何か妖怪

新川キナ

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のっぺらぼうと二口女

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昔々のこと。
いや、今の時代もなのだが……

まぁいいや。

二口女という物の怪があった。
一つは表に口があり。もう一つが後頭部に隠されている大きな口。

この物の怪は、現代に置いてもよく見かける。

よく喋り、よく食べるのだ。

女子という生き物を的確に取らているといえよう。

さて、そして今回登場するのは、のっぺらぼう。

何を隠そう私自身がその物の怪だ。

特徴を話そう。

朝、起きてから夜、寝るまで一度も表情が変わらない物の怪だ。顔がないから当然なのだが……

居るのか居ないのかもよく分からない。

そんな物の怪。だからよく驚かれる。

そうそう。彼等の生態で顕著なのは、24時間営業の万屋で買い物をする際に、店員の女子に手が触れられただけで、舞い上がるというものだ。

つくづく馬鹿だなとも思うが、こればかりは仕方がない。

あぁ、職場で事務のお姉さんに声を掛けられても舞い上がる。

ふむ、どうしようもないな。

まぁもっとも。

口がないので、頷くだけなのだが。

寂しいものだな。

さて、それでは彼等にまつわるエピソードを話そうと思う。





「のっぺらぼうと二口女」

いつものごとく勢いよく喋り出す二口女。

「ねぇねぇ。聞いた?総務の課長と磯崎さんのこと」

それに首を軽く左右に振るのっぺらぼう。その隙にお茶菓子を摘む二口女。

「不倫してるんだってウ・ワ・サ」

無表情だが内心はビックリしているのっぺらぼう。だが二口女には、そんなのっぺらぼうの心の中なんて見え見えだ。

「ねぇ、ビックリよねぇ。あ、そうそう。今度の水曜から有休で私、旅行行くんだー」

そのぐらいは知っていると、頷く口無し男。先ほどのお茶菓子がいつの間にやらなくなっている。次のお茶菓子の袋を開け始める二口女。

「ふっふっふー。どこ行くと思う?」

首をフリフリのっぺらぼう。やはりその隙にお茶菓子を口に放り込む二口女。

「パ・リ。おフランスに行・く・の」

頷くのっぺらぼう。やはり先ほど開けたばかりのお茶菓子が、もうなくなっている。喋るか食べるかどっちかにしろよと思うが、そこは二口女。二つを同時に行うのは、お手の物だ。

「あぁ。楽しみぃ。あっ! そうそう私ね。昨日、服買ったんだー」

頷くのっぺらぼう。

「それからね……」

ひたすら喋り、ひたすら食べる二口女、ひたすら頷くだけののっぺらぼう。

そして不意に

「ねぇ?聞いてるの?」

一瞬びっくりするが、心外だとばかりに眉間のあたりをひそめて頷くのっぺらぼう。

「ふーん。そう。あっそうだ! あのね……」

こうして二匹の妖怪の日々は過ぎていくのだった。
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