30 / 61
030:3人で話し合い
しおりを挟む
うぅ……
無言の昼食会が重い。
一人ニコニコと微笑みながら朝食を摂るエステラ。サリナは完全に俯いて降参状態だ。当然だろう。相手は紛いなりにも伯爵家令嬢。平民のサリナが太刀打ちできる相手じゃない。俺が何とかしなきゃ。
とりあえず話をしよう。無言は辛い。空気が重いからな。
「それで、エステラ。貴族である君が平民の食事会にお邪魔してよかったのか?」
暗に、貴族のお前は遠慮しろという意味を込めて貴族的な言い回しで攻めてみる。すると……
「あら。貴族とは言え今は、この村でお世話になっているもの。村の一員のつもりよ?」
ほぉ?
村の一員のつもり、ねぇ。
ならばサリナが不敬をしても許してもらえるだろう。
「だってさ。サリナちゃん。こちらの令嬢は不敬をしても許してくださるらしいよ?」
俺の言葉にサリナちゃんが、わずかに顔を上げた。
「あ、あの……」
それでも相当な勇気がいる行為。身分社会が骨の髄まで染み込んでいる故の反応だな。俺はだいぶ慣れたが。それでも緊張するからな。エステラ相手にはそうでもないが。
エステラがサリナを見る。
「何か?」
笑みを深めるエステラ。その笑顔が今は恐ろしい。
「エ、エステラ様は……い、今もジンさんのことを、す、好きなんですか?」
するとエステラ。少しその表情に影を落とした。
「複雑なところね。これでも知り合ってから数えれば3年ぐらいの付き合い出し。それこそ恋人期間は4ヶ月ほどだったけど……そうね。未練がないかと言われたら嘘になるわね」
「そ、そうですか……」
「そういう貴女はどうなのかしら?」
「……す、好きです。私を綺麗だって言ってくれ、くださいました」
「そう……」
そう言ってポロポロと涙を流し始めるサリナちゃん。俺の方をエステラがチラッと見る。一瞬だが目が合った。俺は必死なサリナちゃんを援護する。
「エステラ。もうやめろ。人間として嫌いになりそうだ」
すると今度はエステラが泣きそうな表情になる。
「わ、私だって別に悪者をやりたいわけじゃないのよ」
そう言って彼女が落ち込みだした。怒ったり脅したり”しょげたり”。なんか忙しいやつだな。
だがお陰で少し俺に気持ちの余裕ができた。
「まぁな。今のエステラの立場を考えると可愛そうではあるけどさ。成人前の女の子にやるこっちゃないだろ?」
「うぅ……ごめん」
そう言って今度はエステラが俯く。何だかなぁ……
そんな俺達のやり取りを見ていたサリナちゃん。何を思ったか床に置いていた箱を持ち上げた。
「あ、あの。これ……」
そう言って見せてくれたのは彼女が作った自作のペンダント達。かなりの数がある。
「私が作った物……ジンさんが見たいって」
そういって食事が下げられたテーブルの上に木製のペンダントが並べられていく。
「これが最近のやつです」
そう言って見せられたのは鳥の羽をモチーフに掘られたペンダント。他にも幾何学模様が掘られたものや木の葉や木の実、三日月に花。猫、犬、鳥と言った物が並ぶ。どれも温かみがあり、かつ精緻だったり、時に大胆にデフォルメされていたりする。
「凄い……」
俺が思わず感嘆の声を上げる。エステラも驚いている。
「これ、貴女が作ったの?」
コクリと頷くサリナ。
「見せてもらっても良い?」
「……はい」
エステラが一個一個を見ていく。仮にも伯爵家令嬢。貧乏貴族でも俺たちより審美眼はあるだろう。その彼女が言った。
「これもこれも。すごい才能……あっ。これ、可愛い!」
そう言って猫と月をモチーフにしたペンダントと木の実のペンダントをそれぞれ持って目を輝かせている。
「あっ、その二つとも。自信作なんです。丸い感じが難しくて……難しかったです」
「いいわよ。普通に喋って」
「あっ、はい」
「こっちの羽も凄い」
「はい。それは……」
そう言って話を始めたのだった。
無言の昼食会が重い。
一人ニコニコと微笑みながら朝食を摂るエステラ。サリナは完全に俯いて降参状態だ。当然だろう。相手は紛いなりにも伯爵家令嬢。平民のサリナが太刀打ちできる相手じゃない。俺が何とかしなきゃ。
とりあえず話をしよう。無言は辛い。空気が重いからな。
「それで、エステラ。貴族である君が平民の食事会にお邪魔してよかったのか?」
暗に、貴族のお前は遠慮しろという意味を込めて貴族的な言い回しで攻めてみる。すると……
「あら。貴族とは言え今は、この村でお世話になっているもの。村の一員のつもりよ?」
ほぉ?
