『サイコー新聞部』シリーズ

Aoi

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Ⅲ. 光の方へ

episode3 事情聴取

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 僕が生徒会室の扉を開けると、そこには3人の生徒がいた。全員1年生。ヒマリと一緒にいる時に挨拶したぐらいでほとんど関わりはない。さて、素直に「貴方あなたたちを疑っています」とは言えまい。どう説明したものか……
「突然ごめんね。ヒマリを探してるんだけど、知らないかな?」
「会長なら部室に行かれましたよ」
 眼鏡の生真面目そうな女子が答える。名前はたしか、早川千尋さん、だったか。
「そうか、すれ違っちゃったか。教えてくれてありがとう、早川さん」
「いえ」
 僕は帰る素振りを見せた後、いかにも何か思い出したような仕草を見せた。我ながら中々の役者だ。
「そういえば、ヒマリが皆に嫌われてないか気にしてたよ。最近、文化祭の準備で忙しいんだろう? 一年生なのに仕事振りすぎちゃって、それでパンクさせてないか心配してるみたいなんだ」
 僕がそう言うと、二人の男子生徒が否定する。
「そんなことないっすよ。むしろ会長が仕事抱えすぎてないか心配してるぐらいっすから。なっ、隅田すみだ?」
清水しみずの言う通りです。会長は真面目だし仕事が早いから、いつの間にか僕たちの仕事がなくなってるんですよ」
 がたいのいい清水くんと細身の隅田くん。容姿は対照的だが、見る感じ仲がいいらしい。
「別にお世辞を言わなくてもいいんだよ。ヒマリは僕の妹みたいなもんだし、文句の一つくらい、代わりに言ってあげられるよ」
 僕が冗談っぽく言うと、早川さんが口を開いた。
「強いて挙げるとすれば、会長とシオンの仲は見ていてモヤモヤ、というかイライラします」
 僕は思わず苦笑いした。たしかに、片思いをしている男子と想いを寄せられている女子が同じ空間にいるというのは、さぞかし気まずいことだろう。
「前の会長と副会長も同じだったらしいっすよ」
「どういうこと?」
 僕がたずねると、清水くんが親切に答える。
「聞いた話によると、前副会長の宮田先輩は前会長の藤原先輩に片思いしてたらしいんすよ。でも結局告白はせず卒業。藤原先輩は大学進学し、宮田先輩は浪人生。今頃、告白しときゃよかったって思ってるんじゃないっすかね」
 どうやら藤原先輩も片思いの対象だったみたいだ。まあ、藤原先輩は高嶺たかねの花だし、告白を躊躇ちゅうちょするのは分かる。しかし、生徒会室で2件の片思いが発生するとは、ここはお見合い会場か何かだろうか……
「まあ、なんだかんだ言って、皆シオンを応援してるんですよ。ただ会長って、なんていうか恋愛に興味なさそうっていうか、失礼ですけど、六法全書が恋人とか言いそうな感じがして……なかなか手強そうですよね」
 僕はまたまた苦笑いする。六法全書が恋人とは、ここでのヒマリはやはり優等生モードらしい。部室でアカネと持ち込み禁止の漫画を読みながら非現実的な展開にケチをつけあっているヒマリの姿を見たら、この3人はきっと目を丸くして立ち尽くすことだろう。
「私は応援してませんよ。まあ、別に反対もしてませんが。ただ、付き合うならさっさと付き合ってくれと思うだけです」
「早川は相変わらずだな……」
 早川さんは眼鏡のブリッジを触った。どうやらあくまで中立的な立場を貫きたいようだ。
「とりあえず、ヒマリに大きな不満はないみたいだね。本人にもそう伝えとくよ。それじゃ、お邪魔しました」
 僕は小さくお辞儀をして生徒会室から退出した。

 放課後、俺とアカネさんは2年1組に向かった。アカネさんは教室に着くと、腕を組んでうなった。
「さあて、誰に話しかけようかしらね。正直、誰に話しても変わらない気がするけど」
 俺は苦笑いした。どうやら本当に友達が一人もいないみたいだ。とはいえ、生徒会長なのだから顔は広いはずだ。ヒマリさんのことを知らない人はいないだろう。俺は教室の入口付近で談笑している二人組の女子に話しかけた。
「すいません、ちょっといいですか?」
「ん? 君、一年生? どうしたの?」
 俺は手短に予告状の話を説明した。
「2年生でヒマリさんに恨みを持ってそうな人は誰かいませんか?」
「そうはいってもねぇ……」
 二人の女子は困ったような顔でお互い見合った。
「正直な話、島崎さんと仲がいい人すらよく知らないんだよね。島崎さん、基本的にいつも一人だし。だから恨みを持ちそうな人なんて、全然想像がつかないのよ」
「休憩時間はいつも何をされているんですか?」
「ずっと勉強してるね」
 なるほど。同級生との関わりはほとんどないに等しいようだ。アカネさんの方をうかがうと、「でしょ?」という顔。何だか悲しくなってくる。もう質問することもないのだが、せっかくだから、調査という体でクラスでのヒマリさんの様子を教えてもらおう。どんなことであれ、好きな人の情報はやはり知りたいものだ。
「あの、お二人から見て、ヒマリさんはどんな方ですか?」
「うーん。真面目で、頭が良くて、ちっさくて、大人しくて、親切で、あとは……ちっさい?」
 大した情報がない上に、「ちっさい」が2回登場している。関わりがないと、やはり印象も薄いか。
「ヒマリさんに懸想けそうしている人とかはいらっしゃらないんですか?」
懸想けそう? こんなこと言っちゃあアレだけど、よほどの物好きじゃないと、あの子には惚れないでしょ」
「よほどの物好き?」
「例えば、その……ロリコン、とか」
 アカネさんから背中を叩かれて息を吹き返す。危ない、あまりに暴力的な言葉の響きに意識が飛ぶところだった。朦朧もうろうとしている俺の代わりにアカネさんがお辞儀をし、俺を連れて第2多目的室に引き返す。道中、俺は呪文のように「ロリコン、ロリコン……」とつぶやき続けた。

「ど、どうしたの、シオン? そんなにしおれて」
 戻って来たシオンは完全に魂が抜けていて、まるで呪詛じゅそのように何事かをつぶやいている。
「そっとしておいてあげなさい。多感な時期なのよ」
「はあ……」
 多感な時期って本当にこんな時期なのだろうか……そう思っていると、彼は下げていた頭をむくりと上げ、死んだ目で私を見ながらたずねた。
「ヒマリさん、ロリコンって、いけないと思いますか?」
「ロ、ロリコン!? えっと、その、いいんじゃないかな? まあ、その、私自身、ロリ、みたいなもんだし……」
「自分で言って傷つくんじゃないわよ」
 項垂うなだれる二人の後輩を、呆れたような顔でアカネさんが眺めていると、教室の扉が開いた。コーセーくんが帰ってきたのだ。
「ただいま……って、どうしたの?」
「そっとしておいてあげなさい。二人とも、多感な時期なのよ」
「はあ……」
 コーセーくんは不思議そうな顔をしながら席に座った。重たい雰囲気を変えるためか、話題転換を試みる。
「そういえば、ヒマリは調査に行ってきたの? 今日は直接部室に来たんだろう?」
「うん、昼休みに行った。まあ、その、色々分かったよ」
「色々?」
 私は暗い顔をしながら、大きくため息をついた。そう、色々、分かったのだ。








 
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