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第9話 屋上の恋心
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3月11日、2年1組で事件が起こった。島﨑真白が屋上で、山口裕也に告白をしたのである。
山口裕也が女子に告白されるのは決して珍しいことではなかった。むしろ、よくあることだった。島﨑真白は2月半ばのある日の放課後、山口裕也を屋上に呼んだ。屋上の鍵は、授業後、担任の吉川先生の机から取っておいた。南京錠を見たときは焦ったが、よく考えればパスワードはあれしかない。
彼女が前方に見える野球場を眺めながら物置の前で待っていると、扉が開く音とともに彼が現れた。そして、茜色の空のもと、島﨑真白は山口裕也に告白した。
山口裕也からの返事はなかった。代わりに「待って」という声が聞こえた。クラスメイトの遠藤さんだった。彼女は屋上の扉の前で山口裕也に告白した。彼の足は彼女の方へ向かった。扉の向こうには数名のクラスメイトの女子たちがいた。島﨑真白は、自分の告白が、彼女の告白の踏み台として利用されていたことを知った。
その日から、島﨑真白は嘲笑の的となった。嘲笑はいたずらに変わり、そしていじめになった。ある日、彼女が登校すると、教室に自分の席がなかった。どうして自分がこんな目に会わなければならないのか、彼女には理解出来なかった。私が何をしたというのだろう。島﨑真白の瞳は徐々に明るさを失っていった。
しかし、いじめは長くは続かなかった。吉川先生がいじめに気づき、いじめっ子たちに注意をしたからだ。残りわずかだった3学期も終わり、新しいクラスになると、彼女に親しくする者も現れた。彼女の瞳は徐々に明るさを取り戻していった。
「姉は、いじめられていたんですか」
ヒマリは震える声で言った。
「いじめている当人たちの感覚では、いじめというよりイタズラだったみたいだけどね。実際、クラスが変わっただけでいじめは自然消滅したし。でも、島﨑さんにとってはかなり辛いことだったということは確かだと思うよ」
マネージャーは少し下を向いた。気づけば、第2多目的室は随分暗くなっていた。校庭のカラスの鳴き声が聞こえた。
「とはいえ、いじめが自殺の直接の原因になったとは考えにくい。なぜなら、3年生になってからのマシロ先輩は、新しいクラスメイトとそれなりにうまくやっていたのだから。自殺するなら3年生になる前にしているはず。そうですよね?」
私がマネージャーの顔を見ると、彼女は小さく頷いた。それに、2週間のいじめで自殺するほど追い込まれるとは思えない。死ぬほど辛いのは確かだが。
「島﨑さんが自殺したとき、いじめていた子たちはずいぶん慌ててた。自分たちのせいじゃないかって。でも、それは違うってすぐに分かった。自殺する前、島﨑さんは遠藤さんと仲良く遊んでいたらしいのよ。その時、遠藤さんが島﨑さんにいじめのことについて聞いたらね、こういったらしいのよ。『いじめのことはもう全然気にしてない。今はクラスの子とうまくやれてるし。だから、遠藤さんも気にしないで。それよりも、遠藤さんともっと仲良くなりたいの。また遊びに誘っていい?』って。だから、なんで自殺したのか、全然分からなくて……」
確かに、自殺の原因は依然として分からない。しかし、分かったこともある。小説のタイトルだ。『屋上の恋を乗り越えて』。「屋上の恋」とはこれのことだったのか。
第2文化室は静寂に包まれた。窓の外を見ると、空はすっかり暗くなっていた。冷たい風がカーテンを揺らした。遠くで、一羽のカラスが寂しく鳴いた。
山口裕也が女子に告白されるのは決して珍しいことではなかった。むしろ、よくあることだった。島﨑真白は2月半ばのある日の放課後、山口裕也を屋上に呼んだ。屋上の鍵は、授業後、担任の吉川先生の机から取っておいた。南京錠を見たときは焦ったが、よく考えればパスワードはあれしかない。
彼女が前方に見える野球場を眺めながら物置の前で待っていると、扉が開く音とともに彼が現れた。そして、茜色の空のもと、島﨑真白は山口裕也に告白した。
山口裕也からの返事はなかった。代わりに「待って」という声が聞こえた。クラスメイトの遠藤さんだった。彼女は屋上の扉の前で山口裕也に告白した。彼の足は彼女の方へ向かった。扉の向こうには数名のクラスメイトの女子たちがいた。島﨑真白は、自分の告白が、彼女の告白の踏み台として利用されていたことを知った。
その日から、島﨑真白は嘲笑の的となった。嘲笑はいたずらに変わり、そしていじめになった。ある日、彼女が登校すると、教室に自分の席がなかった。どうして自分がこんな目に会わなければならないのか、彼女には理解出来なかった。私が何をしたというのだろう。島﨑真白の瞳は徐々に明るさを失っていった。
しかし、いじめは長くは続かなかった。吉川先生がいじめに気づき、いじめっ子たちに注意をしたからだ。残りわずかだった3学期も終わり、新しいクラスになると、彼女に親しくする者も現れた。彼女の瞳は徐々に明るさを取り戻していった。
「姉は、いじめられていたんですか」
ヒマリは震える声で言った。
「いじめている当人たちの感覚では、いじめというよりイタズラだったみたいだけどね。実際、クラスが変わっただけでいじめは自然消滅したし。でも、島﨑さんにとってはかなり辛いことだったということは確かだと思うよ」
マネージャーは少し下を向いた。気づけば、第2多目的室は随分暗くなっていた。校庭のカラスの鳴き声が聞こえた。
「とはいえ、いじめが自殺の直接の原因になったとは考えにくい。なぜなら、3年生になってからのマシロ先輩は、新しいクラスメイトとそれなりにうまくやっていたのだから。自殺するなら3年生になる前にしているはず。そうですよね?」
私がマネージャーの顔を見ると、彼女は小さく頷いた。それに、2週間のいじめで自殺するほど追い込まれるとは思えない。死ぬほど辛いのは確かだが。
「島﨑さんが自殺したとき、いじめていた子たちはずいぶん慌ててた。自分たちのせいじゃないかって。でも、それは違うってすぐに分かった。自殺する前、島﨑さんは遠藤さんと仲良く遊んでいたらしいのよ。その時、遠藤さんが島﨑さんにいじめのことについて聞いたらね、こういったらしいのよ。『いじめのことはもう全然気にしてない。今はクラスの子とうまくやれてるし。だから、遠藤さんも気にしないで。それよりも、遠藤さんともっと仲良くなりたいの。また遊びに誘っていい?』って。だから、なんで自殺したのか、全然分からなくて……」
確かに、自殺の原因は依然として分からない。しかし、分かったこともある。小説のタイトルだ。『屋上の恋を乗り越えて』。「屋上の恋」とはこれのことだったのか。
第2文化室は静寂に包まれた。窓の外を見ると、空はすっかり暗くなっていた。冷たい風がカーテンを揺らした。遠くで、一羽のカラスが寂しく鳴いた。
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