ネクサスの結び目(短編)

うなぎ

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ガチ短編

お婆さんへのプレゼント

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「ここが噂の探し屋か。小奇麗じゃが小さい店じゃな。」
「なんで小さい店にしているのか、わかるか爺さん?」
「ほう、何か理由があるのか?小僧。」
「俺が依頼を断ると、暴れまわって店を散らかす奴がいるんでな。片づけがしやすいサイズにしてるんだよ。」
「なんじゃ、金が無いからでは無かったのか。」
「これでも結構繁盛してるんだぜ?昔は火の車でめちゃんこ大変だったけどな。で、今日はどんな依頼を持ってきたんだ?」
「もしかすると、これは色恋沙汰というやつになるのかもしれんがのう。」
「爺さん……出口は後ろにあるからな。」
「待たんかい!儂はただ、婆さんへの贈り物を一緒に見繕って欲しいだけなんじゃ。」
「なんか記念日でもあるのか?」
「結婚記念日が来週にまで迫ってきとるんじゃ。」
「そりゃめでたい。ちなみに、結婚してから何年経ったんだ?」
「かれこれ40年になる。」
「仲が良くて羨ましい限りだな。」
「ああ、婆さんは儂にべた惚れじゃからな。それで、どうかのう?依頼の方は受けてもらえそうか?」
「色恋沙汰と言っても既に関係ができてんなら話は別だ。できれば手伝ってやりたいが……。」
「なんじゃ小僧、歯切れが悪いのう。」
「ザイアの加護は、相手が欲しいものがわかるほど万能な加護じゃねえんだよな。だから多少の提案や推測はできても、人探しみてえに確実なことは言えねえぞ?」
「あくまで小僧の意見は参考にしろというわけじゃな。儂はそれでかまわん。」
「取引成立だな。ほんじゃ、まずは、今まで記念日に渡していた贈り物を教えてくれ。」
「それがのう……贈り物をするのは今回が初めてなんじゃ。」
「マジかよ、爺さん。……あっ、待てよ。そもそも今まではお互い記念日を祝ってなかったのか?」
「特に贈り物をし合った記憶は無いがのう。今思うと、料理が豪華な日が時々あったような?」
「マジかよ、爺さん。……それで、どうして急に結婚記念日を祝おうと思いたったんだ?」
「最近、婆さんの態度がよそよそしくなってしまってのう。きっと男ができてしまったんじゃああぁぁ。」
「マジかよ、婆さん。……って言いたいとこだが、それは大丈夫そうだな。あんたの婆さんに男の影はなさそうだ。つうか、爺さんが最初に言ってた通り……べた惚れだ。」
「しかしのう。どこかで働いとるようじゃし、家を出ていくつもりかもしれんぞ?」
「別に何か理由がありそうだが、とりあえず贈り物を探しに行きますかね。」
「よろしく頼むぞ、小僧。」

