ウルネリーにも勝てそうだなと思った。
※
※
※
会場入りして、全員が王族への挨拶が終わったところで、場はダンスへと移った。私は父と一度踊った後に婚約者様とも踊る。その際に「ふむ。胸は小さいのだな」と言われた。
やかましいわ!
私の中で不快指数が上る。
その後は飲み物と食べ物を手にとって壁へともたれ掛かった。これで人はやってこない。そういうお約束ごとがあるのだ。
しばらく、そうして壁の花になった私は会場全体に目を向けた。すると婚約者が目に入った。
ちっ。嫌な所を見ちゃったよ。
どうやら女性……いや少女に声をかけているようだ。やたらとベタベタとして、粘っこい視線を向けている。更に不快指数が上がる。元々が乗り気じゃなかった婚約話だ。
「どうしてくれよう」
私が婚約者と少女の様子を見ていると、少女はとても不愉快そうにしている。まるで毛虫を見るような目だ。それでも構わず彼女に触れて、どこかに連れ出そうとして醜態を晒す婚約者様。すると少女がわずかに抵抗を始めた。それでも構わずしつこく迫り会場から連れ出し始める姿に、私の不快指数は完全に振り切れた。私は矢も盾もたまらず二人の元へ。そして婚約者に声をかけた。
「ランバレット様?」
「ん? あぁエレスティーナか。どうしたね?」
「そちらの方は?」
私の問いにランバレットがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら答える。
「どうやら具合が悪いらしくてね。介抱をしようかと思って」
そう言ってから私を見て「あぁ。もしかして嫉妬してるのか? 他の娘と仲良くしているから」とのたまった。
私は一応だが、念のために少女に尋ねる。
「助けは要る?」
少女が目に涙をためながらコクコクと頷いた。私はランバレットに視線を移して一言。
「だ、そうよ。死ね。クソ野郎!」と言って渾身の拳を放った。ブベラッとか言って吹っ飛ぶランバレット。借りにも軍人のような見た目の男なので避けるか受けるかするかとも思ったが……
なんだ?
見掛け倒しか?
私は涙目を浮かべる小動物のような少女に「行っていいよ。私が片しとくから」と言って会場に戻るよう促した。
少女が会場に戻り、ランバレットとお話し合いの時間だ。
「き、君は自分が何をしたか分かっているのか!」
「嫌がっている女の子に巫山戯た真似してる貴方に言われたかないわよ!」
私が更に殴ってやろうかと思って動いたところで、騒ぎを聞いて駆け付けて来た衛兵が私を取り押さえたのだった。
社交界当日は瞬く間にやって来た。
「お父様」
「おぉ、ティナか。うむ。母譲りの紫銀の髪と碧緑の瞳は相変わらず実に美しい」
会場の控室で父と合流した。期待に満ちた目をしている。
「ティナよ。今宵は頑張るのだぞ。婚約者のランバレット殿とは仲良くな」
そう言って機嫌よく会場である大広間へと足を運ぶ父。羽根でも生えているかの様に軽やかだ。ちなみに私の足には鉄球がついているように重もしい。ズルズルとした足取りで歩く私を知らない貴族の誰かが笑って観ている。他人事だと思いやがって!
あぁヤダヤダ。破談にならないかなぁ。
そんなことを思いながら婚約者と対面した。伯爵家の現当主バモラーと、その嫡子ランバレット。バモラーは肥え太った豚……ゲフンゲフン。いい肉付きをしている。ランバレットは逆で長身で筋肉質な男性だ。いかにも武人という感じの雰囲気で見た感じは良さげだ。
でも、将来はバモラーみたいになるのだろうか?
