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第3話 屋上侵入計画
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第2多目的室にやって来た客は、小柄で長い髪をポニーテールにした女の子だった。あどけない顔をしていたが、少し釣り上がった眼からは強い意志のようなものを感じることが出来る。背筋はピンとしていて、いかにも優等生という感じだ。
僕は彼女に席に座るよう促した。彼女は扉の前の席に腰をおろした。
「僕は原田康青。クラスは2年2組。こっちは……」
「中村茜。同じく2年2組」
アカネが頬杖をつきながら、小さく手を挙げた。
「私、1年3組の島﨑向葵です。ここは文芸部ですよね。あの、確認なんですけど、文芸部って何をするところなんですか? 部活紹介の冊子を見たら、活動目的のところが空欄になってて……」
僕とアカネは顔を見合わせた。
「文芸部の活動目的は、屋上に侵入することよ」
僕は本の背表紙でアカネの頭を軽く叩いた。初対面の後輩を困らせるな。案の定、ヒマリは眉をハの字にして困っている。
「実は今、活動目的がないせいで、文芸部が廃部になりかけてるんだ」
ヒマリは不思議そうな顔をした。
「じゃあ、先輩方はいつも何をしているんですか?」
「何をって……」
僕がアカネの顔を見ようとすると、アカネは顔をそらした。冗談は言うくせに、具合が悪いことがあるとすぐに顔をそらす。
「僕はこの通り、放課後にいつも本を読んでる。アカネは……何してるんだろう」
「さあね」
アカネは髪先を触りながら、拗ねたように言った。アカネは、僕以外の人間と話すときはだいたい無愛想だ。本人曰く、無駄に人と関わりたくない、だそうだ。だから友達がいないんだが。
「その、文集とか作ってないんですか?」
「文集?」
確かに、文芸部の活動として文集は定番どころだ。僕は、教室の隅ある、青い地球儀と空の花瓶を上に乗せた棚に目をやった。
「月刊文集ならあるよ。小説や詩なんかを原稿用紙に書いて、生徒会室の前にあ箱に提出すると、毎月発刊する月刊文集に載せてくれるんだ。まあ、ほとんどの部員が提出してないけど」
「そうですか」
太陽が雲から顔を出し、強い夕陽がヒマリの顔を黄色に染めた。窓から涼しい風が吹き、彼女の前髪を揺らした。ずっと顔を横に向けていたアカネが、ヒマリの方を向き、彼女の眼をじっと見つめながら尋ねた。
「ていうか、貴女、なんでこんな活動目的も分からないようなところに入ろうと思ったのよ。もっとマシな部活あったでしょう?例えば……昼寝部とか」
それはアカネが入りたい部活だろう。というか、そんな部活は存在しない。
ヒマリは決まり悪そうに俯いた。ギターの音が止まり、窓を打つ風の音だけが教室に響いた。
「あの、私の姉、島﨑真白のことはご存知ですか?」
「マシロ先輩って、確か去年まで文芸部にいた人だよね? ほとんど会ったことないけど」
アカネの方を見ると、彼女は小さく頷いた。
するとヒマリは立ち上がり、両手の拳をギュッと握りしめながら叫んだ。
「私、自殺した姉に頼まれて来たんです!」
「自殺!?」
僕とアカネは思わず叫んだ。ヒマリは当惑した様子で、
「えっ、先輩方知らないんですか? 姉は、5月7日に自殺したんです。一週間前から、学校中で話題になってるはずなんですけど……ご友人から聞いたりしなかったんですか?」
僕とアカネは顔を見合わせた。アカネは拗ねたような言い方で、
「学校中の話題なんて知るか」
僕は苦笑いをするしかなかった。
「それで、マシロ先輩から何を頼まれたの?」
「ある人にメッセージを伝えるよう頼まれたんです」
そう言って、ヒマリはマシロ先輩の遺書を見せた。
「ある人って、私たち以外の誰かってことよね?」
そうだ。しかし、アカネ先輩の知り合いで、僕とアカネが知っている人なんていただろうか?
