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第14話 コーセーの推理②
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沈黙が5人を包んだ。間もなく沈もうしている太陽が真っ赤な光を放ち、第2多目的室を茜色に染めていた。
「なんでそうなるんだよ。言っただろ。俺は全く関係ないって。何か証拠でもあるのかよ」
牧玄弥は立ち上がり、やや怒鳴るようにして言った。
「牧先輩。あなたはヒマリから話を聞いたとき、こう言ったそうですね。
『それに、屋上には確か南京錠が掛かってただろう?あれじゃあ、行きたくても行けないよ』
どうして南京錠のことを知っていたんですか?南京錠は2枚目の扉にかけられています。つまり、1枚目の扉を鍵で開けないと、南京錠の存在を知ることは出来ないんですよ」
牧玄弥は唇を少し噛んだ。
「それは……ただの 言い間違いだ。それに、そもそも鍵はどうやって手に入れたっていうんだよ」
確かに、吉川先生のクラスではなかった牧玄弥が、吉川先生から鍵を盗むのは難しい。そもそも、屋上の鍵を吉川先生が持っていたことすら知らなかっただろう。しかし、牧玄弥が鍵を手に入れることは十分可能なのだ。
「あなたは野球部でしたよね。野球部なら職員室に部室の鍵を取りに行くことがあるんじゃないですか?吉川先生はいつも放課後に、屋上の鍵を職員室の壁に掛けています。部室の鍵と一緒に屋上の鍵をこっそり取ることは十分可能です。それに、部室の鍵を返す時に屋上の鍵も返してしまえば、吉川先生にもバレませんしね。マネージャーさんから聞きましたよ。4月16日土曜日の鍵当番を、後輩から代わってもらったと。土曜日なら校舎に生徒や先生も少ないし、屋上に行くには最適ですね」
牧玄弥は舌打ちをすると、席に座り直した。
「ああ、そうだよ。俺はその日に屋上に行った。でも、落書きの件は関係ない。俺が行ったときには、まだ落書きはなかった。屋上に行ったのを黙ってたのは、鍵を盗んだことをバレたくなかったからだ」
牧玄弥がそう言うと、吉川先生は項垂れた。「僕が知らない間に、1人どころか3人もの生徒に鍵を盗まれていたか……」という顔だ。少し気の毒に思う。
ヒマリの方を見ると、牧玄弥を睨みつけながら、なんとももどかしそうな顔をしていた。ヒマリの推理では、落書きが書かれた日は4月8日から4月22日のどこかということになっている。作者は月間文集が刊行される当日に落書きを書きに行ったのかもしれないのだ。4月16日に落書きが書かれていない可能性は大いにある。でも、……
「でも先輩、4月16日には落書きがあるはずなんですよ」
アカネが珍しく興奮気味に言った。
「どういうことよ」
僕はアカネに向かってにっこりと微笑んだ。
「岡田たちが屋上に行ったのを覚えているだろう?」
「岡田たち?」
アカネは困惑した表情を見せた。僕は頷いた。
「岡田たちが屋上に行ったのは、僕たちが屋上に行ったちょうど一ヶ月前、4月18日。岡田は南京錠の落書きを見たって言ってたよ。17日は日曜日でそもそも学校が開いてない。つまり、どんなに遅くても16日までには落書きが書かれているはずなんだ」
牧玄弥の方を見ると、彼は肩を落していた。降参のようだ。
「そうだ。あの小説も、落書きも、俺が書いたんだ」
窓の外を見ると、日は沈み始め、青黒い暗闇が迫っていた。冷たい風がカーテンの束を揺らした。薄闇の中を一匹のカラスが、カアと小さく鳴きながら寂しく飛んでいった。
「なんでそうなるんだよ。言っただろ。俺は全く関係ないって。何か証拠でもあるのかよ」
牧玄弥は立ち上がり、やや怒鳴るようにして言った。
「牧先輩。あなたはヒマリから話を聞いたとき、こう言ったそうですね。
『それに、屋上には確か南京錠が掛かってただろう?あれじゃあ、行きたくても行けないよ』
どうして南京錠のことを知っていたんですか?南京錠は2枚目の扉にかけられています。つまり、1枚目の扉を鍵で開けないと、南京錠の存在を知ることは出来ないんですよ」
牧玄弥は唇を少し噛んだ。
「それは……ただの 言い間違いだ。それに、そもそも鍵はどうやって手に入れたっていうんだよ」
確かに、吉川先生のクラスではなかった牧玄弥が、吉川先生から鍵を盗むのは難しい。そもそも、屋上の鍵を吉川先生が持っていたことすら知らなかっただろう。しかし、牧玄弥が鍵を手に入れることは十分可能なのだ。
「あなたは野球部でしたよね。野球部なら職員室に部室の鍵を取りに行くことがあるんじゃないですか?吉川先生はいつも放課後に、屋上の鍵を職員室の壁に掛けています。部室の鍵と一緒に屋上の鍵をこっそり取ることは十分可能です。それに、部室の鍵を返す時に屋上の鍵も返してしまえば、吉川先生にもバレませんしね。マネージャーさんから聞きましたよ。4月16日土曜日の鍵当番を、後輩から代わってもらったと。土曜日なら校舎に生徒や先生も少ないし、屋上に行くには最適ですね」
牧玄弥は舌打ちをすると、席に座り直した。
「ああ、そうだよ。俺はその日に屋上に行った。でも、落書きの件は関係ない。俺が行ったときには、まだ落書きはなかった。屋上に行ったのを黙ってたのは、鍵を盗んだことをバレたくなかったからだ」
牧玄弥がそう言うと、吉川先生は項垂れた。「僕が知らない間に、1人どころか3人もの生徒に鍵を盗まれていたか……」という顔だ。少し気の毒に思う。
ヒマリの方を見ると、牧玄弥を睨みつけながら、なんとももどかしそうな顔をしていた。ヒマリの推理では、落書きが書かれた日は4月8日から4月22日のどこかということになっている。作者は月間文集が刊行される当日に落書きを書きに行ったのかもしれないのだ。4月16日に落書きが書かれていない可能性は大いにある。でも、……
「でも先輩、4月16日には落書きがあるはずなんですよ」
アカネが珍しく興奮気味に言った。
「どういうことよ」
僕はアカネに向かってにっこりと微笑んだ。
「岡田たちが屋上に行ったのを覚えているだろう?」
「岡田たち?」
アカネは困惑した表情を見せた。僕は頷いた。
「岡田たちが屋上に行ったのは、僕たちが屋上に行ったちょうど一ヶ月前、4月18日。岡田は南京錠の落書きを見たって言ってたよ。17日は日曜日でそもそも学校が開いてない。つまり、どんなに遅くても16日までには落書きが書かれているはずなんだ」
牧玄弥の方を見ると、彼は肩を落していた。降参のようだ。
「そうだ。あの小説も、落書きも、俺が書いたんだ」
窓の外を見ると、日は沈み始め、青黒い暗闇が迫っていた。冷たい風がカーテンの束を揺らした。薄闇の中を一匹のカラスが、カアと小さく鳴きながら寂しく飛んでいった。
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