上 下
5 / 19

第5話 茜色の恋

しおりを挟む
 新幹線に乗り、座席に座るや否や、コーセーさんは寝てしまった。
「昨日の夜の10時まで塾だったんだと。寝かせておいてあげましょ」
 そう言ってアカネちゃんはコーセーさんの頭をそっと撫でた。とても優しそうな目で、愛しそうにコーセーさんを見ている。
「ところでヒマリ、貴女、コーセーとはうまくやってる?」
 コーセーさんと? どうだろうなぁ。
「うーん……まあ、ぼちぼちという感じかな」
 そう、ぼちぼちなのだ。別に仲が悪いわけではない。だが、どうしても距離を感じてしまう。アカネちゃんとほとんど同級生のように仲がいいから尚更だ。
「なんというか、まだあんまりコーセーさんがどんな人か、分かってないんだよね。だから距離を感じるのかな? アカネちゃんから見て、コーセーさんってどんな人なの?」
 アカネちゃんは少し考えて、
「多分ね、コーセー自身、自分がどんな人間か、分かってないのよ」
 「自分がどんな人間か分かっていない」? どういうことだろう?
「コイツ、昔っから兄貴と比べられてばっかなのよ。ほら、前に牧先輩と話したときに少し話題にあがったでしょ?」
 ああ、そういえばそうだった。確か名前は進さんだったか。
「県内随一の進学校であるこの高校で学年一位を3年間キープしている秀才。コーセーの話によると大学は医学部を志望しているらしいわ。親も医者で、いかにもって感じでしょ? ただ、コーセーはそんなに優秀じゃなかった。別に落ちぶれてはいないんだけど。まあ平均ってところね」
 落ちぶれているどころか、彩雅高校で平均的な学力ということは、一般的に見ればかなり優秀だ。
「親がコーセーのこと見捨てるとか、学校でいじめにあってるとか、そうのじゃないのよ。ただ、コーセーは優秀過ぎる兄貴と自分を比べて、自分は大した人間じゃないって、そうやって、諦めちゃってるのよ」
 確かに、それほど優秀な兄がいれば、常に自分と比較してネガティブな気持ちを抱いてもおかしくはないかもしれない。私とお姉ちゃんの場合は、どちらかというと私のほうが成績はよかったのだが、お姉ちゃんは私のこと、どう思っていたのだろう?
「だから、自分なんか何をやっても無意味だ、みたいに思ってる節があって……それで、『これが好きだからやりたい』みたいな意欲がすっかりなくなっちゃってるのよ」
 なるほど。だから、「自分がどういう人間か分かってない」のか。そりゃあ私も、コーセーさんがどんな人か分からないわけだ。
「本当は勉強も嫌になってもおかしくないんだけど、『塾に行かせてもらえるだけ幸せだよ』って言って、ちゃんと塾行ってるんだから、コーセーもたいがいバカ真面目よね。まあきっと、『反抗なんて、くだらない』って思ってるんでしょうね」
 そう言って、アカネちゃんはもう一度コーセーさんの頭を撫でた。
「何か好きなこととか、見つけられるといいんだろうけどね……」
 私がそう言うと、アカネちゃんは静かに頷いた。
「好きなこと見つけたらきっと、コーセーは今のコーセーとは違う、別のコーセーになっちゃうんだろうな。前はそれが嫌だった。いつまでも、ドライでクールな人でいてほしかった。でもいまは、どんなコーセーであっても、ちゃんと理解してあげたいと思ってる。コーセーが私と足並みを合わせてくれたみたいに、私もコーセーの行くところにどこまでもついていきたいと思ってる。コーセーのことが好きだから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

量子幽霊の密室:五感操作トリックと魂の転写

葉羽
ミステリー
幼馴染の彩由美と共に平凡な高校生活を送る天才高校生、神藤葉羽。ある日、町外れの幽霊屋敷で起きた不可能殺人事件に巻き込まれる。密室状態の自室で発見された屋敷の主。屋敷全体、そして敷地全体という三重の密室。警察も匙を投げる中、葉羽は鋭い洞察力と論理的思考で事件の真相に迫る。だが、屋敷に隠された恐ろしい秘密と、五感を操る悪魔のトリックが、葉羽と彩由美を想像を絶する恐怖へと陥れる。量子力学の闇に潜む真犯人の正体とは?そして、幽霊屋敷に響く謎の声の正体は?すべての謎が解き明かされる時、驚愕の真実が二人を待ち受ける。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった昔話

ライト文芸
弁護士の三国英凜は、一本の電話をきっかけに古びた週刊誌の記事に目を通す。その記事には、群青という不良チームのこと、そしてそのリーダーであった桜井昴夜が人を殺したことについて書かれていた。仕事へ向かいながら、英凜はその過去に思いを馳せる。 2006年当時、英凜は、ある障害を疑われ“療養”のために祖母の家に暮らしていた。そんな英凜は、ひょんなことから問題児2人組・桜井昴夜と雲雀侑生と仲良くなってしまい、不良の抗争に巻き込まれ、トラブルに首を突っ込まされ──”群青(ブルー・フロック)”の仲間入りをした。病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった、今はもうない群青の昔話。

旧・透明少女(『文芸部』シリーズ)

Aoi
ライト文芸
 自殺した姉マシロの遺書を頼りに、ヒマリは文芸部を訪れる。自殺前に姉が書いたとされる小説『屋上の恋を乗り越えて』には、次のような言葉があった。 「どうか貴方の方から屋上に来てくれませんか? 私の気持ちはそこにあります」  3人が屋上を訪れると、そこには彼女が死ぬ前に残した、ある意外な人物へのメッセージがあった……  恋と友情に少しばかりの推理を添えた青春現代ノベル『文芸部』シリーズ第一弾!

【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。

千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。 風月学園女子寮。 私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…! R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。 おすすめする人 ・百合/GL/ガールズラブが好きな人 ・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人 ・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人 ※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。 ※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)

処理中です...