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第4話 遠くから貴方を見ている
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『屋上の恋を乗り越えて』は平凡な恋愛小説だった。
主人公の女子高生は、野球部のキャプテンに恋をしているが、内気な彼女はなかなか彼に近づくことが出来ない。
ある日、彼女は屋上にこっそり忍込み、貯水槽の側から野球場がよく見えることを発見する。彼女は毎日屋上に忍び込み、野球部が練習している様子を眺めるようになる。
しかし、野球部で幼馴染の男の子に、屋上にいるのを見つかってしまい、貯水槽にこっそり書いていた落書きから、彼女の恋心まで知られてしまう。
幼馴染は彼女の秘密を決して口外しない約束し、恋愛相談に乗るという口実で、屋上の彼女のもとに通うようになる。
そして、彼女と幼馴染の仲は次第に深まっていき、お互いのことを意識し始める。そして、二人は遂に結ばれ、貯水槽に二人の名前を刻んだ。
そんなストーリーだ。
この小説の最後にはこんな言葉が添えられている。
「遠くから見ているだけでは、伝わらない気持ちがある。しかし、臆病な私は、貴方のもとに行くことが出来ない。貴方は私に優しくしてくれたのに、私は貴方に話しかけに行くことすら出来ないのです。どうか貴方の方から屋上に来てくれませんか? 私の気持ちはそこにあります」
「なんかこう、読んでると背中がむず痒くなってくるわね」
アカネが渋い顔をした。以前、少女漫画ほど嫌いなものはないと言っていたのを思い出した。
「屋上にマシロ先輩からのメッセージがあるってことかな? 一体どんなメッセージなんだろう? 貯水槽にマシロ先輩が好きだった人の名前が刻まれてるのかな?」
「さあね。誰かの悪口とか書いてたら面白いんだけど」
いかにも退屈そうな顔を浮かべているアカネをよそに、ヒマリは眼を輝かせながら言った。
「何にせよ、重要なものに違いないです。とにかく、屋上に行ってみましょう!」
ヒマリは勢いよく席から立つと、教室を飛び出していった。僕とアカネは顔を見合わせ、ヒマリの後を追った。
僕たち3人は、職員室に向かった。職員室に着くと、鍵を借りに来たのだろう、職員室から出てきた野球部員とすれ違った。「失礼します」と言って入室すると、ヨッシーこと吉川先生がベテランの先生から何か注意を受けているようだった。吉川先生は、緑色の眼鏡のブリッジを触りながら、気まずそうにしていた。
「あの、吉川先生。屋上の鍵を貸してほしいのですが」
僕が頼むと、吉川先生は困った顔をした。
「えっ、屋上? いや、その、屋上はちょっと…」
僕の後ろから、ヒマリが飛び出してきた。ヒマリは拳を握りしめながら叫んだ。
「先生、お願いします! 私、どうしても屋上に行かなくてはいけないんです!」
ヒマリが訳を話すと、吉川先生は頭を掻きながら、
「そうは言ってもねぇ……この前生徒に、屋上に侵入されて、こっぴどく叱られた後だっていうのに、また生徒を屋上に入れるのはなぁ……それに、屋上には何もないと思うよ。僕、屋上の掃除当番なんだけど、それらしいものは見たことはないし」
ヒマリが肩を落としていると、ベテランの先生が、
「そういえば吉川君。今月の掃除は済んだのか?」
「えっ、いや、まだですけど……」
ヒマリが目を輝かせた。
「先生! 私たち手伝います!」
吉川先生は驚いたような表情をした。アカネは「えっ、私『たち』てことは……」と露骨に嫌そうな顔をした。
ヒマリの発言を聞いて、ベテランの先生は満足そうに言った。
「よかったじゃないか吉川君。島﨑さん、掃除頼んだぞ。それと、君たちは……文芸部か。そうか、文芸部には顧問がいないと思っていたが、吉川君が顧問だったのか。それじゃあ、文芸部も頼んだぞ。」
「あっ、いや、僕は顧問じゃ……」
ベテランの先生は吉川先生を顧みず去ってしまった。肩を落とす吉川先生を見て、僕とアカネは顔を見合わせた。
「顧問も見つかったわね」