それはちょっと嫌だな。
私は二人に挨拶をする。
「お初にお目にかかります。エレスティーナにございます」
そう言って進み出た私にランバレットがさっそく興味を示した。
「ほぉ。紫銀の髪とは珍しい。噂に違わず美しいものだな」
そう言って無造作に髪に触れる婚約者様。
おい。許可なく触んなよ。
私の不快指数が少し上がる。ランバレットの言葉に当主のバモラーも頷く。
「うむ。ラジモンドよ。お主の妻のセレアーナを思い出すな。あれも実に美しい娘だった」
父が「はっ!」と応じる。その横ではランバレットからの熱い視線。どうやら興味を持ったらしい。粘着質な視線だな。私は内心で深く深く溜め息をついた。この溜め息の深さならミセス・ウルネリーにも勝てそうだなと思った。
※
※
※
会場入りして、全員が王族への挨拶が終わったところで、場はダンスへと移った。私は父と一度踊った後に婚約者様とも踊る。その際に「ふむ。胸は小さいのだな」と言われた。
やかましいわ!
私の中で不快指数が上る。
その後は飲み物と食べ物を手にとって壁へともたれ掛かった。これで人はやってこない。そういうお約束ごとがあるのだ。
しばらく、そうして壁の花になった私は会場全体に目を向けた。すると婚約者が目に入った。
ちっ。嫌な所を見ちゃったよ。
どうやら女性……いや少女に声をかけているようだ。やたらとベタベタとして、粘っこい視線を向けている。更に不快指数が上がる。元々が乗り気じゃなかった婚約話だ。
「どうしてくれよう」
私が婚約者と少女の様子を見ていると、少女はとても不愉快そうにしている。まるで毛虫を見るような目だ。それでも構わず彼女に触れて、どこかに連れ出そうとして醜態を晒す婚約者様。すると少女がわずかに抵抗を始めた。それでも構わずしつこく迫り会場から連れ出し始める姿に、私の不快指数は完全に振り切れた。私は矢も盾もたまらず二人の元へ。そして婚約者に声をかけた。
「ランバレット様?」
「ん? あぁエレスティーナか。どうしたね?」
「そちらの方は?」
私の問いにランバレットがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら答える。
「どうやら具合が悪いらしくてね。介抱をしようかと思って」
そう言ってから私を見て「あぁ。もしかして嫉妬してるのか? 他の娘と仲良くしているから」とのたまった。
私は一応だが、念のために少女に尋ねる。
「助けは要る?」
少女が目に涙をためながらコクコクと頷いた。私はランバレットに視線を移して一言。
「だ、そうよ。死ね。クソ野郎!」と言って渾身の拳を放った。ブベラッとか言って吹っ飛ぶランバレット。借りにも軍人のような見た目の男なので避けるか受けるかするかとも思ったが……
なんだ?
見掛け倒しか?
私は涙目を浮かべる小動物のような少女に「行っていいよ。私が片しとくから」と言って会場に戻るよう促した。
少女が会場に戻り、ランバレットとお話し合いの時間だ。
「き、君は自分が何をしたか分かっているのか!」
「嫌がっている女の子に巫山戯た真似してる貴方に言われたかないわよ!」
私が更に殴ってやろうかと思って動いたところで、騒ぎを聞いて駆け付けて来た衛兵が私を取り押さえたのだった。
89
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい
新川キナ
ファンタジー
主人公の少年ジンが村を出て10年。
国家錬金術師となって帰ってきた。
村の見た目は、あまり変わっていないようでも、そこに住む人々は色々と変化してて……
そんな出戻り主人公が故郷で錬金工房を開いて生活していこうと思っていた矢先。王都で付き合っていた貧乏貴族令嬢の元カノが突撃してきた。
「私に貴方の子種をちょうだい!」
「嫌です」
恋に仕事に夢にと忙しい田舎ライフを送る青年ジンの物語。
※話を改稿しました。内容が若干変わったり、登場人物が増えたりしています。
放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます
長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました
★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★
★現在三巻まで絶賛発売中!★
「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」
苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。
トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが――
俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ?
※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜
ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。
全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。
神様は勘違いしていたらしい。
形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!!
……ラッキーサイコー!!!
すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる