何か妖怪

新川キナ

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事故物件

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 俺はその日。不動産屋さん待ち合わせをして賃貸物件の内覧に来ていた。

「へー。この物件。こんなに良い条件なのに、ずいぶん安いんですね?」

 すると不動産屋さんの表情が曇った。

「あー。はい。その。実はですね。この物件。でるんですよぉ」
「でる?」
「えぇ。これが」

 手でオバケの仕草。そして続けて言った。

「大家さんもほとほと困ってましてね」
「へぇ」

 これってもしかしてラッキーかも。幽霊? 馬鹿馬鹿しい。いるかそんなもん!

 この時の俺はそんなことを考えていた。

「この部屋にします」





 引っ越しを全て終え、部屋で過ごす一日目。今のところ特に異変はなし。

「やっぱな。幽霊なんて居るわけ無いじゃん」

 そう言った瞬間。部屋でピシィという音が鳴り響く。

「おっ? 家鳴りか?」

 またピシィという音が鳴り響く。

「マジか?」

 でも、まぁこの程度なら問題ないかな? そう思っていた。

 その日の夜。
 夜中にふと目が覚める。

「っ!」

 体が動かない。金縛り? 動揺する俺は何とか体を動かそうと全身に力を込めるが、指先一つ動かせない。

 そして俺は、とうとう見てしまう。足元から這い上がってくる怒りの形相をしたお婆さんの姿を。

 その日はそこで気を失った。

 翌朝。

 全身汗だくで目が覚める。

「夢?」

 それにしては随分リアルで……

 そう思った時。またピシィと家が鳴った。

 俺は怖くなって、早々に学校に行く準備をして、その日は家に帰らず友人の家に泊めてもらった。

 とはいえ、いつまでも友人宅に居続けることは出来ない。

 三日目のお昼。

 恐る恐る。家に帰る。

 家に足を踏み入れた瞬間。

 また家が鳴った。

「勘弁してくれよ」

 俺は回れ右をして家を出て、そのまま友人に連絡をする。すると近所に有名な霊能者がいるから見てもらおう。という話になった。

 数時間後。さっそく来てくれた霊能者さんに心ばかりのお金を支払う。

「お願いします」

 霊能者さんに見てもらった結果。確かにお婆さんが部屋に居るという。

 なんでもここは私の家だから出て行けと言っているのだそうだ。

 執念が凄ぎて祓うのは難しい。早めに引っ越したほうが良いよ。というアドバイスを残し霊能者さんは帰っていった。

 仕方がないのでその日もまた、友人宅に泊めてもらう。

 しかしだんだん腹が立ってきた。

 幽霊なんて死んだ人間の残りカスだ。ここは生きている人間の住む世界だ。死んだ人間がいつまでも居続けることの方がが間違っているんだ。

 なんで生きている俺が遠慮して出て行かなきゃならないんだ?

 沸々と怒りがこみ上げてくる。

 そうだ。俺は間違っていない。家賃は俺が支払っているんだ。それなのに婆さんに部屋を占拠されている。

 ふざけんな。そうだ。あそこは俺の家だ。俺が家の主だ!

 四日目の早朝。

 自宅に足を踏み入れる。

 やはり家が鳴る。

 しかし俺は屈しない。それどころか俺の中で怒りが爆発する。

「クソババア。そんなに部屋を出て行って欲しけりゃ退去費払えや! 払わねぇ限りオレは出て行かねぇぞ!」

 俺が吠えたと同時に家が鳴る。

 しかし

「引越し費用がねえんだよ。学生舐めんな! ババアの方こそさっさと往生しろや! 俺はあんたが退去費用出すまで出て行かねえからな!」

 こうして俺と婆さんの霊との奇妙な同居が始まった。





 それから半年後……

 最近では、婆さんとコミュニケーションが取れるまでになった。

「婆さんお供えした飯、どうよ?」

 ピシィ(美味い!)  
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