「だね」
吉川先生はしょんぼりしながら、職員室の壁に掛けられた屋上の鍵をとった。
主人公の女子高生は、野球部のキャプテンに恋をしているが、内気な彼女はなかなか彼に近づくことが出来ない。
ある日、彼女は屋上にこっそり忍込み、貯水槽の側から野球場がよく見えることを発見する。彼女は毎日屋上に忍び込み、野球部が練習している様子を眺めるようになる。
しかし、野球部で幼馴染の男の子に、屋上にいるのを見つかってしまい、貯水槽にこっそり書いていた落書きから、彼女の恋心まで知られてしまう。
幼馴染は彼女の秘密を決して口外しない約束し、恋愛相談に乗るという口実で、屋上の彼女のもとに通うようになる。
そして、彼女と幼馴染の仲は次第に深まっていき、お互いのことを意識し始める。そして、二人は遂に結ばれ、貯水槽に二人の名前を刻んだ。
そんなストーリーだ。
この小説の最後にはこんな言葉が添えられている。
「遠くから見ているだけでは、伝わらない気持ちがある。しかし、臆病な私は、貴方のもとに行くことが出来ない。貴方は私に優しくしてくれたのに、私は貴方に話しかけに行くことすら出来ないのです。どうか貴方の方から屋上に来てくれませんか? 私の気持ちはそこにあります」
「なんかこう、読んでると背中がむず痒くなってくるわね」
アカネが渋い顔をした。以前、少女漫画ほど嫌いなものはないと言っていたのを思い出した。
「屋上にマシロ先輩からのメッセージがあるってことかな? 一体どんなメッセージなんだろう? 貯水槽にマシロ先輩が好きだった人の名前が刻まれてるのかな?」
「さあね。誰かの悪口とか書いてたら面白いんだけど」
いかにも退屈そうな顔を浮かべているアカネをよそに、ヒマリは眼を輝かせながら言った。
「何にせよ、重要なものに違いないです。とにかく、屋上に行ってみましょう!」
ヒマリは勢いよく席から立つと、教室を飛び出していった。僕とアカネは顔を見合わせ、ヒマリの後を追った。
僕たち3人は、職員室に向かった。職員室に着くと、鍵を借りに来たのだろう、職員室から出てきた野球部員とすれ違った。「失礼します」と言って入室すると、ヨッシーこと吉川先生がベテランの先生から何か注意を受けているようだった。吉川先生は、緑色の眼鏡のブリッジを触りながら、気まずそうにしていた。
「あの、吉川先生。屋上の鍵を貸してほしいのですが」
僕が頼むと、吉川先生は困った顔をした。
「えっ、屋上? いや、その、屋上はちょっと…」
僕の後ろから、ヒマリが飛び出してきた。ヒマリは拳を握りしめながら叫んだ。
「先生、お願いします! 私、どうしても屋上に行かなくてはいけないんです!」
ヒマリが訳を話すと、吉川先生は頭を掻きながら、
「そうは言ってもねぇ……この前生徒に、屋上に侵入されて、こっぴどく叱られた後だっていうのに、また生徒を屋上に入れるのはなぁ……それに、屋上には何もないと思うよ。僕、屋上の掃除当番なんだけど、それらしいものは見たことはないし」
ヒマリが肩を落としていると、ベテランの先生が、
「そういえば吉川君。今月の掃除は済んだのか?」
「えっ、いや、まだですけど……」
ヒマリが目を輝かせた。
「先生! 私たち手伝います!」
吉川先生は驚いたような表情をした。アカネは「えっ、私『たち』てことは……」と露骨に嫌そうな顔をした。
ヒマリの発言を聞いて、ベテランの先生は満足そうに言った。
「よかったじゃないか吉川君。島﨑さん、掃除頼んだぞ。それと、君たちは……文芸部か。そうか、文芸部には顧問がいないと思っていたが、吉川君が顧問だったのか。それじゃあ、文芸部も頼んだぞ。」
「あっ、いや、僕は顧問じゃ……」
ベテランの先生は吉川先生を顧みず去ってしまった。肩を落とす吉川先生を見て、僕とアカネは顔を見合わせた。
「顧問も見つかったわね」
「だね」
吉川先生はしょんぼりしながら、職員室の壁に掛けられた屋上の鍵をとった。
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