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056:ダンジョンの中

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 闇のダンジョンとはよく言ったものだ。中に入った俺を暗闇が包み込んだ。ランタンの明かりも松明の火も、とっても心もとなく。そのまま闇に自分の意識が溶け出して一体化してしまいそうな錯覚を覚える。そこは闇が、とてつもなく重く感じるような空間だった。

 壁に手を付くことで、そこが闇だけに支配される虚ろな場所でなく、普通のダンジョンなのだと思い出される。

「凄い……なんて場所だ」

 俺の声が静寂で支配された空間に吸い込まれていく。明かりがなければ、何処に誰が居るのかすら、すぐに分からなくなりそうだ。

 ゲーネッツが言った。

「来てよかったろ。見聞きしただけじゃ絶対に分からない、生の重み」

 俺は頷く。

「闇は人の原初の恐怖を呼び覚ますモノだけど、こんなに深く牙をむく場所を俺は知らない」

 そんな会話をしながら奥へと進む。道はどうやら今のところは一本道らしい。その事を尋ねてみる。するとカイトが答えた。

「今のところはな。しかしもうすぐしたら別れ道だ。そうだ。このダンジョンの特徴を話しておこうか」

 そう言って話してくれた内容は奇異なものだった。

「時々、地面から生えてくる青の石碑を触れるとダンジョンの外に脱出できるんだ」
「地面から石碑が生えてくるの?」
「そうだ。ちなみに赤い石碑に触れれば更に奥を目指すことになる」
「道を引き返すことはできる?」
「出来なくはないが……」

 そう言ってカイトさんが後ろを見る。そこには広大な闇が広がっている。

「この闇の中。方向感覚を維持したままというのは無理がある。前後どころか上下の感覚さえ”あやふや”になるからな」

 そんな話をしているとさっそく別れ道だ。

「このダンジョンでは地図作りもままならない。現状で地図は無い。ダンジョンが発見されて一つの季節が移り変わったのにだ」
「作ろうとはした?」
「あぁ。俺たちも。他の冒険者もな。だがどうやらこのダンジョン。少しずつ中が変化しているようなんだ」

 そう言って、二股に伸びる右の通路をカイトさんが照らす。

「俺たちが最初に入った時。右の通路は行き止まりだった。しかし別の冒険者の話では通路が続いているという。で、俺たちも確認のために行ってみたんだ。すると通路は続いていた。でも後日また行くと今度は三又に分かれていた。このダンジョンの極悪さは今までにあったダンジョンの常識が通じないという点だ」

 そう言って、カイトさんが右の道を進み始めた。すると幾らか進んだ先で魔物と遭遇した。敵はゴブリンだ。サクッと倒して魔石を回収して先を行くと道は行き止まりになってしまった。

「ご覧のとおり道が変化する。魔物もその都度、出たり出なかったりでな。こんなダンジョンは他にはないということだ。少なくても冒険者ギルドでは把握していないとのことだ」

 ふむ。道が変化するのか。厄介極まりないな。とりあえずは闇の対策からだな。

「光り苔を散布していくという手は使えないかな」
「うん?」
「せめて明かりの対策にさ。根気のいる作業になるけど都度、ダンジョンに入るたびに光り苔を散布して廻るんだ。光蟲もついでに放ってもいいかもしれない」

 俺の提案にゲーネッツが首を傾げた。

「光り苔と光蟲……それはどんなものなんだ?」
「どちらも錬金術で作られた生命なんだけどね。光り苔は、より暗く湿気のある場所へ向かって繁殖する苔だ。つまり光り苔を探して進めば奥へと進むことになる。奥に行けば行くほど苔が繁殖してくれるはずだ。そうなれば光量が増す」
「ほぉ」
「光蟲は逆で光り苔で生まれて明かりのある場所を目指す蟲で、この光蟲を追いかければ出口へと出られるはずだ」

 でも、と言葉を続ける。

「でも、脱出用の石碑が生えるんでしょ?」
「あぁ。たまにだがな。それが見つかれば出られるが、見つからないと彷徨うことになる。出来れば出口は運の要素ではなく自分の意思で出来るようにしたい」

 まぁそうだよな。ダンジョンで脱出路が運頼みとか避けたい事態だ。
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