村の一員のつもり、ねぇ。
ならばサリナが不敬をしても許してもらえるだろう。
「だってさ。サリナちゃん。こちらの令嬢は不敬をしても許してくださるらしいよ?」
俺の言葉にサリナちゃんが、わずかに顔を上げた。
「あ、あの……」
それでも相当な勇気がいる行為。身分社会が骨の髄まで染み込んでいる故の反応だな。俺はだいぶ慣れたが。それでも緊張するからな。エステラ相手にはそうでもないが。
エステラがサリナを見る。
「何か?」
笑みを深めるエステラ。その笑顔が今は恐ろしい。
「エ、エステラ様は……い、今もジンさんのことを、す、好きなんですか?」
するとエステラ。少しその表情に影を落とした。
「複雑なところね。これでも知り合ってから数えれば3年ぐらいの付き合い出し。それこそ恋人期間は4ヶ月ほどだったけど……そうね。未練がないかと言われたら嘘になるわね」
「そ、そうですか……」
「そういう貴女はどうなのかしら?」
「……す、好きです。私を綺麗だって言ってくれ、くださいました」
「そう……」
そう言ってポロポロと涙を流し始めるサリナちゃん。俺の方をエステラがチラッと見る。一瞬だが目が合った。俺は必死なサリナちゃんを援護する。
「エステラ。もうやめろ。人間として嫌いになりそうだ」
すると今度はエステラが泣きそうな表情になる。
「わ、私だって別に悪者をやりたいわけじゃないのよ」
そう言って彼女が落ち込みだした。怒ったり脅したり”しょげたり”。なんか忙しいやつだな。
だがお陰で少し俺に気持ちの余裕ができた。
「まぁな。今のエステラの立場を考えると可愛そうではあるけどさ。成人前の女の子にやるこっちゃないだろ?」
「うぅ……ごめん」
そう言って今度はエステラが俯く。何だかなぁ……
そんな俺達のやり取りを見ていたサリナちゃん。何を思ったか床に置いていた箱を持ち上げた。
「あ、あの。これ……」
そう言って見せてくれたのは彼女が作った自作のペンダント達。かなりの数がある。
「私が作った物……ジンさんが見たいって」
そういって食事が下げられたテーブルの上に木製のペンダントが並べられていく。
「これが最近のやつです」
そう言って見せられたのは鳥の羽をモチーフに掘られたペンダント。他にも幾何学模様が掘られたものや木の葉や木の実、三日月に花。猫、犬、鳥と言った物が並ぶ。どれも温かみがあり、かつ精緻だったり、時に大胆にデフォルメされていたりする。
「凄い……」
俺が思わず感嘆の声を上げる。エステラも驚いている。
「これ、貴女が作ったの?」
コクリと頷くサリナ。
「見せてもらっても良い?」
「……はい」
エステラが一個一個を見ていく。仮にも伯爵家令嬢。貧乏貴族でも俺たちより審美眼はあるだろう。その彼女が言った。
「これもこれも。すごい才能……あっ。これ、可愛い!」
そう言って猫と月をモチーフにしたペンダントと木の実のペンダントをそれぞれ持って目を輝かせている。
「あっ、その二つとも。自信作なんです。丸い感じが難しくて……難しかったです」
「いいわよ。普通に喋って」
「あっ、はい」
「こっちの羽も凄い」
「はい。それは……」
そう言って話を始めたのだった。
0
お気に入りに追加
1,058
あなたにおすすめの小説
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
追放された武闘派令嬢の異世界生活
新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。
名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。
気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。
追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。
ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。
一流の錬金術師になるべく頑張るのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる