上 下
2 / 61

002:家族との再会

しおりを挟む
 俺が国の最高峰の研究機関をやめた理由。それは、その研究内容にあった。

「不老不死と兵器開発……」

 テレンスさんが、その内容に驚いている。俺は頷きまがら更に詳しく説明する。

「うん。俺はもっとこう。国民や皆が幸せになるための研究をするものだとばかり思ってた。例えば傷用ポーションの研究開発とかさ。でも違ったんだ。傷用ポーションはそもそも不老不死の研究過程でたまたま出来ただけだったんだ」

 俺はとつとつと語った。理想と現実の違いを。

「こんな一部の人達の欲望を満たすために錬金術をやってるんじゃない。もっとこう。皆の生活に寄り添った物が作りたいんだって。そう思ったら居ても立っても居られなくなったんだ」
「だから辞めたのか」
「うん」
「そうか……」

 するとテレンスさんが突然、俺の頭を撫で回した。

「な、何?」
「偉いな。うん。ジンはそういう子だった。昔から優しい子だったなと思ってな」

 そう言われて、オレの心が軽くなる。

「そう、だったかな」
「あぁ。変わってなくて安心した」
「……うん。ありがと」

 そんな話しをしている間に村に到着した。すると子供たちが馬車の周りに集まってきた。行商人の到着は村の人からしたら娯楽の1つでもあるから人気者だ。しかし、そこに見慣れない人間である俺が座っていることから驚いた様子を見せて少し距離を置いているようだ。

 彼ら彼女らは俺がいない間に生まれた子達のようで、見たことのない子供たちばかり。

 そのままガタゴトと馬車は、ゆっくりと村の中央にある村長宅へ向けて進むのだった。





 村長に挨拶。当然俺もだ。すると話を聞いていた村長の息子がすぐに俺たちに向かって言った。

「ジンの親御さんを呼んでくる!」

 そう言って、走り出し行ってしまう。しばらくしたら村の中が慌ただしくなった。そうして、しばらく村長と話しをしていると「ジンが帰ってきたって本当かい!」

 そう言って村長の家に飛び込んできたのは母だった。その腕には小さな赤ん坊が抱かれている。背中の方にもだ。ふくよかでがっしりしている母。10年前の姿が思い出される。逞しくなったかな……特に体周り。

 いや、言わないけどさ。言ったら殺されるから言わないけどさ。それでもやはり顔周りは老けたかな。ほうれい線とか目尻とか。ちょっとそのことに寂しさを覚えつつも、同時に気まずさもあり、だから下を向きながらの挨拶。

「えっと、あの、ただいま……」

 10年ぶりの再会が胸を張って言えないなんて、な。

 すると母はそんな俺に構うこと無くドスドスドスと近づいてきたかと思うとワシャっと俺の頬を両手で挟んで顔を覗き込んで言った。。

「おかえり。ジン!」

 そう言って、その太ましい腕で赤ん坊ごと俺を抱きしめた。苦しい……

 しばらく抱きしめられていたが、苦しかったので母を引き剥がす。

「ふぅ……」
「それで? どうしたんだい?」

 そこで母に事情を話した。

「そうかい。まぁ私には難しいことは分かんないけどね。元気そうで良かったよ」

 そう言って微笑む母を見て、俺は何だかホッとした。

「それで? 父さんは?」

 俺が尋ねると母が答えた。

「狩りだよ」
「そっか」

 村は十年前と変わっていない。父も母も少々老けたぐらいで、あんまり変わっていないようだ。そんな母の背中と胸に抱かれた子たちは兄弟だろうか?

「その子達は?」
「昨年生まれた子たちで、どっちも預かっている子だよ」
「母さんの子じゃないのか」
「あっはっは。あんたがいない間に生まれた子なら、ほら。そこに」

 そう言って母が視線を向けた先には5歳ぐらいの男の子。

 入り口の壁に体を隠し頭半分だけ出して、こっちをじぃっと見ている。

 そんな男の子に母が手招き。

「レック。おいで。あんたの兄ちゃんだよ」

 しかしレックと呼ばれた男の子は顔を隠して、走り去ってしまった。俺は苦笑い。

「嫌われたかな?」
「どう接していいか分かんないだよ。きっと」
「そっか」

 まぁ後で話す機会もあるだろう。

 そんな母と会話が一通り終わったところで、村長が話し始めた。

「それで? ジンや。おまえさん。これからどうするつもりかね?」

 これに俺は答える。

「できれば村で錬金工房と雑貨屋をやりたい」
「ほぉ?」
「この辺に生えている素材だと結構な品質の傷用ポーションが作れるんだ。他にも有用そうな道具を色々作ろうかと思ってる」
「ほほぉ、なるほど。それはいいな。分かった。期待しておるよ」

 こうして俺は村で錬金工房と雑貨屋を開くことにになったのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

万の称号を持つ男 〜称号が全てを決める世界〜

しょう
ファンタジー
称号が全てを決める世界タイトル そこに生きる人々は、幼い頃から、少しでも良い称号を手にする為に、日々努力を重ねている そんな中、ある思惑に巻き込まれ、瀕死の重傷を負った主人公ディモン 瀕死の重傷を負ったディモンは、常人が躊躇する程の努力をして、数多くの称号を手にした そんなディモンが、自身を瀕死に追い遣った者に復讐し、世界を変える話 お気に入り登録を、是非お願いします!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

追放された武闘派令嬢の異世界生活

新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。 名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。 気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。 追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。 ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。 一流の錬金術師になるべく頑張るのだった

処理中です...