「この教室に何かヒントがあるんでしょうか?」
「そうは言っても、この文芸部にあるものなんて月刊文集ぐらいしか……」
僕は立ち上がり、棚から月刊文集の4月号を取り出した。文集を机の上に置き、目次のページを開くと、アカネとヒマリが覗き込んできた。
「マシロ先輩の作品はあるかな……」
アカネがマシロ先輩の名前を見つけて指さした。
「ほら。やっぱり屋上じゃない」
島﨑真白の名前の下には作品名が書かれていた。作品名は、『屋上の恋を乗り越えて』だった。
僕は彼女に席に座るよう促した。彼女は扉の前の席に腰をおろした。
「僕は原田康青。クラスは2年2組。こっちは……」
「中村茜。同じく2年2組」
アカネが頬杖をつきながら、小さく手を挙げた。
「私、1年3組の島﨑向葵です。ここは文芸部ですよね。あの、確認なんですけど、文芸部って何をするところなんですか? 部活紹介の冊子を見たら、活動目的のところが空欄になってて……」
僕とアカネは顔を見合わせた。
「文芸部の活動目的は、屋上に侵入することよ」
僕は本の背表紙でアカネの頭を軽く叩いた。初対面の後輩を困らせるな。案の定、ヒマリは眉をハの字にして困っている。
「実は今、活動目的がないせいで、文芸部が廃部になりかけてるんだ」
ヒマリは不思議そうな顔をした。
「じゃあ、先輩方はいつも何をしているんですか?」
「何をって……」
僕がアカネの顔を見ようとすると、アカネは顔をそらした。冗談は言うくせに、具合が悪いことがあるとすぐに顔をそらす。
「僕はこの通り、放課後にいつも本を読んでる。アカネは……何してるんだろう」
「さあね」
アカネは髪先を触りながら、拗ねたように言った。アカネは、僕以外の人間と話すときはだいたい無愛想だ。本人曰く、無駄に人と関わりたくない、だそうだ。だから友達がいないんだが。
「その、文集とか作ってないんですか?」
「文集?」
確かに、文芸部の活動として文集は定番どころだ。僕は、教室の隅ある、青い地球儀と空の花瓶を上に乗せた棚に目をやった。
「月刊文集ならあるよ。小説や詩なんかを原稿用紙に書いて、生徒会室の前にあ箱に提出すると、毎月発刊する月刊文集に載せてくれるんだ。まあ、ほとんどの部員が提出してないけど」
「そうですか」
太陽が雲から顔を出し、強い夕陽がヒマリの顔を黄色に染めた。窓から涼しい風が吹き、彼女の前髪を揺らした。ずっと顔を横に向けていたアカネが、ヒマリの方を向き、彼女の眼をじっと見つめながら尋ねた。
「ていうか、貴女、なんでこんな活動目的も分からないようなところに入ろうと思ったのよ。もっとマシな部活あったでしょう?例えば……昼寝部とか」
それはアカネが入りたい部活だろう。というか、そんな部活は存在しない。
ヒマリは決まり悪そうに俯いた。ギターの音が止まり、窓を打つ風の音だけが教室に響いた。
「あの、私の姉、島﨑真白のことはご存知ですか?」
「マシロ先輩って、確か去年まで文芸部にいた人だよね? ほとんど会ったことないけど」
アカネの方を見ると、彼女は小さく頷いた。
するとヒマリは立ち上がり、両手の拳をギュッと握りしめながら叫んだ。
「私、自殺した姉に頼まれて来たんです!」
「自殺!?」
僕とアカネは思わず叫んだ。ヒマリは当惑した様子で、
「えっ、先輩方知らないんですか? 姉は、5月7日に自殺したんです。一週間前から、学校中で話題になってるはずなんですけど……ご友人から聞いたりしなかったんですか?」
僕とアカネは顔を見合わせた。アカネは拗ねたような言い方で、
「学校中の話題なんて知るか」
僕は苦笑いをするしかなかった。
「それで、マシロ先輩から何を頼まれたの?」
「ある人にメッセージを伝えるよう頼まれたんです」
そう言って、ヒマリはマシロ先輩の遺書を見せた。
「ある人って、私たち以外の誰かってことよね?」
そうだ。しかし、アカネ先輩の知り合いで、僕とアカネが知っている人なんていただろうか?
「この教室に何かヒントがあるんでしょうか?」
「そうは言っても、この文芸部にあるものなんて月刊文集ぐらいしか……」
僕は立ち上がり、棚から月刊文集の4月号を取り出した。文集を机の上に置き、目次のページを開くと、アカネとヒマリが覗き込んできた。
「マシロ先輩の作品はあるかな……」
アカネがマシロ先輩の名前を見つけて指さした。
「ほら。やっぱり屋上じゃない」
島﨑真白の名前の下には作品名が書かれていた。作品名は、『屋上の恋を乗り越えて』だった。
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