「儂の住む町まで戻って来てしまったが、お主はこっからどうするつもりなんじゃ?」
「とりあえず婆さんが良く行く店をあたろうと思う。そういった場所は店の従業員や品物との縁が深まっているはずだからな。普段買わないものに縁があったりすると、それが欲しいものである可能性が高い。」
「その方針で儂は問題無い。お手並み拝見じゃな。」
「ほんじゃあまずは、この肉屋だ。」
「ふむ……ここの店主より儂の方がイケメンじゃな!だから間違いなど起きるはずもない!」
「俺は肉屋の店主の方が好きだけどな。」
「なんじゃと!?」
「ところで、爺さんは牛が好きなのか?」
「どうしてわかるんじゃ?」
「なんとなく……。ちなみに、婆さんは何の肉が好きなんだ?」
「婆さんも牛じゃな。」
「ふーん。はい次、八百屋に行くぞ。」
「ふむ……ここの店主より儂の方がイケメンじゃな!だから間違いなど起きるはずもない!」
「……今のとこ肉屋が一番だな。爺さんは3番。」
「なんじゃと!?」
「ところで、爺さんは大根が好きなのか?」
「どうしてわかるんじゃ?」
「なんとなく……。ちなみに、婆さんはどんな野菜が好きなんだ?」
「婆さんも大根じゃな。」
「なんか色々と、わかっちまったような気がするぜ。最後は、この裁縫屋さんだ。」
「ふむ……ここの店主は……婆さんより可愛い!」
「おい。」
「見た目は若い子の方がいいに決まっとるじゃろ。婆さんの良さは中身にあるんじゃからな。お主だって年寄りは若い方がいいんじゃろ?」
「俺は……俺より年を食っている奴がいいけどな。ま、俺の話はおいておいて、爺さんに聞きたいことがあるんだがな。」
「どうした小僧。」
「爺さんが好きな服ってこれだよな?」
「どうしてわかるんじゃ?いい加減教えてくれい。」
「婆さんが欲しい物は全部、爺さんが欲しいものなんだよ。婆さん、爺さんのこと好きすぎだろ。」
「それは弱ったのう。プレゼントを送っても最終的には儂のものになりそうじゃ。」
「これはもうあれだな。直接聞いた方がよくねえか。」
「そんなこと、こっぱずかしくてできん!」
「俺が聞いて来てやろうか?依頼料もとらねえからさ。」
「依頼料は払うぞ。お主との旅はなかなかに楽しかったからな。だから……そのぅ……なんじゃ……聞いてきてもらえるか。」
「わかった。爺さんは広場で待っててくれ。」

「あらあら、まぁまぁ。お爺さんが私の為にプレゼントを?」
「ええ、何か欲しいものがあれば、教えていただけませんか。」
「そうですねぇ。それじゃあ、笑わないで欲しいのだけれど……。」
「……。」
「お爺さんと手を繋いでピクニックに行ってみたいわ。私達、今までデートらしいことをしたことが無かったから。」
「40年も一緒に暮らしていて、一度も行かれたことが無いのですか。」
「ええ、そうよ。旦那は有名な鍛冶師ですから、ついこの間までは昼夜を問わず働いていたんですよ。」
「ついこの間まで、ということは、引退されたんですか。」
「寄る年波には勝てず、最近は週に2日ほど休むようになったわね。」
「まだまだ現役のようですね。」
「貴方もそう思うでしょ?でもあの人ったら、体力が衰えていることを凄い気にしてるのよ。」
「奥様がこっそり働いていたのはそれが理由ですか。」
「あらあら、そんなこともわかるの?」
「ご安心ください。お爺さんには何も言っていません。」
「貴方が気が利く方で本当に良かったわ。お爺さんに内緒で樹具を作るために、自分で働いたお金で素材を買ったんですもの。どうせならこのまま、驚かせたいでしょう?」
「ええ、お爺さんの喜ぶ顔を早く見たいですね。では、そろそろ。お爺さんに貴方の希望を伝えてきますね。」
「よろしくお願いいたします。それと、お爺さんの相談にのってくださり、ありがとうございました。」

「あの小僧からお前の望みは聞いた。結婚記念日はピクニックに行くとしよう。」
「いいんですか?本当に?」
「ああ、別に構わん。」
「ありがとうございます。」
「……そう言えば、小僧に自分で聞けと言われたことがあってのう。どうして最近、家を留守にしておったんじゃ?」
「それはまだ……内緒です。ピクニックの時に、また聞いてくださいな。」
「そうか。では、その時にまた聞くとしよう。」
「ええ、そうしてくださいな。」
「そろそろ家に帰るとするか。ほら、手を出しなさい。」
「まだピクニックに行ってもいないのに、そんなことをしていいのかしら?」
「別に人目など気にすることなかろう。誰も儂らのことなど気にも留めん。」
「確かに、そうかもしれませんね。私達お爺ちゃんとお婆ちゃんですもの。」
「光陰矢の如しじゃな。」
「ええ。でも、これからは……ゆっくりとした時間を過ごせるかもしれませんね。」
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